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第十七話:夜明けの誓い ~二人だけの温もり~

弥生さんの部屋の寝室。窓の外では、雨上がりの静かな夜が広がっている。月明かりが、カーテンの隙間から差し込み、部屋の中を淡く照らし出していた。俺の腕の中には、愛しい彼女がいる。さっきまでの喧嘩やすれ違いが嘘のように、俺たちは今、確かに一つになっていた。


彼女を抱きしめる腕に力を込める。華奢な体。柔らかな肌。甘い香り。その全てが、俺の心を狂おしいほどにかき乱す。離れていた時間によって募った彼女への渇望が、もう抑えきれなかった。

「……弥生……」

掠れた声で彼女の名前を呼ぶと、彼女は潤んだ瞳で俺を見上げ、小さく頷いた。その瞳には、不安の色はなく、ただ俺への深い愛情と、信頼が映し出されている。それが、たまらなく嬉しくて、そして愛おしかった。


俺は、もう一度、彼女の唇に自分の唇を重ねた。今度は、さっきよりもずっと深く、貪るように。彼女もまた、熱っぽく応えてくれる。絡み合う舌、重なる吐息。互いの存在を確かめ合うように、夢中で求め合った。

彼女の部屋着の柔らかな感触。その下にある、滑らかな肌の熱。俺の手が、彼女の体の曲線に触れるたびに、彼女は甘い声を漏らし、身を捩らせる。その反応の一つ一つが、俺の独占欲をさらに掻き立てた。


(……弥生さん……本当に、綺麗だ……)


月明かりに照らされた彼女の姿は、神々しいほどに美しかった。少しだけ開かれた唇、潤んだ瞳、上気した頬……。その全てを、俺だけのものにしたい。そう、強く思った。

俺は、彼女の首筋に顔をうずめ、その香りを深く吸い込んだ。そして、愛しさの印を刻むように、小さく、赤い痕をつけた。彼女が「んっ……」と、甘い声を上げる。その声が、俺の理性をさらに溶かしていく。


もう、言葉はいらなかった。

ただ、互いの体温を感じ合い、互いの存在を求め合う。

触れ合う肌の熱さ、重なる呼吸のリズム、そして、高まっていく鼓動。

それは、原始的で、純粋で、そして何よりも、深い愛情に満ちた行為だった。

俺たちは、この身体的な繋がりを通して、言葉以上に多くのことを語り合い、互いの存在の確かさを、そして離れられない絆を、確認し合っていたのだ。


どれくらいの時間が経ったのだろうか。

激しい情熱の嵐が過ぎ去り、部屋の中には、穏やかな静寂と、互いの荒い呼吸音だけが残されていた。

俺は、汗ばんだ彼女の体を、優しく抱きしめた。彼女もまた、疲れたように、しかし満たされた表情で、俺の胸に顔をうずめてくる。

「……航……」

小さな声で、彼女が俺の名前を呼ぶ。

「……はい」

「……好き……」

「……俺もです。……愛してます、弥生」


ありったけの想いを込めて、そう囁く。

彼女は、顔を上げて、涙で濡れた瞳で、俺を見つめ返してきた。そして、最高の笑顔で、もう一度、俺の唇に、優しいキスを落とした。


その夜、俺たちは、何もかもを曝け出し、本当の意味で一つになった。

それは、ただの身体的な繋がりではない。心と心が、魂が、深く結びついた、かけがえのない瞬間だった。

もう、何の不安も、迷いもない。

俺たちは、大丈夫だ。どんな困難があっても、二人でなら、きっと乗り越えていける。

そんな、確かな確信を胸に、俺は、腕の中で安らかに眠る彼女の寝顔を見つめながら、満たされた気持ちで、ゆっくりと目を閉じた。

窓の外では、夜明けの気配が、静かに始まっていた。


   *


窓から差し込む、柔らかな朝の光で、私は目を覚ました。

隣には、穏やかな寝顔で眠る航がいる。彼の腕が、優しく私の体を抱きしめていた。その温もりと、規則正しい寝息が、私を深い安心感で包み込んでくれる。


(……夢じゃ、なかったんだ……)


昨夜の出来事が、鮮やかに蘇ってくる。

彼とぶつかり合い、涙を流し、そして……深く、深く結ばれた、あの時間。

思い出すだけで、体が熱くなり、頬が赤く染まるのを感じる。恥ずかしい。すごく恥ずかしいけれど、でも、それ以上に、満たされた、どうしようもないほどの幸福感が、胸の中に広がっていた。


私たちは、ようやく、本当の意味で「恋人」になれたのかもしれない。

年の差とか、立場とか、そんなもの、もう関係ない。ただ、互いを想い合い、求め合う、一組の男女として。


そっと、彼の寝顔を見つめる。

まだあどけなさの残る顔立ち。でも、眠っていても分かる、その意志の強そうな眉。きゅっと結ばれた唇。そして、少しだけ伸びてきた、無精ひげ……。

その全てが、愛おしくてたまらない。


彼の頬に、指先でそっと触れてみる。少しだけ、ざらりとした感触。ああ、彼はやっぱり「男の人」なんだな、と改めて思う。その事実に、また胸が高鳴る。

昨夜の、彼の力強い腕、熱いキス、私を求める真剣な眼差し……。それらが脳裏に蘇り、体が疼くように熱を持つ。


(……もう……朝から、私、何考えてるんだろう……)


慌てて、そんな考えを打ち消す。

でも、彼への想いは、もう隠しようがないほど、私の中で大きく、そして確かなものになっていた。


彼を起こさないように、そっとベッドを抜け出す。シャワーを浴びて、少しだけ乱れた髪を整え、キッチンへと向かう。

彼の好きな、少し甘めの卵焼き。お味噌汁の出汁は、ちゃんと昆布と鰹節から取る。ご飯も、ふっくらと炊き上げて……。

彼のために、心を込めて朝食を作る。そんな、当たり前の日常が、今は何よりも幸せに感じられた。


やがて、リビングから、彼が起きてきた気配がした。

「……おはようございます、弥生さん……」

少しだけ寝癖がついた髪で、眠そうな目をこすりながら、彼はリビングに入ってきた。その、少しだけ隙のある姿が、また可愛い。

「おはよう、航。よく眠れた?」

私が微笑みかけると、彼は、昨夜のことを思い出したのか、顔を真っ赤にして、視線を泳がせた。

「は、はい……! おかげさまで……! その……昨日は……ありがとうございました……!」

しどろもどろになりながら、お礼を言ってくる。その初々しさが、たまらなく愛おしい。


「ふふ、こちらこそ。……さ、朝ごはん、できたよ。一緒に食べよ?」

「は、はい!」


二人で、食卓に向かい合って座る。

湯気の立つご飯、具だくさんのお味噌汁、ふっくらとした卵焼き、そして、簡単なサラダ。特別なものは何もないけれど、彼と一緒に食べる朝食は、世界で一番美味しく感じられた。


「……美味しいです! 弥生さんの卵焼き、やっぱり最高です!」

彼は、目を輝かせながら、勢いよくご飯をかきこんでいる。その食べっぷりを見ているだけで、私も幸せな気持ちになる。

「良かった。たくさん食べてね」


穏やかで、温かくて、そして、少しだけ気怠いような、幸せな朝の時間。

昨夜の、情熱的な時間の余韻が、まだ部屋の中に漂っているような気がする。

触れ合う視線、重なる笑顔。もう、言葉はなくても、互いの気持ちは十分に伝わっている。


(……ずっと、こんな時間が続けばいいのに……)


心から、そう願った。

もちろん、これからも、きっと色々なことがあるだろう。悩みや、すれ違いや、困難も。

でも、もう大丈夫。

私たちは、ちゃんと向き合って、互いを理解し、そして、支え合っていける。

あの夜、私たちは、そのための、一番大切なものを、確かめ合うことができたのだから。


食事が終わり、彼がコーヒーを淹れてくれた。少しだけ濃いけれど、彼の優しさが詰まった味がする。

窓の外を見ると、雨上がりの空が、どこまでも青く澄み渡っていた。


「……弥生さん」

彼が、カップを置き、真剣な目で私を見た。

「はい?」

「……俺、やっぱり、小説、書き続けます」

その瞳には、もう迷いはなかった。強い決意の光が宿っている。


「……コンテストの結果がどうなっても、諦めません。絶対に、プロの作家になって、弥生さんを、ちゃんと幸せにします」

「航……」

「だから……待っていてくれますか? 俺が、一人前になるまで……」


彼の、真っ直ぐな言葉。

それは、何よりも心強い、未来への約束だった。


私は、涙が滲むのを堪えながら、力強く頷いた。

「……うん。……待ってる。ずっと、待ってるよ」

「……ううん、待ってるだけじゃない。私も、一緒に歩く。航の夢を、一番近くで、支え続けるから」


そう言って、私は、彼の手を、そっと握った。

彼は、驚いたように私を見て、そして、最高の笑顔で、私の手を強く握り返してくれた。


雨上がりの、新しい朝。

私たちのラブコメは、確かな絆と、未来への希望とともに、再び、力強く動き始めたのだ。

きっと、最高のハッピーエンドを迎える、その日まで。

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