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陰謀論のセールスマン

作者: 花黒子


 21世紀初頭。東欧や中東では戦争が起こり、西欧では移民対策から右翼化していく国々が増えている。そんな中、日本では企業戦士たちの高齢化が進み、一向に世代交代をしない時期が続いていた。中国と米国、もしくは民主主義と共産主義の緩衝地帯にもかかわらず、国際社会から隔絶された島国だからか、日本には危機感がない。


 企業では未だに性善説を唱えている老人たちがいるが、当然、それほどサイバー環境は甘くない。

 官庁含め大手企業にもサイバー攻撃は断続的に続いていた。

 ランサムウェアなどの身代金狙いの攻撃に対しては保険が適用され、被害は少ないと思われていたが、システム全体を作り直さなければならないという企業も現れ始めた。


 そんな中で俺は、品川あたりのビルの会議室で、寝ていた。

 ブルートゥースじゃないイヤホンからは個人情報が流出してしまった企業のお偉方が謝罪している。テロリストに毅然とした態度をとっていたIT企業だったが、裏でずっと身代金を支払っていたことが発覚。社長以下専務等の役員の退陣が決まった。

 

『お疲れさまでした』


 フリーのメールアドレスに、今謝罪している会社の社員から連絡が来た。


 この30年。日本はあまりに世代交代に時間がかかり過ぎた。どうにか責任の所在をあやふやにしてきたとも言う。それがネットによってすべてつまびらかになっているというのにも関わらず、老人たちはデジタル技術をなかなか理解しない。


 正直、営業は簡単だった。


「企業の世代交代承ります」

 とネットに広告を出しておくだけ。


 一日だけで、100件以上の問い合わせが来た。特に契約はしない。単純に暗号資産が振り込まれた時点で仕事に取り掛かる。

 と言っても、それほど作業があるわけではない。企業戦士たちがくれた情報を元に、その企業の陰謀論を創作。ネットの海に流すだけ。

 現代にも石川五右衛門や鼠小僧、ロビンフッドなど義賊だと思っている庶民たちは多い。もっと言えば、共産圏や社会主義国には確実にいる。

 アメリカ産が放っている自由と平等という思想は根深く、映画やゲームを通してしっかり広がっている。国と戦う鬱屈とした気持ちを抱えた彼らの目に入るところに、企業の情報を置いておけば、勝手にサイバー攻撃をしてくれる。そこから情報提供者、プランナーとしての報酬が支払われる。


 ちなみに、日本の組織では人権問題について何も考えていないところが多いので、ほとんど陰謀論などではなく事実を公表した方が楽ではある。企業戦士たちの頭にはセックスのことしかないらしい。いや、日本のネットメディアを見るとポルノサイトの広告も出てくるくらいだから、国民のほとんどがポルノ中毒なのか。


 今もセキュリティ会社を装って企業のデータ解析をしているが、ほとんどAIに任せて俺は寝ている。隣の会議室では、女性社員と男性役員がダブル不倫をしているところだ。

 そのために品川で借りているのだろうか。無駄な金を使い過ぎている。

 今のうちにこんな会社の株は空売りをしておこう。


 それにしても、なかなか陰謀論は売れない。陰棒論に切り替えた方がいいかもな。



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