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09 勉強を教えて

「……そうなんですか。ディリンジャー先輩は、生徒会にどうしても入りたかったんですね。確かに先輩の言う通りに内申も良くなりますし、卒業後の就職先には困らないですよね」


「う、うん」


 イエルクの純真な真っ直ぐな視線は、あの謎行動を説明する理由を並べた私のことをすごいすごいと言わんばかりで、なんだか心が痛む。


 ここで、少々私の事情を誤魔化してしまったところで、別に投獄される訳もないんだけど……嘘をつくのは、前世から苦手だ。


 素直な性格のイエルクは『私は出来れば、二年生では監督生になりたくて、実力テストで一番になりたいから、神童と呼ばれているイエルクくんに勉強を教えて欲しいんだよね』という、私が作った苦し紛れの嘘を、すんなりと受け入れてくれた。


 高等部になって、ようやく魔法学園に入ったイエルクは色々と事情あり田舎暮らしを続け集団生活に慣れてなく、人馴れをしていないから誰かの言葉を疑うことをまだ知らない。


 魔法界の義務教育は、中等部までは自由で高等部の三年間のみなのだ。あとは、魔法大学に進むのも就職するのも、その子の自由になる。


 そういえば、イエルクはゲーム内ではフローラと仲良くなった後も、彼女以外とは仲良くならなかった。


 きっと、純真な彼女と初めて仲良くなって、周囲からイエルクを見る目が変わり、色々とあって警戒することを覚えたからなのもしれない。


 だから、多分……私に向けるイエルクの好感度って、10くらい? それ以下? まだまだわからない。うーん。さっき名前を知った程度だもんね。


 イエルクという希望は奇跡的に繋がったんだから、これから、どんどん好感度を上げていきたい!


「そうそう! そうなの。変なお願いしたのに、引き受けてくれて、ありがとう。イエルクくん。私、勉強苦手て……けど、同級生に教えても言えないでしょう? 困ってたから、助かる……!」


 最後の困っていたは、本当に本音。困ってたの。本当に、助かるー!


 もう無理だし、絶望でしかないと思ってからの、まさかの救いの手だったから、九死に一生スペシャル並みの奇跡だよ!


 実際のところ、私と同じ学年には、万年首位のエルネストが居るから、たったひと月で彼から首位を奪い取るということは不可能に近い。


 正攻法で生徒会に入るのは、絶対に無理なんだと思う……でも、勉強を教えてとお願いしてイエルクと親しくなれるなら、とりあえず……このラインで、どんどん攻めて行きたい。


「いいえ。大丈夫ですよ。実力テストの結果次第ですが、僕ももしかしたら生徒会に入るかもしれないので……ディリンジャー先輩と一緒ならとても心強いです」


 はにかみながらそう言ったイエルクの笑顔が可愛い。


 ……え。待って。今、ときめいたかもしれない。さすが、乙女ゲームの攻略者。


 けど、入試の成績が首位で入学生代表を務めたイエルクの言葉をもう一度噛み締めて、ここまでそれに気が付かなかった私が間抜けすぎて、自分の頭をぽこぽこと叩きたくなった。


 っ……私の馬鹿ー!


 イエルクは当然のように生徒会入りするし、そつなく優秀なヒロインフローラだって、ゲーム関係なくそうなる可能性も高い。


 だとしたら、私だって生徒会に入れば、仲良くなりたい二人と行動も共に出来るし、良いことづくめなのでは?


 それが目的の乙女ゲームだから、アクィラ魔法学園生徒会入りさえしてしまえば、生徒会のみの特別な行事だったりも多く、そこでイエルクとフローラの好感度だって上げることが出来る!


 エルネストとオスカーの二人は、私が生徒会入りすればとても嫌がるだろうけど、そこはもう貴方たちには一切興味ないですからと引いて、可愛い年下のイエルクとフローラを延々構っていれば良いのよね。


 二人だって、彼の意向を尊重することもなく手段を選ばすロゼッタがエルネストに熱烈に迫っていたから嫌だった訳で、今の私の関心がフローラとイエルクの二人と仲良くなりたいということなら、彼らにはもう関係ないはず。


 そもそも、エルネストとオスカーは攻略対象者になるくらい素敵な人なのだ。もうロゼッタの目的が違うと知れば、きっとわかってくれるだろう。


 そうだよ。生徒会入り……頑張ってみようかな。


「……ディリンジャー先輩、それではまた明日の放課後、図書館で」


「イエルクくん。ありがとう。また明日、図書館でね」


 無表情が標準のイエルクは、私に軽く挨拶をしてから、男子寮へと帰って行った。


 女子寮と男子寮は学園の中で言うと正反対の位置にあるので、そこへ戻るにはかなりの距離がある。


 それなのに、自分と喋っていると暗くなってしまったから、イエルクがさりげなく送っていてくれたことに気がつき、胸がきゅんと、ときめいてしまった。


 え。まだ出会ったばかりなのに、優しい。


 当たり前のことなのかもしれないけど、ロゼッタの周囲が彼女に優しくない男ばかりだから、やたらと際立つ。兄も第二王子もその友人も酷い扱いだったし!


 イエルク……私には、好感度が唯一マイナスではない貴方しか居ない。


 親しくなって、リッチ先生の企みを防ぐのを協力してもらうのは、貴方に決めるわ!


 袋小路だと思っていた道すじに突破口が見つけられて、よーしと機嫌よくなった私は女子寮の寮番、三頭のケルベロスに挨拶をしてから扉を開いた。


 今日は三頭とも機嫌良いみたいで、帰寮が遅くなったのに、ねちねちと嫌味は言われなかった。良かった。


 とは言え、生徒会に入るための条件としては①実力テストで学年一位になる②同じように闘技大会で学年一位になる③学年主任の先生から推薦を貰う、の3つしかない。


 私の学年には、エルネストとオスカーが居るので①②は、もう絶対無理だとすると、裏ルートとも言える③しかない。


 実はゲーム内でのロゼッタは来年、フローラがエルネストルートを選んだ時のみ、③を使って生徒会入りすることになる。


 三年生になった時の学年主任は、賄賂の利く先生なので、ロゼットはディリンジャー家の両親に頼み『必ず殿下と親しくなるから』と約束をして先生に巨額の賄賂を渡すのだ。


 けど、二年生の学年担当は、規律については厳格で知られる魔法薬担当のエッセル先生。


 各パラメーターが足りなかった場合は、③を敗者復活戦で使える学年の違うフローラとは、違う学年主任の先生。


 もし、エッセル先生の推薦をどうにかして受けたいなら、どんな条件かはわからないけど、彼に「生徒会に入りたいから推薦してください」と、頼み込んでみるしかない……。


「ロゼッタ様、おかえりなさい」


「……ステファニー。こんばんは」


 私が二年生になってから、ほぼ話していない元取り巻きステファニーに話しかけられ、私は微笑んで彼女へ挨拶をした。


「最近は、エルネスト様とは、お話されないんですね」


 今日、挨拶だけしたら瞬殺されたけどね。絶妙にイラつく質問をされて、私はにっこり微笑んだ。


 イラついても、何も良いことはない。平常心よ平常心。


「ええ。私もそろそろ大人になったのよ。報われない恋は、諦めるべきではないかと考えたの」


「もしかして……誰か違う方が、居るということですか?」


 あ。私がエルネストを諦めた様子だから、ステファニーは何が原因なのかと、気になったというところかしら?


 関係ない私なんて放って置けば良いのに、魔法学園の学生って、ずいぶんと暇なのね。


「そうなの! 入学したばかりの年下の男の子なんだけど、すごく可愛いのよ。エルネスト様は王族で第二王子だし、私も高望みをし過ぎてしまっていたわ。身近な男の子の方が、話しやすくて良いわね」


 イエルクのことを好きかと言われると、それは微妙なんだけど私は、これから周囲から見てそういう行動を取っていると思われると思うし。


 ……それはそれで、彼女たちにも、誤解されても良いことにしよう。


「えっ……本当なのですか。あんなにもお好きな様子だったのに、ロゼッタ様はエルネスト様のことを、完全に諦められたのですか?」


 いくら好きでも、好感度マイナス数値MAX100スタートなんて、そうそう頑張れないわよ。


「ええ。その通りよ」


「っ……おやすみなさい。ロゼッタ様」


 ステファニーは、一瞬口ごもり動揺した後挨拶もそこそこに、廊下を走って行った。


「おやすみなさい……ステファニー」


 彼女にはもう聞こえていないと思うけど、一応挨拶を返した私は、何をそんなに動揺したの……? と、首を捻るしかない。


 ステファニーは、何かに驚いていた……? 元々取り巻きをしていた私が、180度の方向転換をはかったと思って、驚いただけよね?


 まあ……良いわ。


 とにかく、私は生徒会顧問エッセル先生から、生徒会に推薦して貰える条件を聞き出さなければ……!



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