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08 奇跡の大逆転

「おはよう。君って……イエルク・アスティという名前なんでしょう? 良い名前ね。新入生よね」


 くるくると癖のある黒髪のイエルクは、まるで人形のような端正な顔に、血のような真紅の目を持っていた。


「……」


 三人目の攻略対象者イエルクは、話しかけた私を見て居ることを確実に認識をしたはずなのに、特に完納をすることなく、すたすたと先へと進んだ。


「私……二年生で、ロゼッタ・ディリンジャーよ。よろしくね」


「……」


 自己紹介しても無言でスタスタと歩きを進めるイエルクは、必死に彼についていく私の話を聞いてくれる気はないみたい。


「……ごめんね。急いでいるのに」


 ……私。今。心が、ポッキリと折れた。見事に折れた。話掛けても何も返さない人に話掛けるって、メンタル強くないと無理だと思う。


 よくよく考えてみると『イエルクは、ヒロインただ一人にしか心を開かない』っていう、あの彼女しか愛せない設定……あったあった。


 嘘でしょう……え。なんだか、思っていたよりも、全然無理だった。


 そもそも、ゲーム開始から嫌がられている悪役令嬢のロゼッタが、ヒロインの代理で攻略対象者と仲良くなろうと思うこと自体無理があった。


 詰んだ……無理だった。


 好感度マイナス100とマイナス80と、話したこともない初対面だから多分、好感度0だとしても、これから話を聞いてくれる気もないのなら、マイナス100と同じことだわ。


 どうしよう。無理……詰んだ。


 とにかく、フローラを守ってくれる存在は、攻略対象者は諦めましょう……私、どうかしてたわ。


 そもそも、そんな三人は親しくなることすら、無理だろうと思っていたからこそ『私に魔法界を救うなんて、無理かもしれない』と思って悩んでいたはずなのに。


 努力と根性さえあれば、困難を打ち砕けるかもみたいな儚い幻想なんて……ある訳がなかった。


 とにかく……今は一度この案件を持ち帰り、再度今ある条件を吟味して改善案を再検討して、魔力の強そうな新たな誰かと仲良くなることを、目指す必要性があるわね。


 うう。春なのに、なんだか風が冷たい……。


 続けざまに三人の男性に冷たくされた私は、落ち込んでとぼとぼと寮への道を歩いていた。


「……あの」


「え?」


 急に背後から、声を掛けられて振り向くと驚いた。


 そこに居たのは、イエルク……? さっき完全無視をしていた私を追いかけてきた様子だった。


 ……え。なんで? さっきは、何も答えずに、私のことを無視していたのに?


 私の戸惑いを察したのか、口下手なイエルクは懸命に話し出した。


「ディリンジャー先輩。無視してしまいすみません……けど、あの場で僕と話していたら、もしかしたらディリンジャー先輩が、悪く言われるかもしれないと思って……」


 悲しそうな表情を見て、戸惑うしかない私。どうして? 話しただけで、私が悪く言われてしまうの?


「え……どういうこと……? って、あ」


 完全にゲーム内容を忘れていた私は、イエルクのある設定を、思い出した。


 なにせ、イケメンとの甘い会話楽しい~みたいなノリで、乙女ゲームを緩くしか楽しんでいないエンジョイ勢なので、こういう細かな設定を忘れてしまっている。


「だから、もし辛い思いをさせてしまったら……すみませんでした。何か、僕に御用でしょうか?」


 自分が無視することになって、その後で私が落ち込んだ様子で歩いていたから、無口で無表情だけど、実は優しいイエルクは、慌てて声をかけて来てくれたんだ。


 ……そうそう! そうだった!


 イエルクは幼い頃に両親を亡くして、親と懇意で引き取ってくれたドワーフに育てられた。


 そして、勉強熱心ですぐに神童と呼ばれてしまうくらいに住んでいた場所で頭角を表すことになり、頭も良くてその上に魔力も強かった。


 だから、周囲から相当妬まれて、養い親ドワーフの魔力を吸い取って成長したんじゃないかとか……事実無根な噂を、流されてしまうのよね。


 イエルクはその時にはまだ幼くて、そんな訳があるはずないのに。


「あ。気にしてくれて、ありがとう……実は私……」


 ここまで来て、急に『良かったら、私と仲良くなって欲しいの』という台詞が、ひどく恥ずかしいものに思えた。


 確かにイエルクには、そうなって欲しいんだけど……仲良くなって欲しいって、何なの?


 誰かと仲が良いって、別に宣言してから仲良くなるものでもないわよね? 話しているうちになんとなく親しくなって、だんだんと仲良くなってという過程が大事だよね?


「……はい」


 話の途中で言葉を止めてしまったために、イエルクは不思議そうに首を傾げて、私の発言を待っていた。


 良い子なのだ……良い子だけど、ここで何か変なこと言えば、またエルネストやオスカーみたいに嫌われちゃう……嫌われたくない。


「私……イエルクくんに、勉強を教えてもらいたくて!」


「……え?」


 イエルクのぽかんとした顔を見てしまったと後悔したけど、後の祭りだった。


 仲良くして欲しいの代わりに何を彼に頼もうか迷いに迷った挙句、入学したばかりの新入生イエルクに、勉強を教えて欲しいとお願いする、よく分からない上級生になってしまった。


 なんなの。もう……恥ずかしい。

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