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27 関係性

「あっ……」


 会場の奥……中央にある玉座……つまり、この場で一番身分の高い王太子殿下が座っているはずの場所に居る人を見て、私は思わず変な声を上げてしまった。


 え。嘘でしょう。あの人……見た事ある……っていうか、話したこともある……。


 周囲に居るアクィラ生徒会の面々は私が声を漏らして立ち止まったことで『何があったのか』と言わんばかりの不思議そうな顔で私を見たので、慌てて口を手で押さえた。


 え、あの人って、王太子殿下なの!?


 前に……白い竜に、乗っていた……リッチ先生の企みを防止出来たら、私と世界一周行っても良いよって言ってくれたあの人だ!


 白い竜の使い魔を持っていたし、絶対にただの魔法使いではないとは思って居たけど……第二王子エルネストのお兄様で、王太子殿下だったんだ。


 弟エルネストにはあまり似ていないけれど、美しい顔には、意味ありげな微笑……これは、私のことを……絶対に気がついているよね?


「……兄上。失礼しました。申し訳ありません」


 生徒会メンバーの一人である私の粗相を、会長エルネストが代わりに謝ったけれど、王太子殿下は鷹揚に頷いてにっこりと微笑んだ。


「構わん。予定より少々早く会えてしまったが、僕はちゃんと約束を覚えているぞ」


 エルネストは意外過ぎる兄の言葉を聞いてから、後ろで息を殺していた私を振り返った。


「ロゼッタ……兄上に、会ったことがあるのか?」


 魔力が強くそれゆえに二色の魔法を使うことの出来る王太子殿下はあまり、公の場に姿を現すことはない。魔法学園にだって通う必要のないくらいに優秀過ぎたし、なんでも人嫌いのようなのだ。


 今回優勝賞品授与だって、多分弟のエルネストが出場するからきまぐれで了承してくれただけで……本来ならこういう場所には、本来ならば弟王子たちが出て来るはずだった。


「えっ……ええ。そうですね。はい。一度だけ……ええ。少しのお時間でしたが」


 あの時に会った私には正体を隠して居た、王太子殿下。出会った時の状況を話して良いものか私は悩み、真っ正面に居る彼をチラッと見上げた。


 やっぱり、おかしいくらい顔が良い。


 彼はエルネストの兄でしょう……?


 私の記憶によると乙女ゲームでは、出てこないはずのキャラだったはず……けれど、これだけ主役然としている人なら、隠しヒーローでもおかしくないと思う。


 だって、モブにしては、造形に気合いが入り過ぎだもの。おかしいくらいに格好良いのよ。


 王太子殿下の持つあまりの覇気に、存在自体かき消されてしまいそうなモブの三年生の先輩たちを私は横目でそっと確認した。


 そうそう。この安心感……絶対、モブではないよね……エルネストの兄って、そんなに重要キャラだっけ……?


 ゲームでは本当に見たことがないし、私の記憶では話にもあまり出てこなかった気がするし……。


 ……もしかして、恋色2とかが私の知らないところで作られて、そのメインヒーローならば納得出来るかも。前世のことだし、もう確認しようもないことだけど。



「ああ。ロゼッタに会ったのは、確かに一度だけだな……だが、世界旅行するのは、嘘ではなかろう。ロゼッタがそれを、希望したのではないか」


「そっ……その通りです……希望いたしました」


 私が彼にそう希望しました……あまりに世界の食べ物が美味しくなさ過ぎて、世界中の美味しいものを食べに行けるなら、不可能に思えるような……悪役令嬢が魔法界を救うっていうルートも、頑張れそうな気がして……。


「……兄上。ロゼッタ・ディリンジャーをと、一体どのような関係なのですか?」


 エルネストはやけに親しげな態度を見せる王太子殿下に、私たちの関係が不思議になったらしい。


「気になるかエルネスト。何。新婚旅行は、魔法界一周にしようと約束した仲だ」


 王太子は楽しげにそう言ったけれど、私以外の周囲に居る全員がざわざわとざわつき、恋愛関係の話が大好きなフローラは嬉しそうに高い悲鳴をあげていた。


 そして若干の距離を空けていた……止めて! 私、結婚するって聞いてないよ!


「いえいえ。旅行はしようとお約束しましたが……!」


 私の知らないところで、明日の魔法界トップニュースになってしまう……これは、変な事になって来た慌てた私は、王太子の話を否定しようと手を横に振った。


「兄上……それは、本気なのですか?」


 慎重に言ったエルネストは、好奇の視線をこちらに送る周囲を見渡していた。


 そうだよね。本気ではないよね。本気ではないって言って!


 王太子殿下の思わぬ爆弾発言に周囲はざわめくし、その相手であるはずの私だって、なんと言って良いものかわからずに固まって居た。


 ここで否定すると、不敬にならない? エルネストはただ優しいから、以前のロゼッタのことを許してくれていたけれど、本来なら王族って逆らってはいけない人なのよ!


「僕は、嘘は言わぬ。ロゼッタの家はディリンジャーなのか。魔法界でも歴史ある名家だ。丁度良い。僕に婚約者は居ないし、二人がどうなろうが何の問題もない」


 ええええっ……色々問題あり過ぎると思うし、ディリンジャー家の両親だって王太子殿下とロゼッタが結婚出来るなんて、絶対に考えてもいないですよ!?


 これはとんでもないことに巻き込まれてしまったかもしれないと、顔を青くした私は、この場から消え去りたい気持ちでいっぱいだった。


 魔法学園なんだけど、そういう魔法は使えないはずだ……瞬間移動が出来てしまうと、色々と不都合あるもんね。


 止めてー!! どうして王太子殿下は、あんな事を言ったの?


 本当に意味がわからないし、王太子妃なんて面倒くさそうで絶対に嫌だし、両親がエルネストを狙えっていうのも、第二王子だったからだし……。


「ロゼッタ……兄上と、婚約するのか?」


 さっきから呆然としているエルネストは驚きに満ちた声を出して振り向いたけれど、そんな訳はないです。そんな訳がある訳はないです。


 ディリンジャーは確かに名家のひとつだけど、王太子と結婚が出来るほどではないです。


「いえいえ。エルネスト殿下……嘘に決まっています。王太子殿下はご冗談が、お上手で……もう」


 なんと言って誤魔化して良いものか、内心ひやひやしながら私は棒読みで答えていた。王太子殿下は楽しそうだけど、私は本当に居たたまれないよ!?


「そうですよね。ディリンジャー先輩は、王子と結婚なんて面倒だって、前に言ってましたもんね」


 イエルクはぼそりと呟いたけれど、それって、今言う必要ないよね!?


「いやいや、面倒などなかろう。ただ、僕と結婚するだけだ」


 私はその時に気がついた。王太子殿下、完全に楽しんでいる。私のあわてぶりだって、きっと。


「もー!! やめて下さい! 私にはもっと大事なことがあるんです!」


 リッチ先生の企みを防いで、魔法界を救うんです! それをなんとかしないと、王子様と婚約なんて考えられる訳もないよ!


「いやいや……ロゼッタ・ディリンジャー。男女二人で世界中旅行するなら、どのような関係性で行くつもりなんだ。僕たちが違うと否定しようが、誰もが誤解する事になるぞ」


 王太子殿下はムキになっている私を見て、楽しそうに笑っていた。


第一部 完




最後まで読んで頂きありがとうございました。もし良かったら、評価をよろしくお願いします。


また、別の作品でもお会い出来たら嬉しいです。


待鳥園子


※今日から別の長編新連載はじまります。良かったらページ下部リンクからどうぞ!

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