21 魔法学園対抗戦
夏休みが終わるとすぐに、メインイベントの一つ『魔法学園対抗試合』がある。
四つの学園の代表が揃って、対抗試合を行うのだ。代表ってつまり、生徒会のこと……私たちのことなんです。
今回、私たちはあまり出番はない。
何故かと言うと、二年生で生徒会長エルネストと副会長オスカーが主力になるし、生徒会で完全にモブになってしまっている三年生の先輩も流石に出てくる。
会場は色々と大人の事情なのか、王族貴族が多く通うアクィラ魔法学園での開催だ。
だから、私たちはいつも通っている学園で観戦出来るし、三つの魔法学園の生徒会が打ち揃うことを待つことになる。
そして、一年生ではただ、楽しく観戦するだけのイベントになってしまっている。
言い切ってしまうけど、これも共通ルートでの、ヒーローたちの格好良いスチルを鑑賞するためだけのイベントだからです!
……乙女ゲームの舞台なのだから、それも当たり前の話だった。
来年はヒロインエミリーが、必要あって色々と頑張ったりするイベント『魔法学園対抗戦』でもあるんだけど、今年はあくまでエルネストとオスカー、そして、イエルクの格好良いところを観ようねというイベントなだけだ。
生徒会の面々は、今は魔法闘技場のアクィラ生徒会に用意された控室に居るはずだ。
忘れ物をして一人だけ控室の入り時間に遅れていた私は、目的地まで早足で急いでいた。
「ロゼッタ・ディリンジャーさん!」
唐突に自分の名前が呼ばれて、私は周囲を見渡した。そこに居たのは、茶髪に垂れ目の美女。
……ん? この人って、もしかして、オスカーが女性に触れなくなった原因の、お姉さんでサリーさん?
「……何か、私にご用でしょうか?」
こうして急いでいるところを呼び止めたのだから、私に用事があるのだろう。
ゆっくりとこちらへ近づいて来るサリーに、少しイライラしてしまった。
だって、私が今、急いでいるのをわかっていてそうしているなら、彼女はとても性格が悪いなって思ってしまって。
「……私。オスカーのことが、とても好きなの。だから、彼に近付かないでちょうだいね」
あ……これって、ヒロインのフローラが受けるはずのイベントなのかもしれない。確か生徒会入りして、彼の近くに居る彼女に牽制しに来たのよね。
「あの、どちらの誰ですか? お名前もわからない方の一方的な要求を聞けると思っています?」
私は前世の記憶で知っているんだけど、彼女からは自己紹介は受けていない。一方的に名前を呼ばれて、こう言うことをされると、とても不快でしかなかった。
「私はオスカーの義姉サリーよ。彼とは血は繋がっていないから、余計な勘繰りはやめてちょうだい」
「それは……理解しましたけど、私はオスカー先輩とは好きな時に話します。別に肉親からの要請だからと貴女の言うとおりに動かなければならないと言う理由だってないので」
オスカーの家も貴族だろうけど、私のディリンジャー家だって立派な貴族で彼女の要求を呑まなければならないと言うこともない。
「……後悔するわよ!」
「私……少々急いでおりますので、失礼します」
私は貴族らしくカーテシーをすると、怒った表情を隠さないサリーの返事を待つこともなく背後を振り返って先へと進んだ。
すごい……私だってサリーと同じように、貴族のお嬢様ではあるけど、あんなにまで傍若無人ではないわよ。
……ううん。前世の記憶を取り戻すまでは、違っていたかもしれないけど。
だって、ロゼッタは悪役令嬢だったもの。




