02 ゲーム紹介
私が生まれ変わった転生先は、『恋色★魔法学園』の悪役令嬢として登場するロゼッタ・ディリンジャー。
魔法界では、そこそこに有名な貴族、ディリンジャー家の長女。
ちなみにこの魔法界には、四つの地方、四つの魔法学園が存在し、それぞれ東のアクィラ、西のファルコ、北のグーフォ、南のエグゼッタがある。
『恋色★魔法学園』と呼ばれる乙女ゲームの主な舞台は、東のアクィラ地方に位置するアクィラ魔法学園だ。
四校には特に格の違いなどはないけど、王族や貴族裕福な平民が通うのは、アクィラとファルコが多い。
一番数の多い平民が集まっているのは、グーフォ。
人間界で産まれても、突出して魔力が強く魔法使いになるべくスカウトされた子は、エグゼッタに通うことが多い。
そして、『恋色★魔法学園』のゲーム名に相応しく、各属性で分けられた色の名前のクラスで、私たちは魔法を初歩から勉強することになる。
たとえば、私は生まれ持った属性は赤だから、赤クラスで赤魔法を学ぶ。
我がディリンジャー家は伝統的に赤魔法使いが多いから、属性は親の遺伝などの影響も大きいみたい。
赤・黄・青・緑・白・黒と、6つに分けられて、それぞれのクラスで初等部から勉強する。
なぜかと言うと共通して勉強する教科も多いけど、属性毎に学ぶべき教科や魔法だってあるから、そのため効率化するために各自生まれ持った魔法の属性で分けられるようになったらしい。
ちなみに、人間界出身のヒロインフローラは、白魔法を学ぶため白クラスに所属している。
彼女はとても重要な役割を担うヒロインなので、白魔法の上級魔法、光魔法だって、ゲームが進んで行けば使うことが出来るようになるのだ。
いわゆるあるあるな聖女ポジションと言える。
このように、各色属性の上には、それぞれ上級魔法が存在し、極まれに二属性や三属性の魔法を使うことが出来る魔法使いが居るらしい。
けれど、彼らには珍しい特別な体質を与えられた代償のように、どんなに頑張っても各属性の上級魔法は使えなくなってしまうそうだ。
乙女ゲーム『恋色★魔法学園』の世界観の説明はこれくらいにして、悪役令嬢ロゼッタの私が、前世の記憶を取り戻したのは、ゲームが始まる入学式のほんの一週間前。
つまり、私はヒロインフローラが、魔法界第二王子エルネストを選んだ場合、彼女の恋路を邪魔する悪役令嬢として登場する、良く乙女ゲーム界隈に居るような高慢ちきで意地悪で嫌味なヒロインフローラを虐める担当の貴族令嬢だったのだ。
実はエルネストには共に入学した初等部の頃から相手にもされていないのに付き纏っていて、今ではもう挨拶をしたとしても無言で氷の視線を向けられ、何を話しかけても開口一番から「俺にはもう近付くな」と言われてしまうくらいに嫌われてしまっている。
悪役令嬢ロゼッタはそれほどにまで、第二王子エルネストに執着していた。
彼から私への好感度を測れば、きっとマイナス100に近いと思う。
好感度マックスが100なので、これは逆のマックス値……あら不思議。バッドエンドしか見えない。いえいえ。もし、悪役令嬢ロゼッタがこのゲームのヒロインならばという前提だけど。
ふふふ……いいえ。これって、全く、笑えないよね。他人事のように言っているけど、まぎれもなくこれは私自身のことなんだから。
しかし、そんな私は記憶を取り戻すほんの一週間前の終業式まで『エルネスト殿下ったら、照れちゃって……私が好きだから、なかなか素直になれないんですね★』などと、自分へ冷たい視線を向ける彼に、ハート型の目で見つめくねくねしながら迫っていたのだ。
嫌われるにも無理はない。やめて。その光景、本当に痛い……ついでに、本当に頭も痛い。
ロゼッタとして生きて来たこれまでの記憶の中には、そんな恥ずかしい醜態を周囲に晒してしまったたことは、バッチリと残っている。
そんなあれやこれひどい有様をこの自分がやらかした事だと思うと、今すぐに夕日に向かって走り出したくなる。恥ずかしい……もう、過去は変えられないし、どうしようもないけど。
攻略対象者には、エルネストと同じ生徒会二年生のオスカーと、フローラと同じく、一年生で幼い頃から魔法界で神童と呼ばれて、危なげなく同時に監督生入りするイエルクが居る。
乙女ゲーム『恋色★魔法学園』のメイン攻略対象者は第二王子エルネスト、魔剣士オスカー、神童同級生イエルクの三人だ。
確か、このメインの三人の他にも隠しヒーローが、居たはずだけど……各パラメーターマックスで三人の好感度もマックスにならないと起きない逆ハーレムエンドを達成しないと、そもそも隠しヒーローの居るルートへの分岐の選択肢を選ぶことが出来ない鬼畜仕様になっていた。
だから、ゲームガチ勢でもなく乙女ゲーム系は満遍なく楽しんでいたエンジョイ勢の私には、それが誰かなのかは知らないままで、こうして転生して来てしまった。
そして、ここで悪役令嬢の役目を果たすはずだった私にとって、大事なことはひとつだけ。
アクィラ魔法学園を舞台とする乙女ゲーム『恋色魔法学園』は……まず、始まってもいないから、キャラや恋愛イベントの知識があっても、どうにも使いようがないってこと。