18 夏合宿
私たちは夏休みに入る当日、そのまま夏合宿へと向かった。
引率の生徒会顧問、エッセル先生は私たちを合宿所まで連れて行くと『交流をして、楽しんでくれ! 解散!』と、自分は木と木の間にロープで繋がれたベッドで爆睡していた。引率とは。
そんなので大丈夫なのと心配になるけど、生徒会に入れるってことは、学業優秀品行方正であることが第一条件だから、こんな感じでもトラブルは起こっていなかったのだろう。
そして、南に位置するこの島は暑くて、男子三人は水泳でもしようと水着を着て砂浜に行った。
フローラは庭師であるルークのために、南国にある植物をスケッチしに行った。
好きな人に喜んで貰いたくて、一途だし……本当に良い子。そうなの。乙女ゲームの、ヒロインなんだけど。
私は砂浜で楽しんでいる三人の姿を遠目で見て、今ここに居る自分しか楽しむことの出来ない光景をじっと見つめた。
今ここにある、サービススチル。
写真でも撮って売り出したら、きっと、高値で売れるかもしれない。その後、闇の組織によって消されるかもしれないけど……。
私たち生徒会は、五人夏休みの開始一週間ほどをこの合宿所で過ごし、そして、帰寮して夏休みの宿題を終わらせたりする。
そして、良くわからないことに、誰かが決めたスケジュールをこなしたりしなければいけないのだ。
初日の今日は、島にある洞窟の中で、ちょっとした肝試しをする予定になっている。
とは言っても、小さな洞窟だし、すぐに行って帰って来られる。
ゲーム内ではフローラはヒーローの誰かと行っていたような気もするけど、今回は彼女は別に確固たる想い人が居るので何か変な伝わり方をして誤解されたくないと思ったのか『そういう感じ、私は間に合っているんで』とばかりに一人で行って来ることになった。
「レオーネ……遅いな……どうしたんだろう」
先に行って帰ってきた私たちは、なかなか帰って来ないフローラのことを不思議に思った。
唯一、二股に分かれた道もあるんだけど、右へ進めばすぐに行き止まりで、そこに事前に用意された石を持って帰れば、行って来たという証明になる。
だから、石を先に行ってきた私たちは持っているし、本当に短い肝試しだから、フローラだって五分程度で帰ってくると思っていたのだ。
そして、間抜けな私はフローラがとんでもない方向音痴だと言うことを今更ながらに思い出した。
「あの……もしかして、フローラさん、迷ったのではないかしら……?」
おそるおそる口にした私に、三人ともぎょっと驚いた顔になった。
「まさか、そんな……! ほぼ一本道で、しかも短距離だぞ?」
エルネストはあり得ないだろうと言ったけど、私はそれがあり得てしまう理由を知っていた。
「意中の庭師に会った時、あの子、寮に帰る道で迷って、庭園にまで迷い込んでしまっていたんです。そこを助けてもらって、知り合ったとか……」
「えっ……嘘だろう。どれだけの道を間違えたら、そんなことになるの?」
オスカーはフローラのあまりの方向音痴振りに戸惑った様子だった。
「そうですよ。寮と庭園は、校舎を挟んで全く逆方向ですよ……それに、その間にはいくつも表示があるはずです。まさか」
「そうだな。ロゼッタの言う通りだ……それほどまでに方向音痴なのなら、俺たちが想像を絶する迷い方をしているのかもしれない」
私が何を言わんとしているかを、他の三人もわかってくれたらしい。
アクィラ魔法学園内は広い。けれど、表示がいくつもあるし、気をつけて進めばそんなに迷うこともない。
けれど、度が過ぎた方向音痴のフローラはそこで迷い、そして、明後日の方向へ行ってしまっていたのだ。




