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17 乙女の買い出し

「ロゼッタ先輩って、好きな人……居ないんですか?」


「うーん……好きな人は、居ないかな」


 二人で街に出て通りを歩いていたら、フローラが私に楽しそうに尋ねて来た。きっと、私と恋話をしたいと思ったんだと思う。


 完全に恋をしている乙女を見て、私は複雑な気持ちになる。エルネストとかオスカーとか……イエルクには、全く興味ないですよね。


 もし、少しだけだとしても興味があったら、彼ら三人の前では、好きな人の名前を言わないものね。


「そうなんですか……ロゼッタ先輩、とても可愛いから、好きな人と言うより、てっきり彼氏が居るのかと思ってました」


 そうよね。フローラも、そう思ってしまっても仕方ない……転生した私が自分で言うのもなんなんだけど、ロゼッタの容姿はとても可愛い。縦巻きロールをしなくなったおかげで普通に美少女なのだ。


 しかし、これまで中身が残念過ぎて、振る舞い言動などで近づいてくる異性はゼロ。言い過ぎでもなんでもなく、全員が引いていた。


「居ないわよ。素敵な人が、居れば良いんだけどね」


「イエルクくんなんて、どうですか? 年下って、あまり好きではないですか?」


「そういう訳でもないけど……イエルクくんは、幼馴染で付き合っている女の子が居るらしいの。来年アクィラへ入学して来るらしいわ」


「あっ……そうなんですね。それだと、駄目ですね」


 フローラはイエルクに相手が居ると聞いて、なんだか残念そうだ。


 自分も所属している生徒会の中で、イエルクが私と一番に親しく話しているから、可能性があるのかもと思って聞いたけど、相手が居ると聞いて、その線はないと判断したらしい。


「そうそう。とっても可愛くて、性格も良い子なんだけどね」


「じゃあ、エルネスト会長や、オスカー先輩はどうですか?」


 純粋な好奇心の詰まったキラキラとした緑目を見て、私はなんとも言えない気持ちになった。


 これまでに、私がエルネストにどれだけ邪険にされていたかを思えば、それは言えないだろうし、二人は紳士だから、わざわざ過去のことを蒸し返しては言わないから、フローラは何も知らないのね。


「実は二人には、あまり良く思われてないの」


「えっ……そうなんですか? けど、お二人ともロゼッタ先輩にすごく優しいし、とてもそんな風には……」


 なるべく、私とは距離を置いて、あまり話さないようにしている二人を見て優しいと誤解している純粋過ぎるフローラ……お姉さん、騙されないか心配になって来たわ。


「そうね。二人とも優しいから、それを表に出さないだけなのよ」


「そうなんですか……あ。ロゼッタ先輩! ここ、行ってみましょう! 話を聞いて行ってみたかったんです!」


 フローラが突然表情を明るくして指を差したのは、有名な化粧品のお店だった。


「あ。ここ……名前、聞いたことある」


「そうなんです! 最近、話題のお店なんですよ! わー! こんな感じなんですね!」


 とてもウキウキした様子で、私の手を引いてフローラは店内へと入った。


「わー……綺麗……すごい」


 現代にあるデパートなどのディスプレイ顔負けのクオリティで、お店の中は非常に可愛く飾られていた。ハートやリボン、それに、可愛らしいデフォルメキャラ。魔法の力なのか、それが何色にもキラキラと輝いている。


「あ! ロゼッタ先輩、これを見てください。きらきらした輝く唇になるグロスですって! わー、陶器のような肌になれるファンデーション! それに、本当にまつ毛が長くなるマスカラ!」


「フローラ、もう……落ち着いて。わかったから」


 フローラはキンガムチェックの布張りがされた小さな籠に、どっさりと欲しい化粧品を入れていた。お小遣いをここで使い切っても良いと思っているらしい。


 可愛い女の子って、何の努力もせず可愛い訳ないし、フローラがこれだけ可愛い理由は可愛さへの貪欲な追求なのかもしれない。


「あ。そういえば……合宿する島で、確か、泳いだりも出来るんですよね? 先輩、水着はどうします? この後は、買いに行きます?」


 吟味に吟味を重ねていたフローラだけど、今日はそろそろこの辺で勘弁してやるかとばかりに、会計の方へと歩き始めたので、彼女の三分の一ほどの分量の化粧品を持った私もそれに続いた。


「水着は良いわ。私……日焼けは、したくないから」


 完全にヒーローサービススチルを意識しているシーンのため、泳ぐことの出来る小さな砂浜は合宿所の近くにあった。


 確か乙女ゲーム内でも、フローラは上着を羽織ったままだったはずだ。そうよね。あのスチルで大事なのは、ヒーローたちの腹筋。それは、開発側も購入した側も、意見は完全一致している。


「あっ……そうですよね。ロゼッタ先輩のその言葉で、日焼け止めを買おうとしていたことを、思い出しました! このお店の日焼け止め、本当に評判良いんですよ。先輩、こっちです!」


 そして、ああでもないこうでもないと吟味して、薄づきのファンデーションの上に下地としても重ねられる日焼け止めを購入して、私たちは帰寮することになった。




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