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16 これがヒロイン

 そして、私も生徒会に入ってフローラとイエルクと仲良くなっておいて、来年にあるリッチ先生のとんでもない企みを防ごうという私の計画だけど……前半部分はそこそこ、上手く行っていた。


 上手く行っていたのけど、私の予想からの誤算は生じていた。


「おはようございます! ロゼッタ先輩」


「おはよう。フローラ」


 生徒会室へと入り元気良く挨拶をしたフローラに、中に居た私はにっこり微笑んで挨拶を返した。


 にこにこと機嫌の良い表情を見せるフローラに『あ。これは恋愛関係で何か良いことがあったな』と、同性の私はすぐに気がついた。


「聞いてください。ロゼッタ先輩。今日ルークさんに偶然会ったんですけど、特別にって、珍しい花の芽を見せてくれたんです!」


 なんと驚くことに、乙女ゲームヒロインのはずのフローラは、攻略対象三人などには目もくれず、アクィラ魔法学園の魔法薬農園の管理を任されている若い庭師のルークに夢中だった。


「そ……そうなの。良かったわね」


 私は既に生徒会室に居るエルネスト、オスカー、イエルクを横目でチラッと確認したけど、三人ともフローラの恋話に対し特に反応はしない。


 この話題に関して、彼女に名指しされているのは私だけだから、それは当たり前なんだけど……各カップル別なラブラブスチルを見てしまっている私は、複雑な気持ちになってしまった。


「ルークさんって、本当に、素敵なんです! だって、今日も私が知らないことをたくさん教えてくださって……あんなにお若いのに、幅広い知識を持たれているし……憧れてしまいます」


 庭師ルークは、高等部を卒業したばかりだけど、魔法薬の知識を買われて学園からぜひにと雇われたのよね。そういう意味では、フローラとは三歳しか変わらないし……確かにそういう意味で恋愛対象には、なってしまうよね。


 卒業して仕事をしている社会人でもあるし、余裕ある大人の男性に憧れてしまう気持ちも理解出来る。


 しかし、ここに貴女が恋をすれば、もれなく上手く行くスパダリの三人が揃っているけど……なんて、そんなことを教える訳にもいかないけど。


 もしかしたら、庭師のルークって隠しヒーローだったのかもしれない……確かに、フローラから話を聞いて見に行くと、顔が整った美形ではあったもの。しかも、優しくて聡明そうな男性だった。


 恋は早い物勝ちだから、ルークを好きになったフローラを決して否定はしない。


 なんでも、入学してすぐに庭園で迷っていたフローラをルークが道案内して助けてくれたらしい。


 ……そういえば、フローラは方向音痴でドジっ子キャラだった……ゲーム内だったら、それを各攻略対象が助けてあげるはずなんだけど。


 それに、フローラは親しい人には恋愛事情を明け透けに話す方らしくて、私を手を引いて連れて行き『あれが、ルークさんです!』と教えてくれるところからはじまり、ルークとの間に何があったかをやたらと話してくれるようになった。


 フローラが恋をしている様子は可愛いし、私はそれについて何の文句もないけど……うん。すぐそこに居る攻略対象者たちは、攻略しないのね。


「そうなの……良かったわね。きっと、ルークもフローラのことを気に入ってくれていると思うわ」


 それは絶対に間違いないと思う。私がもし男でルークだったとしたら、フローラに迫られたらデレッと顔がとろけて戻らないという自信しかない。


「そうですかね? そろそろ夏休みだし、このままルークさんに会えなくなるよりは……早々に告白した方が良いのかなと思うんです」


 そろそろ期末テストで、それが終わったら長い夏休み。


 けど、生徒会だけは、交流を深めるためにと、夏休みの特別合宿イベントもあるのよね。謎。ゲーム上の設定だから、仕方ないけど。


 それに、好感度を上げるためにはかなり早い段階で好意があることを知らせるけれど、フローラ展開が早すぎだわ。


「ねえ。少し落ち着いて。フローラ……あまり、急がない方が良いわよ。ゆっくり二人の仲を深めることを考えた方が良いわ」


 恋愛もしたことのない耳年増の私がそう忠告すると、フローラは何度か頷いて微笑んだ。


「そうですよね。いつもアドバイスしてくださって、ありがとうございます! ロゼッタ先輩、夏合宿の買い物ってもう済ませましたか?」


「ううん……まだだけど」


 そろそろ買いに行かなきゃとは思っていた私は、フローラの問いかけに首を横に振った。


「私と今日の放課後に一緒に買いに行きましょうよ!」


「え? 別に構わないけど……」


 期末テスト終わりに、すぐに南の島の合宿所に移動するので、それまでにあまり時間もない。


 念のために他の男性三人に確認したけど、私たちと一緒に買い物行こうと思う人も居ないようだった。

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