15 美味しくない
無事に生徒会入りを果たした私は、同時に入った下級生イエルクと食堂で昼食を取っていた。
「……イエルクくんも、私と同じように食事には不満持っていたのね」
人もまばらな食堂に着いた私たちは、どう考えても味を調えようと考えているとは思えない、肉のかたまりを同時に見下ろしていた。
……何をどうしようと思ったら、こんなにも不味く肉を料理出来るの?
「僕はグーフォ地方にある村の出身なので、アクィラの食事には、まだ慣れません。粗食を美徳としているとは聞いていたのですが、まさか……これほどまでとは思っていなくて……」
そうよねそうよね……わかるぅ……乙女ゲームしている時には、食事シーンとか全然出てこないから、登場するキャラたちが、こんな粗食に耐えているなんて思わなかった!
「そうよね……私も贅沢は言わないんだけど、せめて……もう少し、味付けには工夫して欲しいっていうか……」
言葉を濁した私に、イエルクくんは頷いた。
「わかります。あと、塩をかければ良いと思っているのか、塩辛すぎて……もう、食べられない時もあります」
今まで不満はあれど、事情があり人を避けていたせいか誰にも言えなかったのか、イエルクの口からはどんどん食事に関する不満が溢れて出て居た。
「うんうん。本当だよね。味付けは、適量で良いんだよね……わかってないよね」
私はもぐもぐと硬いオーク肉を噛んで、なんとか咀嚼した。本来ならオーク肉は高級食材のひとつで、オークキングの肉は、美食家の中でも人気が高い。
けどけど、私の食べているオーク肉の切り落としと野菜を炒めただけのものは、てかてかと光り油でぎとぎとだし、その見た目だけでも食べる気が失せる。
「……ディリンジャー先輩は、アクィラ出身だから、気にならないのかと思っていました」
イエルクはにっこりと微笑むと、自分もまったく具のないスープを飲んで微妙な表情になっていた。
その気持ち、わかるよ。なんで、まったく具が入っていないのに、こんなにも生臭いんだろうね……?
「そんな訳ないよ! ……日々、不満でいっぱいだよ! なんで、こんなにパンが硬いの? とか、意味わからないもん!」
「そうですね。グーフォのパンは、もっと柔らかくて、美味しかったです」
美味しそうなパンを想像して、私たち二人は、はあっとため息を同時についた。
「柔らかいふわふわのパン食べたい……こんな、カリカリでカラカラな硬いパン、嫌……」
「わかります……美味しくないですよね」
「そういえば、確か……遠くから、物を引き寄せる魔法ってなかったっけ? それが出来たら、使えればなあ……」
私がそう言った時、イエルクはサッと顔色が変わったので『しまった』とは思った。
……遠くから、物を引き寄せる魔法……それって、彼の使う黒魔法の上位魔法である闇魔法だった。
けど、今の段階では、彼はまだ黒魔法使いで、闇魔法使いではないんだった……しまった。
忘れてた。養い親の事もあって、それは隠しているんだよねえぇぇえ……なんで、こんなに私って記憶力が残念なの?
「そっ……そういえば、フローラちゃん……だっけ? イエルクくんと同じ年の子、可愛かったよね~」
強ばった表情のイエルクを前に、私はかなり苦しいけど、無理矢理力業で話題を変えた。
というか、フローラとイエルクが上手く行って、乙女ゲーム通りにくっついたら、私があくせくしなくて良いのにな。
「そうですか……? すみません。あまり、隣を見ていなくて」
イエルクって、本当に心を開いたヒロイン以外無関心なんだよね……そういうキャラ設定だし。
「なんだか、生きているお人形さんみたいだったよ。可愛かった~」
そして、私の言葉からフローラを、『へえ。確かに可愛いし……気になる』と、なって欲しい! 魔法界の平和のために!
美食ツアー達成したい、私の野望のためにも!
「生きている人形というなら、ディリンジャー先輩もそうですよね。可愛いです」
イエルクは特に必要ないので、思いもしないお世辞は言わない。
だから、私はその時、この人普通にそう思って居る……とわかって、すごく恥ずかしくなった。
……え。今、自然にさらっと可愛いって、言ったね?
……ううん。悪役令嬢だけど、ロゼッタは事実可愛いのよ。
可愛いけど、振る舞いと性格に、非常に難があっただけで……っていうか、エルネストに迫っては残念だったあの姿を、入学したばかりのイエルクは何も知らないんだ……。
「あ……ありがとう……ございます」
さっき思った通り、イエルクは何の気なしに言っただけらしく、私の尻すぼみなお礼が不思議だったのか、不思議そうに首を傾げていた。




