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15/27

15 美味しくない

 無事に生徒会入りを果たした私は、同時に入った下級生イエルクと食堂で昼食を取っていた。


「……イエルクくんも、私と同じように食事には不満持っていたのね」


 人もまばらな食堂に着いた私たちは、どう考えても味を調えようと考えているとは思えない、肉のかたまりを同時に見下ろしていた。


 ……何をどうしようと思ったら、こんなにも不味く肉を料理出来るの?


「僕はグーフォ地方にある村の出身なので、アクィラの食事には、まだ慣れません。粗食を美徳としているとは聞いていたのですが、まさか……これほどまでとは思っていなくて……」


 そうよねそうよね……わかるぅ……乙女ゲームしている時には、食事シーンとか全然出てこないから、登場するキャラたちが、こんな粗食に耐えているなんて思わなかった!


「そうよね……私も贅沢は言わないんだけど、せめて……もう少し、味付けには工夫して欲しいっていうか……」


 言葉を濁した私に、イエルクくんは頷いた。


「わかります。あと、塩をかければ良いと思っているのか、塩辛すぎて……もう、食べられない時もあります」


 今まで不満はあれど、事情があり人を避けていたせいか誰にも言えなかったのか、イエルクの口からはどんどん食事に関する不満が溢れて出て居た。


「うんうん。本当だよね。味付けは、適量で良いんだよね……わかってないよね」


 私はもぐもぐと硬いオーク肉を噛んで、なんとか咀嚼した。本来ならオーク肉は高級食材のひとつで、オークキングの肉は、美食家の中でも人気が高い。


 けどけど、私の食べているオーク肉の切り落としと野菜を炒めただけのものは、てかてかと光り油でぎとぎとだし、その見た目だけでも食べる気が失せる。


「……ディリンジャー先輩は、アクィラ出身だから、気にならないのかと思っていました」


 イエルクはにっこりと微笑むと、自分もまったく具のないスープを飲んで微妙な表情になっていた。


 その気持ち、わかるよ。なんで、まったく具が入っていないのに、こんなにも生臭いんだろうね……?


「そんな訳ないよ! ……日々、不満でいっぱいだよ! なんで、こんなにパンが硬いの? とか、意味わからないもん!」


「そうですね。グーフォのパンは、もっと柔らかくて、美味しかったです」


 美味しそうなパンを想像して、私たち二人は、はあっとため息を同時についた。


「柔らかいふわふわのパン食べたい……こんな、カリカリでカラカラな硬いパン、嫌……」


「わかります……美味しくないですよね」


「そういえば、確か……遠くから、物を引き寄せる魔法ってなかったっけ? それが出来たら、使えればなあ……」


 私がそう言った時、イエルクはサッと顔色が変わったので『しまった』とは思った。


 ……遠くから、物を引き寄せる魔法……それって、彼の使う黒魔法の上位魔法である闇魔法だった。


 けど、今の段階では、彼はまだ黒魔法使いで、闇魔法使いではないんだった……しまった。


 忘れてた。養い親の事もあって、それは隠しているんだよねえぇぇえ……なんで、こんなに私って記憶力が残念なの?


「そっ……そういえば、フローラちゃん……だっけ? イエルクくんと同じ年の子、可愛かったよね~」


 強ばった表情のイエルクを前に、私はかなり苦しいけど、無理矢理力業で話題を変えた。


 というか、フローラとイエルクが上手く行って、乙女ゲーム通りにくっついたら、私があくせくしなくて良いのにな。


「そうですか……? すみません。あまり、隣を見ていなくて」


 イエルクって、本当に心を開いたヒロイン以外無関心なんだよね……そういうキャラ設定だし。


「なんだか、生きているお人形さんみたいだったよ。可愛かった~」


 そして、私の言葉からフローラを、『へえ。確かに可愛いし……気になる』と、なって欲しい! 魔法界の平和のために!


 美食ツアー達成したい、私の野望のためにも!


「生きている人形というなら、ディリンジャー先輩もそうですよね。可愛いです」


 イエルクは特に必要ないので、思いもしないお世辞は言わない。


 だから、私はその時、この人普通にそう思って居る……とわかって、すごく恥ずかしくなった。


 ……え。今、自然にさらっと可愛いって、言ったね?


 ……ううん。悪役令嬢だけど、ロゼッタは事実可愛いのよ。


 可愛いけど、振る舞いと性格に、非常に難があっただけで……っていうか、エルネストに迫っては残念だったあの姿を、入学したばかりのイエルクは何も知らないんだ……。


「あ……ありがとう……ございます」


 さっき思った通り、イエルクは何の気なしに言っただけらしく、私の尻すぼみなお礼が不思議だったのか、不思議そうに首を傾げていた。



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