14 達成条件
「はい。エッセル先生、これで生徒会入りの条件は果たしましたよ!」
私が瓶に入った双月草を彼に渡すとエッセル先生は、目に見えて驚いていた。
紫がかった花弁を持つきらきらとした花を、じっくりと確認したエッセル先生は、確かに本物だと見てくれたのかもしれない。
うんうんと納得したように、何度か頷いた。
「確かに……これは、双月草だ。ロゼッタ。君はこれを……どうやって手に入れたんだ?」
探るように聞いたエッセル先生に、私は首を横に振った。
「購入ではなく、採取しました……けど、その場所は明かせません」
魔の森の中にある高原の場所は、今のとこ私とエルネストしか知らない。王族エルネストはそういう事を、誰かに言ったりもしないだろう。
エルネストは良く言うと真面目で、悪く言うと融通が利かない人だから、信用は出来るのだ。
「だろうなー……お見事だ。ロゼッタ。それでは、君を生徒会に推薦することにしよう」
「やったーーーーー!!! ありがとうございます。エッセル先生」
言い終わらないうちに私が飛び上がって喜び、エッセル先生の手を握り何度か振った。
「おいおい……それは、喜び過ぎだろう。それに、ロゼッタ。何か春休みの間にあったか?」
……前世の記憶は、取り戻しましたね。
しまった。喜びのあまり、リアクションが大き過ぎた。
私はついこの間まで、高慢ちきな嫌な貴族令嬢だったのに……エッセル先生も、私のキャラ変に驚いたのかもしれない。
「……いいえ。何かありましたか?」
澄ました顔で答えれば、エッセル先生は、ため息をついてから言った。
「いや、何もなければ、良いんだが。また、生徒会メンバーが正式に発表されるのを待ってくれ」
エッセル先生は丸めた教科書で、私の頭を叩いてから去って行った。
とりあえず、これで第一関門は突破!
◇◆◇
そして、私は無事に掲示板に張り出された生徒会メンバーに選出され、イエルク、フローラと共に、新しく生徒会メンバーに加わることになった。
三年生の先輩二人は、人間界のとある難関大学を受験するから、今年度の生徒会の活動は自粛しますと説明があったのも、ゲームの通り。
わかる……わかりやすく、大人の事情よね。ここで、関係のない三年生が居ると、何かと進行上邪魔だもの……。
「それでは、俺は二年生で生徒会長のエルネスト・ランテルディだ」
「副会長のオスカー・マキャベリです」
「……ロゼッタ・ディリンジャーです」
「イエルク・アスティです」
「フローラ・レオーネです」
はわわっ……初めて間近で見た、ヒロインフローラ。可愛い……可愛過ぎる。フランス人形のような顔は、つるんとしたむき卵肌に、長いまつ毛はけぶるよう。
それに、ミステリアスな光を秘めた金の目。隣に居る私は二次元の人が三次元に居るという……とてつもない感動の波が、打ち寄せていた。
一年生の実力テストは、イエルクが学力テスト闘技大会共に首位だったんだけど、そういう条件なら学力で二位だったフローラが繰り上がりで生徒会入りする。
……何もかも、ゲームの通りの展開だわ。
「それでは、一年間よろしく頼む。学年の代表の監督生でもある訳だから、より誰かに見られるという自覚を持って、役目を果たしてくれ」
「はい」
生徒会長エルネストの挨拶を受け、私たちは声を揃えて返事をした。
「……あれ。ロゼッタちゃん。髪型変えた? 可愛いね」
「ありがとうございます。オスカー先輩」
この前は、私から一目散に逃げていた癖に……オスカーは本当に調子が良いんだから。
「ポニーテール可愛いね。可愛過ぎて、なんだか俺まで可愛くなりそう」
オスカーは思わせぶりなことを、にこにこして言うけど、今好感度が全くない私にだから、彼にとってはこれは何の気持ちもない挨拶程度なのよ。
多分、自分から興味が逸れたからエルネストから私と話しても良いって許可されたから、何だか嬉しそうなのも、何の意味もないのよ。
……はーっ……女の敵。
「オスカー先輩って、悪気ないのが、また罪深いですね」
じろっと睨んだ私に、オスカーは戸惑っていた。
「えっ……なんで、可愛いって言われたら、嬉しくない?」
「いえ……嬉しいですよ。ありがとうございます」
私が生徒会に入った目的は、フローラとイエルクと仲良くなることだから、友人エルネスト次第で態度が変わる調子良いオスカーと、話していてもね。
今日は挨拶のみのはずだったから、そろそろ帰ろうと私は鞄を持って立ち上がった。
けど、靴が床を滑って転けそうになったのを、一番近くに居たオスカーではなく……隣に居たイエルクが、咄嗟に支えてくれた。
「っ……ディリンジャー先輩、大丈夫ですか?」
「イエルクくん。ありがとう……大丈夫よ。私の不注意だから」
イエルクは私が転びそうだったのに、手も出さなかったオスカーを見たけど、私は首を横に振った。
実は攻略対象者はそれぞれ深刻な問題を抱えており、オスカーは女の子に触れられない。
それは、オスカーは幼い頃からすぐ上の姉から、異常な執着を向けられていて、彼女の恐怖から女性に触れられなくなってしまったのだ。
もちろん、オスカールートでの恋の邪魔をする悪役令嬢役は、姉カミラ。
解除方法というか……好感度マックスの状況で、ヒロインがキスをすれば触れられないこと自体は治ったと思う。
「ロゼッタちゃん。ごめんね……」
「大丈夫です。オスカー先輩。気にしないでくださいね」
オスカーは姉に怯えてしまうような弱い自分が嫌で、身体を鍛えるようになり、魔法使いでは考えられないくらいに強くなり、魔剣士としての訓練も特別に受けている。
だから、立場的にはとても可哀想で、彼には私が居なきゃって思ってしまうんだよね。
あんなにも強いオスカーが見せる弱みって、いかにもなギャップっていうか……こう、私が守らなきゃって、そそるものがあるというか。
「ロゼッタちゃん。どうかしたの?」
彼の顔をじっと見て考えていたら、不思議に思われたのか、オスカーが聞いた。
「あ……すみません! それでは、お先に失礼します」
私は一緒に帰る約束をしていたイエルクと、連れ立って部屋を出た。ちなみにフローラは居なくて、早々に部屋を出ていたらしい。
生徒会に入れば、喋る機会なんていくらでもあるし、初日から焦らない焦らない。
「ディリンジャー先輩。昼食どうします?」
今日は午前中授業で、何なら私たち以外の生徒は、早々に寮へ帰っている。
「あ。今日も校内で、食堂をやっているわよね? 一緒に食べる?」
「良いんですか?」
「もちろん。それに、イエルクは気にしすぎよ。迷信めいた噂なんか、誰かと楽しそうにしていれば、消えてしまうはずよ」
イエルクはここに来るまで、街にいた時から色々と言われて、不必要に過敏になってしまっているんだよね。
「はい」
力なく微笑むイエルク……両親が亡くなってしまったのは、彼のせいでもないのに……。
少し暗くなってしまった空気に、私は話を変えようと、大きく伸びをして行った。
「はーっ……けど、食堂の食事って、何であんなに不味いんだろうね?」
「ディリンジャー先輩、僕も同じことを思っていました!」
一緒に歩いていたイエルクは、前のめりで食いつき良く、そう言った……え?




