13 まさかの助け
嘘でしょう。
誰かに尾けられる可能性なんて、全く考えもしなかった私は、自分の迂闊さと間抜けさ加減が本当に嫌になった。
人気のない森の中とは言え、寮のように出入りが禁止された場所でもない。誰かは居るかもしれないよね。
そんなことも思いつかないくらいに、平和ボケしていて警戒心が低すぎてしまった。
「いや、可愛いお嬢ちゃんが、こんな夜中に何処に行くんだと思って、単に心配で着いて来たんだよ……そんなにも、警戒した顔はしないで……お宝は、目の前だ」
その猫なで声を、信じる人なんて居ないわよ。
「……大声、出すわよ。それに、ここで魔法警察を呼んでも良いから……」
私は空中から喚びだした杖を持って、空へと高く掲げた。
信号弾の魔法は緊急の場合、魔法警察に、すぐに通報するような信号弾を打ち上げることだって出来る。
この高原はアクィラ魔法学園の敷地内でもあるから、緊急事態の信号弾。
それを見れば先生たちだって、すぐに気がついて、18歳にならないと乗れない箒で空を飛びここまで来てくれるはずだ。
「……良いのか? もし、それをすれば双月草は、手に入らないぞ! それより、俺と山分けをしないか? お嬢ちゃんには……何もしないさ。双月草を、二人で分け合うだけで良い」
きっと、これは嘘だろうと思うのに、私の心はゆらゆらと揺れた。
確かに、双月草は手に入れたい……けど、ここで手に入らないと、また一年待つことになってしまうし……学園の敷地内のことだからと、助けに来てくれた先生たちに取られてしまわないとも限らない。
どうしようと思い悩んで顔を歪めた瞬間、彼の下半身が瞬く間に凍り付いて、私は驚いて目を瞬いた。
「……え」
今はもう氷柱の中に閉じ込められているような男性は、ぴくりとも動かない。
し……死んでないよね? 仮死状態なのかな?
「……おいおい。ロゼッタ・ディリンジャー。あんな下賤な男の世迷言を、そのまま信じようとするのか。世間知らずのお嬢様で、お育ちが良いのも考えものだ」
聞き覚えのある呆れた声を聞いて、私は驚きつつ声の主が居る方向を見た。
「エルネスト……殿下? 何故ここに?」
そこには麗しの第二王子エルネストだった。彼の金色の髪は、不思議な紫の光の元、妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「お忘れかもしれないが……俺は君の学年の、監督生でね。まだ、寮へ帰って来ていない子が居るからと、寮番が心配していたので探していた……何かと、お騒がせなことをしてくれるな。ロゼッタ」
寮番のあの犬たちが、懸命にエルネストへ私の不在を訴えている光景を想像して、思わず笑いそうになった。いつも口うるさいけど、可愛い。
「ごめんなさい。エルネスト殿下。けど、どうしても双月草が欲しくて……」
「……エッセル先生から、この前に君が生徒会に入りたいと言い出したことは聞いている。それは、生徒会入りの特別条件の条件なのだろう。君が生徒会に入りたいと言うのなら、俺には止める権利はない。条件はクリア出来たのなら、好きにするが良い……だが、もし俺に近付きたいという目的であれば、それはとても迷惑だ」
エルネストから、はっきりと迷惑だと言われた言葉は、胸に突き刺さる……これはもう、仕方ない。
だって、彼にそれだけ嫌われても仕方ないことを、私っていうかロゼッタは、これまでにたくさんしたからだ。
「ごめんなさい……そういう目的ではありませんし、エルネスト殿下には、やましい気持ちで接することはないと誓います……ですから、」
「それならば、別に良い……ほら、双月草が咲きそうだ。採取しなくても良いのか? 察するにこの場所を調べるまでに、随分と苦労したんだろう?」
公明正大なエルネストらしく、ならばそうすれば良いとばかりに、促され高原の中央を見た私は、あまりに神秘的な光景に息をのんだ。
紫の月光を浴びた草原にある白い蕾が花開き、美しい花が咲いた。なんて、綺麗なの。
「ああ、良かった! ……ありがとうございます」
私はエルネストに微笑んで、新鮮さを保つ魔法のかかった採取用の瓶を取り出し、双月草を、その瓶へと入れた。
……良かった! これで、私も生徒会に入れる!
まだまだ、色々とスタートラインに立てただけだけど、生徒会に入りさえすれば、来年は生徒会顧問になるリッチ先生にだって、近付きやすいだろうし。
「嬉しそうだ……良かったな」
「エルネスト殿下のおかげです。ありがとうございます」
お礼を言った私が、反射的に深くお辞儀をしかけたんだけど、しまった……魔法界ではお辞儀なんて、しません!
若干、挙動不審な動きになった私を、不思議そうに見てから、エルネストは言った。
「……髪型を変えたのか。ロゼッタ」
「ええ。あの巻き髪って、時間が掛かるので、朝の時間の効率を考えて」
凄い凄い。エルネストと産まれて初めて、ロゼッタが普通に世間話してるよ!!
「そうか……ロゼッタ、君は最近、新入生の男と良く話していると聞いたが」
「はい。イエルクくんのことですね。すっごく優秀な子なんですよ」
イエルクは神童と呼ばれているくらいだし、エルネストら彼が気になって聞きたいのかなと思ったら、エルネストはそうでもないみたいだった。
「……そうか」
素っ気なく答えたエルネストは、それきり私に向けあまり言葉を発さなくなり、捕らえた男をどうするかと尋ねたら「魔法警察に引き渡す」としか答えなかった。
これまでのように、迫ることもなく、せっかく普通に会話していたのに……急に、機嫌悪くなって……なんか、感じ悪い。
……何なの。




