10 生徒会に入る方法
「私への生徒会入りの特別条件は、そっ……双月草を手に入れることですか?」
「そうだ……もし、それが出来れば、私は君を生徒会へ推薦してやろう。ロゼット・ディリンジャー。頑張れよ。朗報を待っている」
にやにやとした悪い笑みを浮かべて、エッセル先生は呆然とした私の頭をポンと教科書で叩いてから、職員室へ帰っていった。
……嘘ー!
エッセル先生だって絶対無理だと確信している、不可能案件だよね!?
もしかしたら、エルネストを狙って、私が生徒会に入りたがっていると誤解されているのかもしれない。
……生徒会長エルネストは私が生徒会へ入ることを嫌がるだろうからやめておけと、特別条件を出す段階で、こうして牽制された?
ゲーム内のアイテムでも双月草は登場し、ヒロインフローラが怪我をした攻略対象者のために双月草を手に入れるというイベントは確かに存在したけど、それは来年のことで……って、待って。
そうだった! 今年、青と赤の月が同時に満月になるのは、もうすぐのはず。
確か……うろ覚えの情報だけど、とても希少価値の高い双月草を手に入れる機会は、年に一度の紫の満月しかなかったはず。
まだあまり知られていない深い魔の森にある高原に双月草が咲くんだけど、どういった理由でかふたつの月が満月の時しか、薬効のある双月草の花を採取することは出来ない。
それならば、誰かに手に入れて貰えば良いとも思うけど、双月草の市場価格は、目が飛び出るほどに天文学的な高額で……購入して提出するという道は絶対無理、これで消えた。
生徒会に入ろうと思い立った、次の日。
朝登校してすぐに、職員室へ向かい、エッセル先生を呼びだして生徒会への推薦条件を聞き絶望的な気持ちになってトボトボと廊下を歩いた。
……待って待って。
だって、ヒロインフローラの推薦条件って確か……声を変える魔法薬を調合することじゃなかった?
悪役令嬢ロゼッタに比べて、なんて簡単な条件なの……! 乙女ゲームヒロインの難易度補正があまりにも強すぎでしょ!
アクィラ魔法学園では、生徒会は選ばれし人たちの集団という見方が強い。いわゆる、生徒会はトップアイドルで、他はモブという立ち位置かしら。
そもそも、学力と戦闘力という実力で選ばれているので、誰も何の文句も言えないのだ。
そこに、モブが自分から『目立つ生徒会になるために、自分を推薦して欲しいです!』なんて、なかなか言えるものではない。
多分、言わないと思う……私は色々と仕方ないから、自分から言ったけどね。
フローラとイエルクと、自然と親しくなるためには、一番良い方法かなと思ったのよ。
だって、学年の違う二年生の私がわざわざ一年生のフローラとイエルクの居る場所まで行って彼女たちと親しくなるなんて、どう考えてもやっぱりおかしいもの。
だとすると、ことある毎に集まりのある生徒会に一緒に属しているのが、一番良い解決方法で……。
「うーん……双月草かあ……激レアアイテムなんだよねー」
双月草が魔の森高地にあるという情報は、確かゲーム内のイベントで必要な時は、図書館でフローラが手に入れることになる。
双月草については幻と呼ばれるくらい希少価値の高いもので、回復作用の薬効がその他と比べて群を抜いているため、市場では超高値で取引される薬草だ。
だから、手に入れたいと望む人は魔法界でも数多い。
……けど、もし、簡単に手に入る薬草ならば、そんなに高値であるはずもない。
「あ……そういえば、今日図書館でイエルクと待ち合わせしてたんだった……」
そうだそうだ……建前上、勉強を教えて貰うことになっていたんだった。
高等部に入学したばかりの一年生なのに、二年生の勉強なんて教えられるの? なんて……思うだけ無駄な疑問だった。
さすが……神童と呼ばれるイエルク、今ではもう、既に最上級生の教科書を自主的に勉強していて、二年生の内容なら自分にも教えられるだろうと思うと、さらっと驚いている私へ言っていた。
前世でも、たまに思って居たんだけど、驚くほど勉強出来る人の思考って、凡人には本当に理解出来ないよね……?
もし……私だったとしたら、ここはもう理解出来たから、勉強をもっともっと先に進めちゃおう! なんて、絶対思わないもん。
前世では勉強自体、必要だからやっていただけで、そもそも好きでもなく嫌いだったし。
けど、ちょうど良いから、図書館で双月草の情報を確認しよう……一緒に居るイエルクには、エッセル先生から課題出されたって言えば良いや。
……はー……私の目的は、ラスボスリッチ先生の企みを阻止して、竜で美食を求める世界一周旅行に行きたいだけ。
そうだけど、大きなご褒美の前にはいくつもの超えがたい難関が待っているのが当然とそれは言えば当然だし、達成出来た時の喜びはすごいのかもしれない。
よーし、もう駄目で元々なんだから、前向きに頑張るしかない!




