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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

過ち

作者: 左右

この星で核戦争があったのは、100年とちょっと前のことだ。そして、この100年とちょっとの間で、そんな歴史はすっかり忘れ去られていた。

かつての人々は、「もう二度と核戦争を起こしてはいけない」と願ったものだが、ついに過ちは繰り返されてしまった。



原爆によって破壊され、荒廃した街を一人で歩く。木造の家はもちろん、街で1番丈夫だと言われていたビルもあっけなく崩れ落ちている。自動車、バス、電車は、走っていた時のまま燃え、潰れたり溶けたり吹き飛ばされたりしている。もちろん中にいた人は誰も生きてないし、そこら辺にゴロゴロと死体が転がっている。まるで、この人たちの人生なんて最初からなかったみたいに。

もう、見慣れた景色はどこにもない。もはや、涙も出なかった。



ネットニュースは、原爆が落ちた日で更新が止まっている。しかし、掲示板サイトでは、生き残っている人達が時々情報を発信してくれているようだ。どうやら、報復が報復を生み、この世界はどこもこの街のような景色になってしまったらしい。



どのくらい歩いたかわからない。傷ついた体に鞭を打ちながら、気が狂いそうになりながら歩いていると、ふと目に付いたものがあった。

金属製のお弁当箱だった。辛うじてその形を保っている。よく見たら、何かのキャラクターが印刷してある。

…ああ、親友が好きだった、魚のキャラクターだ。

親友は、このどこの層に人気があるのか分からない魚のキャラクターをこの上なく愛していて、このお弁当箱だって、いつも愛用していたものだ。


ふと隣にある死体を見る。顔はもう溶けてしまって、誰だかは全く判別できないけど、服は、多分私が着ているものと同じで、周りには、魚のキャラクターが印刷してあるものが散乱しているのが辛うじてわかる。

カバンも、それについているキーホルダーやパスケースも、親友が使っていたものだった。



この死体、親友だ。



◇ ◇ ◇


2週間前。

親友と、本当にくだらないことで言い争いになってしまった。

私は、部活でバドミントンをやっていた。次の大会勝てば、全国大会に行けるんだったのに、これが最後のチャンスだったのに、戦争で全国大会までまとめて中止になってしまい、私は落胆していた。

そんな私を見て親友は、「そんな落ち込んでんの珍しくて笑える」と言い、笑った。

ただの友達同士の馴れ合いみたいなものだ。そんなの日常茶飯事だったのに、その日はなんだかカッとなって言い返してしまって、そこから喧嘩になってしまった。


それからずっと話してなくて、今日こそ謝ろうと決めて家を出た瞬間、周囲を白い光が覆った。


◇ ◇ ◇



街には死体が何百何千と転がっていて、もはや無感情でそれを見ていたけれど、そのひとつが親友だとわかった瞬間、感情が溢れた。


当たり前だったはずの日常が、突然奪われたこと。些細なことで、大好きだった親友と喧嘩してしまったこと。仲直り出来ないまま、お別れになってしまったこと。もう一生抱えて生きていくしかない、後悔。憎しみ。苦しみ。痛み。悲しみ。一気に、一気に溢れ出して。


原爆が落ちてからはじめて、涙を流した。





いくら科学が発展しても、人間の感情はコントロールできなかった。ちょっとした憎しみや、優位に立ちたいという気持ちが、戦争を生み、攻撃性を孕み、こうしてひとつの星を破壊してしまう。ちょっとした喧嘩が、一生の別れを引き起こしてしまう。



もう、この星には暮らしていけないと思う。かといって他の星に移る手段もないので、私も遅かれ早かれここで死にゆくのだろう。



人類はきっともうすぐ滅亡する。そうしたら、新しい生命が、人類のようにこの星を支配する日がくるのだろうか。そうして、その生物たちは、人間の滅亡を笑うのだろう。感情に振り回される、ばかなやつらだって。



荒廃した世界でも、毎日太陽は昇って沈んでを繰り返す。私は死を待ちながら、荒廃した世界をひとり見つめている。




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