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第十八話 足止めには足らない


 それからも幾度か大丈夫ではなさそうな道を進んだ。

 特に険しい地帯を通る時、リリエリは鍋を被っていたため暗闇の向こう側で起こっていたことを知らない。だが調査のために立ち止まり地形を確認する度、背後にはとても徒歩で通れるとは思えない景色が広がっているのである。なんか深い穴とか。なんかトゲトゲした地面とか。なんか蠢いている植物とか。


 そして今。二人は一面の蜘蛛の巣を目の当たりにしている最中であった。


「びっしりですねぇ……」

「白いな」


 太い木々の立ち並ぶ森の中、隙間という隙間を全て埋めんばかりに張り巡らされている蜘蛛の糸。引っ掛かったわけではないため喫緊の脅威はないが、移動の妨げとしては最悪の部類だ。


「家主は近くにいますか?」

「近くにはいない。……が、離れてもいない」

「獲物が巣にかかるのをひたすら待つタイプなんでしょうね」


 大蜘蛛本体はリリエリの知識と照らし合わせてもさして強くない魔物だ。ただ、この蜘蛛の巣に関してはヨシュアですら容易には引き千切れないほどの強度を持っている。

 これがこの魔物の生存戦略。なんて厄介な、とリリエリは胸中で舌打ちをした。


 ヨシュアは生物の――特に魔物の気配には敏感だ。一方で、無生物に対する感知は人並み程度であった。死なないという自身の特性から、無意識下で警戒対象から外してしまっているのかもしれない。


 ヨシュアの膂力よりも強靭な蜘蛛の糸。この魔物は割と天敵かもな、とリリエリは顔を顰めた。


 とはいえ弱点は既に知れている。そこそこの熱を与えさえすれば突破は難しくないはずだ。リリエリはヨシュアの背から降り、点火器を取り出した。


「地道に進むしかなさそうですね。炙ったナイフをお渡しします。少しずつ蜘蛛の巣を払っていきましょう」


 私は直接点火器で焼きます、とリリエリは近くの蜘蛛の巣に炎の先を当てた。指一本程度の小さな炎だが、蜘蛛の巣はサラリと溶けて消失する。


 進めはするが、とリリエリは北西の方角を眺めた。見える範囲の奥の奥までずっと白く塗り潰されている。

 蜘蛛の糸にかからないよう少しずつ焼き切って進むのは余りにも面倒だし、時間もかかるだろう。

 とはいえこのような地道な作業はリリエリの得意分野でもあった。機動力も腕力も意味をなさないステージこそが、C級冒険者リリエリの本骨頂である。


 さっさと進んでしまおうと、リリエリはナイフの先に火を当てた。その時だ。


 強烈な光が空を覆った。ほんの一瞬の出来事であった。

 リリエリとヨシュアは森の深いところにいる。好き勝手に伸びた枝葉によって空の色なんてほとんど分かりはしない。そんな環境下でもわかるくらいに鮮烈な、まるで太陽が二つに増えたかのような瞬き。


 リリエリは咄嗟に空を仰ぎ見た。何かが変わった様子はない。がさがさと笑うように揺れる樹冠があるばかりだ。


「……今、空が光りましたか」

「光った。雷とも思えないが、……何が起きたかわかるか」

「すみません、分からないです。周囲に変化はありますか。魔物の動きは」

「俺に感じ取れる範囲では特に変化はない。危険ではないはずだ」


 ヨシュアがそう言うのであれば、一先ず害はないのだろう。

 リリエリは強張っていた肩の力を抜こうとして、……うまくいかなかった。この不明な状況に、緊張を解くことができない。点火器を持つ手が、僅かに震えている。


 リリエリに戦う力はない。そのため、危険が及ぶ可能性が少しでもあるなら、即座に逃避行動を考える癖が体に染み付いている。

 少なくない冒険者生活を経て、様々な状況に対応できるようになったはずだった。だが先程の現象はなんだ? リリエリの知識にも経験にも、該当する事象はない。


 一度どこかに隠れて安全を確認するべきか? ヨシュアは危険ではないと言っているのに?


「リリエリ」


 逡巡に沈みかけたリリエリを引き止めたのは、ヨシュアの声であった。


「悩まなくてもいい。何があっても、俺はあんたを守れる」

「……そう、でしたね」


 初めて二人で冒険したときも、まさにこの瞬間の旅路でも。ヨシュアはリリエリを守り抜いてきた。

 リリエリにとってヨシュアは無二の相棒だ。相棒を信用せずに冒険なんてできるわけがない。


「ここを越えたらもう折り返し。さっさと調査を済ませて、さくっとシジエノに帰還しましょう」


 手の震えはもう止まっていた。迷いも恐怖も、二人を足止めする理由には足らない。



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