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第六話 リリエリの戦場


 レダはリリエリに対し、情報を寄越せと言っていた。これはつまり、未だヨシュアを探し出せていないということと同意である。


 ヨシュアが行方知れずであることは、この状況下ではむしろ幸運であった。

 レダはヨシュアがエルナトで活動していることも、リリエリとパーティを組んでいることも、そしてリリエリの家さえも知っていた。

 当然ヨシュアが仮住まいしている住居だって押さえていたはず。レダがどれほど優れた情報網を持っているかは定かでないが、ヨシュアを探し出すことくらい容易だっただろう。……ヨシュアがエルナトにさえいたならば。


 ヨシュアは恐らく、まだエルナトに戻っていない。


 ギルドからの依頼を達成し、後はエルナトに戻るだけとなった際、時折ヨシュアはリリエリと別行動を取る。これらは全てヨシュアからの申し出であり、リリエリがそれを拒むことはなかった。

 リリエリが無事エルナトに戻れる程度の安全性は都度確保してもらっていたし、なによりヨシュアが能動的な意思を見せているのが珍しく、リリエリはそれを嬉しく感じていたからだ。


 リリエリは別行動の理由を聞いていない。だが壊れたリリエリの杖の欠片を探したりだとか、気の向くままに魔物を狩っていたりだとか、そういうことをしていたことは知っている。


 今までの経験を踏まえても、ヨシュアはまだ壁外にいる可能性が高い。

 この情報を持っていることこそが、リリエリがレダを出し抜くための唯一にして最大のアドバンテージだ。


 レダより先にヨシュアを確保する。そのためにリリエリがとった行動は非常に単純なものだった。


 都市を囲む大壁は、外界の脅威から人々を守るために築かれたものだ。堅固なセキュリティを保つために、外界への直接の出入り口は東西南北の四箇所に限られている。


 ギルド及びヨシュアの住居に近いのは南門。そこを張る。何時間でも、何日でも、何週間でもだ。


 ヨシュアが南門から入都する保証はない。またいつ戻るのかもわからない。

 だが、そんなことはリリエリの前では何の脅威にもならない。


 ただ待つだけであれば、魔法も力も機動力もいらない。粘り強さというリリエリの持つ数少ない武器の一つを存分に振るうには、あまりにお誂え向きの戦場であった。



■ □ ■



 とはいったものの、現実問題数週間レベルで南門を張り込むのは大変厳しい。その間はお金を稼ぐこともできないし、正直南門にヤマを張った根拠も言うほど強くはない。

 リリエリは別にこの辺の問題点をクリアにする秘訣を持っているわけではなく、ただただ積極的に見ないふりをしているだけであった。彼女の行動動機の半分くらいはパッションのみで構成されているのだ。


 なので、張り込み二日目にヨシュアが姿を見せたのは、本当の本当の本当に幸運なことだった。


「ヨシュアさん、お久しぶりです。帰って来て早々申しわけありませんが、今すぐ出発できますか」

「わかった」


 南門からひょっこりと現れたヨシュアをその場で捕まえたリリエリは、その足のままヨシュアと共に壁の外へ出た。


 約二週間程度壁外で活動しようやく帰都したところに上記のような言葉をかけられたら、リリエリならキレる。キレるのが当然とすら思う。

 十数年の人生の中で最も無茶苦茶な提案をした自覚があったが、やはりと言うべきか、ヨシュアはリリエリの無茶振りを即決で肯定した。今回ばかりはヨシュアのこの性質が心の底からありがたかった。


「詳しいことは後ほど話します。今はとにかく迅速にエルナトから離れたいので、移動を助けてもらってもいいですか。行き先は東です」

「ああ」


 ……理由も聞かずに肯定してくれるのは、本当の本当に助かるのだが、この辺もう少し人間味を出して欲しいと思うのはわがままなのだろうか。

 荷物のように小脇に抱えられたリリエリは、ヨシュアによって運ばれながらそんなことを煩悶していた。


 数分の内にエルナトの大壁は視界の外に消えていく。

 いくら宮廷魔術師といえど、壁外に手を伸ばすのは容易ではあるまい。


 かくしてリリエリはヨシュアと共にレダの監視下を脱することに成功したのである。



■ □ ■




 エルナトを出た時点では白く輝いていた太陽も、いつの間にやら赤く地平を染め上げつつある。

 二人は開けた小川に到達しており、ちょうど野宿の算段が立ったところであった。


 この場所は森の中であったが、落雷か何かで部分的に木々が欠落していて見通しが良い。おまけに良く差し込むようになった陽光のおかげか、足元にはふかふかと豊かな草花が敷き詰められており、一夜を明かすのにとても都合が良かった。

 

 魔物避けの結界を張り、草を刈って石を積んで火を起こす。

 こういった作業はもっぱらリリエリの担当である。日が完全に落ちきるまでの時間は短かったが、慣れと手際によって十分な安地を作成することができていた。


 焚かれた火の上では、小さな鍋がコトコトと干し豆のスープを煮込んでいる。口数の少ないヨシュアと話出しに悩むリリエリのみがいる空間は、星の降る音も聞こえそうなほどに静かであった。


 詳しいことは後ほど話すと約束した。その後ほどが今であるのはリリエリにもわかっている。だがはたして全てを詳らかにして良いものだろうか。


 ずっとずっと遠くから獣の遠吠えが聞こえる。

 無意識にスープを取り分ける手が緩慢になっていたことに気づき、リリエリは却って気持ちを定めることができた。


 全ては言わない。

 伝えるべき事柄を選びながら、リリエリは口を開いた。



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