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龍の呪いの殺し方  作者: 中島とととき
短編 愛刀かくあれかし
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愛刀かくあれかし②



 工房街八番地アトリエ・リデル前に、明るく大きな声が響き渡った。アトリエ・リデルの店主たるリデルのものであった。


「リリエリ〜! よく来たなぁ!」


 彫刻師リデル。様々な染料で汚れた服を纏いボサボサの髪を適当に括った、エネルギーの擬人化のような女性だ。変人だが腕が立ち、貴重で珍しい素材に目がない。冒険者用の店が多く軒を連ねる工房街の中で、リリエリがもっとも贔屓にしている職人である。


「客連れたぁ珍しいな。要件はなんだ? 頼まれてる杖は製作はおろか素材の受け入れすら済んでねぇぞ。リリエリの指定した素材、基本的に出回ってねぇんだから」

「今日は杖とは別件で。こちらの彼の武器を選びに来たんです」


 リリエリは隣に立っているヨシュアを手のひらで示した。ほとんど作業場と化している雑多な店内は、背の高いヨシュアにとってはいささか狭そうだ。


「武器ねぇ! いいぜ、最高のを見繕ってやるからその辺座ってなよ」


 その辺、とリデルは入り口横の壁付近を示した。が、その場所は小山のように積まれた布地が我が物顔で占拠している。


「リデルさん。めちゃくちゃ布があるんですけど」

「適当にどかしといて」


 言う頃には既にリデルは自身の手元に目を落とし作業に戻っていた。客の座る場所を客が用意するスタイルはここアトリエ・リデルにおいては非常に良くあることである。

 この工房で物を探すのは難しい。現に店主のリデルすらも、火のない煙草を咥える羽目になっている。……どうも火種を見失っているようだ。危ない。


 複雑な刺繍が入っていたり見慣れぬ色素で染められていたりする布地をリリエリががさっと一抱えすると、その下からやたらとしっかりした造りの椅子が顔を覗かせた。見たところ一脚しかなさそうだが。


「リデルさん。椅子、一つしかないです」

「そうだったか? ええと、じゃあ反対側の壁際になんかあった気がするからそれ使って」


 反対、とそちらを見やると確かに小さな椅子が隅っこに置かれている。……そこに辿り着くためには、いくつかの物品を脇によける必要がありそうだ。終始こんな調子なものだから、リデルの店は客の入りが少ないのだ。

 腕はとても良いのに、と惜しい気持ちを抱くこともある。だが当のリデルが売上に重きを置いていない以上、部外者であるリリエリが口を挟むことではあるまい。とはいえ、せめて歩ける程度の環境を維持してほしいとは思う。一応店としての看板を掲げているのだから。


 リリエリは酷く散らかった店内をさっと見渡し、なるべく手間の少なそうなルートに当たりをつけた。


「手伝おうか」

「いえ、ここは私に任せてください。リデルさんは当たり前のように危険な素材をその辺に転がしておく人なので。下手に動かすと燃えます。店が」

「……それは動かしていいのか?」

「リリエリなら大丈夫大丈夫。他の奴だったら触らせねぇよぉ」


 危険安全安全危険。転がっている素材を適切に分けて道を作り、リリエリが小さな椅子を手に入れたあたりで、ようやく作業にひと段落ついたらしいリデルが顔をあげた。


「すまねぇ待たせた。で、武器だっけ。どんなのが良いんだ?」

「出来るだけ壊れないものがいい」

「そんだけ? 剣がいいとかメイスがいいとか、そういうのはないのか?」

「……ない」

「変なヤツだな。リリエリの連れなだけはある」


 何だか心外なことを言われた気がする。文句の一つでも言いたいところだったが、リリエリが言葉を発する前にリデルは店の奥に引っ込んでしまった。


「武器、何でもいいんですか? リデルさんも大概変な人なので、癖の強い物が出てくるかもしれないですよ」

「使えれば何でもいい。……と思っているが、改めた方がいいだろうか」

「いえ、ヨシュアさんが問題ないのなら、私が口を挟むつもりはないです。もちろん、相談という意味なら喜んで一緒に考えますけど」

「…………」


 ヨシュアは黙り込んだ。困っているように見えた。

 武器にこだわりを持っているのなら、そもそも素手で壁外に出ようなんて思わないわけで。ヨシュアが武器に頓着しないのは、本当に何でもいいと思っているからなんだろう。であれば、この場で使いたい武器を一種類定めろと言われても困ってしまうか。

 話題を変えるためリリエリが口を開こうとしたちょうどその時、店の奥で物が崩れるような音が響いた。……リデルが入っていったドアの先からだ。


「あーったあった。色々それっぽいやつ用意したぜ」


 がちゃがちゃと喧しい音を立てながら戻ったリデルの腕には、様々な形状の武器や、武器っぽいものや、どう見ても武器じゃなさそうな物が抱えられている。

 何かの図面が広がったままのテーブルにそれらを広げたリデルは、人好きのする得意げな笑みを浮かべて言った。


「それじゃセールストークといきますか。一つと言わず、好きなだけ買ってってくれていいんだからな」





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