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第十一話 冒険の序章は特別待遇から始まる




 冒険者の朝は往々にして早い。朝は一日の中で最もギルドに活気のある時間である。


 リリエリも例に漏れず、朝の早くからエルナトギルドを訪ねていた。

 第一の目的はヨシュアの様子の確認。元気であればそのまま二人で壁外に、元気でなければ自分一人でも可能なC級の依頼を請け負う算段でいる。新しい杖を買うための道のりは長い。あまり悠長にはしていられない。


 ギルドの中にはそこそこ冒険者がおり、マドのいる受付にも数人が並んでいる。リリエリはマドに挨拶するよりも先にヨシュアのいる二階へと足を運ぶことにした。


 昨日も訪ねたドアを三回叩く。返事はない。


「ヨシュアさん、おはようございます。リリエリです」


 ……返事はない。

 昨日の今日だしな、疲れているのだろう。そうは思いつつも、リリエリは逸る気持ちが抑えられずに返事を聞く前にドアを開けた。


 依頼を受けたい。冒険に出たい。

 S級……かどうかはまだ確定していないが、戦いのできる冒険者と壁外へ出るのが楽しみでならない。


 戦える者の補助があれば多少危ない土地でも踏み込めるし、採取中の警戒も任せられる。なによりC級の依頼は都市の極近傍までであったが、B級に上がるだけでも活動範囲がぐっと広まるのだ。


 エルナト森林の更に向こう側にある水晶窟。都市から半日ほどの距離にある山岳。ここから最も近いとされる都市ナナイに続く道中には、世にも珍しい輝く花が採れると言うではないか。


 きっとどこへ向かうことになっても楽しい冒険になるだろう。楽しみすぎる。


「おはようございます! 冒険に行きましょう!」


 知らず知らず力が入っていたかもしれない。簡素なドアはガチャッとそこそこの音を立てて開いた。

 ……返事はない。部屋の借り主はまだ眠っているようだ。


 流石のリリエリも寝ている人間を叩き起こすのは気が引けた。

 代わりにサイドテーブルの水差しに手を伸ばす。とりあえず新しい水でももらって来ようと、そう思っただけだった。カタリと微かな音を立てたのは確かだ。


「…………」


 ヨシュアの目が開いている。

 なんて静かな起き方をするんだろうか、この人は。心臓に悪い。

 ヨシュアの目はしっかりとリリエリを捉えていたが、なぜだか何も話さないので、先にリリエリから声をかけた。


「おはようございます。体調はどうですか?」

「おはよう。悪くないと思う」

「それは良かった。朝食を持ってきたんですよ。パンとミルク、それから干した肉を少々。そろそろこういった食べ物もいるかと思って」

「……何から何まで、本当に助かる。ありがとう」

「こちらこそ、これからいっぱい助けてもらうでしょうから。準備ができたら一階へいらしてください」


 今日も冒険に行きましょう。


 リリエリはすっかり普段の調子のつもりだったが、その声はいつもよりずっと明るかったろう。


 そんなリリエリの様子にヨシュアは。

 ただ目を細めただけなのか、あるいは彼なりに微笑んだのか。たいそう分かりにくい表情で、溌剌と拳を形作る細い腕を見ていた。



□ ■ □



「確認が取れたよー。確かにS級冒険者のヨシュアのようだね。国営ギルドエルナト支部へようこそ!」


 依頼を吟味したり、顔見知りの冒険者と情報交換を交わしながら四半刻ほど。のっそりといった様子で起き出してきたヨシュアと共にマドのいる受付に向かうと、彼女は開口一番に上記の言葉を発した。……かなり小声で。


 マドは笑顔だ。普段と変わらない……というより、変わらないように努力しているように見える。彼女はニコニコしたまま、受付横の跳ね上げ式扉を開けた。


「ちょっと色々あってアレなんで、僕じゃなくてギルドマスターが対応するよ。奥の部屋へどうぞ」


 エルナトギルドには長く世話になっているが、これは初めての対応だ。ヨシュアがS級だからか?

 リリエリが困惑しているのをよそに、ヨシュアはなんの気負いもなく受付の奥へと足を進めている。

 S級ともなるとこういう待遇なのか、と適当に自分を納得させたリリエリは、慌ててヨシュアの後に続こうとして――マドの手に阻まれた。


「リリエリ。僕はリリエリの味方だし邪魔をする気もないけど、これだけは覚えておいてね。君の親友は、君にとんでもない無茶はしないでほしいって思ってること」


 ちょっとくらいなら良いんだけどね、と言ってマドは手を下げる。いってらっしゃいと手を振る彼女に、リリエリはとても暖かい気持ちを抱いた。


「ありがとう、マド。約束します。無茶なことはしないって」


 リリエリの名誉のため、先んじて述べておくことだが。リリエリはこの言葉を、この瞬間は、本気の本心で語っていたのだということをここに記しておく。


 

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