第八話 仮想世界からの脱出
さてこちらは、自分がつくった仮想の世界に閉じ込められたタカヒロ。
ネコの口から光もみえなくなって、「インチキおじさんの隕石頭!!」と叫んでいました。
悔しがっても仮想世界はどんどん暗くなるし、時計の文字もどんどんうすれて消えていきます。
タカヒロはやっと、おじにまんまとだまされたことと彼がおじでないことに気づいたのです。
ネコの口から出れないとわかって、タカヒロは時計の階段を下までおりて
裏階段に入ろうとしたけど、もう手遅れ。
セメントのようにカチコチに固まった扉はおしてもひいてもびくともしません。
タカヒロはふたたび階段をのぼって時計の所までもどると、
涙を流し自分の愚かさと能天気さを深く反省しました。
三日三晩なにも食べず、なにも飲まず、タカヒロはひたすら自分と闘っていました。
そして、しまいには自分の限界を感じて、生きることが嫌になってしまいました。
彼はしだいに野良ネコのことしか頭に浮かばなくなり、
(ネコたちは元気にしているかなぁ…町のどこかで派手にケンカしてるかなぁ…
相変わらずお昼寝して夜も寝てずっと寝てばかりだろうなぁ…フフフ)
ネコのことを考えると少し気持ちが軽くなりました。
横になりスヤスヤ寝息をたてようとしたとき、
あの魔王使いが首に下げてくれた時計がゴロンと目の前にあらわれ、
そのネジを何気なくクルクル回してみたのです。
するとどうでしょう。たちまち、色あせてヘドロのようだった仮想現実が
イキイキと躍動しよみがえったのです。
「ヤッター!データが復元されたぞ!そうか、頭の回転がはやくなって
記憶力が良くなったから元に戻ったんだ!」
鮮やかによみがえっていく仮想世界をみてタカヒロは身震いしました。
(すごい!頭が良くなることってこんなにも素晴らしいことなんだ…よ~し!)
望みが出てきて自信をとり戻したタカヒロは、
(自分のイメージでこの世界が変わるんなら…)
「この世界をボクといっしょに創ったネコよ!
ゴロゴロ喉をならし、お腹の中の毛玉と一緒にボクを吐き出しておくれ!」
そう強く願うと、仮想世界全体がはげしく震えだし…ゴロゴロ…ゴロゴロと
地響きのような音がしたかと思うと、地面が裂け中から巨大な毛玉が吹き出し、
タカヒロをもちあげるといっしょに外に吐き出したのでした。
タカヒロの体はデジタルからアナログに変換されると、やっと現実に戻ることができました。
長い間接着剤を塗られていた目は、すっかり開かなくなって何も見えません。
心眼もおなかが減っては全く使えません。
石につまづき壁に頭をぶつけながら、家へ向かうのでした。