ライバル関係だと思っていた男子寮長が、平民姿の私に告白してきました
文武両道
才色兼備
そんな言葉が似合う自分になれるように今まで頑張ってきた。
「マリアベル様! 凄いですね、今回のテスト学年2位ですよ!」
友人と一緒に、学園入学テストの成績上位者が載っている掲示板を見に行ったが、
「……2位」
「1位はエリオット様だわ! 仕方ないですよマリアベル様。彼は人呼んで黒い怪物……」
「怪物でもなんでもいいけど、私の努力がまだ1位になるには足りていないってことね」
「さすがマリアベル様! かっこいい……」
何がかっこいいのかはさっぱり分からないけど。
しばらくその掲示板を眺めていると、声をかけられる。
「ふーん、君がマリアベル? 結構可愛い顔してるんだね」
その声を聞いた友人が私の後ろへ隠れる。
「エリオット・ヴァルアね。こうして相見えるのは初めてかしら?」
「そんなに固くならないでよ。僕は君と仲良くしたいな」
黒髪を揺らしてにっこり笑う彼は、今後私のライバルとなる。
◇◇◇
私は、アンジー公爵家の一人娘のマリアベル。
幼い頃から勉学も、剣技も、礼儀作法も全てに力を入れてきた私は、当然のように学園では1位を取れると思っていた。
女子の中だったら1位は取れた。
だから女子寮長という名誉ある役も任されている。
「やっほー! マリアベル。いよいよ明日は期末テストだね」
しかし、この男がいるせいで未だに入学してからの1年間、全体での1位は取れていない。
「男子寮長なる人が、女子寮まで、門限過ぎてから遊びに来るのはどうかと思うけれど」
「そんなこと言われたって……ほら、この間分からなかった問題教えるからさ、女子寮長さん」
「はいはい、わかったわ」
初めて出会ったあの日から、私達はよく一緒に勉強をするようになった。
エリオットは怪物と言われているけれども、そのルックスとスペックからかなりモテる。
そして、そんな彼は私の隣は居心地が良い、と言っていつも話しかけに来る。
だから、よく「お2人は付き合っているのですか?」とか聞かれる。
しかし、全くそんなことは無いのだ。
きっと私の隣は居心地が良いのは、恋愛感情だとか、変な意識をしなくていいからというだけ。
「この問題は、ここをこうすればいいよ」
「なるほどね。助かったわ」
「お易い御用です。可愛い子の役に立てるならね!」
相変わらずの軽口を叩く彼にため息をつく。
「あなた、そんなことばっかり言っているから勘違いされるのよ。モテたくないならそういう発言はやめたらどう?」
「えぇー、じゃあマリアベルは勘違いしてくれてるの?」
「そんなわけないじゃない!」
頭が良くて、努力家で、イケメンで、家柄も良くて、誠実な一面もあるのに……こんな軽い性格だから、彼が努力を惜しまない素敵な人であることをわかって貰えないのだ。
2つ名が怪物……だなんて、正直全然似合ってない。
私は彼のいい所を沢山知っている。
でも、私は彼のことが好き……なんて言えない。
言ったら最後、きっと彼から避けられてしまう。
彼にとって恋愛感情を忘れられる、居心地の良い空間のままでいたい。
そんなことを考えていると、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「マリアベル様! あ、お取り込み中でしたか?」
「いえ、大丈夫よ。何か問題があったかしら?」
「寮の廊下の窓が割れてしまっていて……」
「了解、すぐに対応をしに行くわ。伝えてくれてありがとう」
「……いえいえっ!」
マリアベル様とエリオット様、今日もかっこいいわね、なんて言って去っていく女子2人組を見てなんとも言えない気持ちになる。
かっこいいよりは可愛いって言って欲しいな……なんてね。
そんな私をエリオットがじっと見つめていることには気が付かなかった。
◇◇◇
「ベルちゃん、いらっしゃい。久しぶりだね!」
「女将さんこんにちは! ごめんなさい、少し忙しくって来れなかったの」
「気にすることないってよ! 皆あんたが来るのを楽しみにしてたんだから、早速一曲歌ってもらうよ!」
「やったー! 久しぶりに歌を歌える!!」
期末テストが終わった日の夜。
私はいつもなら絶対に着ることがない、可愛めのワンピースを着て、ふんわりと可愛いメイクをして、下町の酒場へと繰り出す。
さすがに、貴族が着るフリフリゴテゴテのリボンのドレス……とまではいかないが、平民に見える服の中ではかなり可愛らしいものを選んだ。
あの優等生な女子寮長がこんなことをしているなんてバレたら、みんなにはどう思われるだろうか。
いや、今夜はかっこいい優等生の貴族の令嬢ではなく、可愛くて歌が上手い1人の女の子として過ごすんだ。
「ベルちゃん、今日も上手!」
「よっ! 片思いソングの女王!」
酒場のみんなが合いの手を入れてくれる。
私は、全てを忘れられるこの時間が大好きだ。
そのまま数曲歌って、少し飲み物でも飲んで帰ろうとした時、私は突然声をかけられた。
「……ベルちゃんって言うのかな? 少し僕とお話しない?」
聞き覚えのある声。
まさかと思い振り向くと、そこには見覚えのある顔。
お酒を片手に私に話しかけてくるのは、間違いなく、あのエリオットだった。
「え、えーっと、どちら様ですか?」
必死にしぼりだした精一杯の言葉に、彼は笑いながら答える。
「ごめん、僕の名前を言ってなかったね。エリオットっていうんだ。さっきの君の歌を聞いていたんだけど、めっちゃ上手で惚れちゃったよ」
こいつ……軽すぎる。絶対初対面の女の子にかける言葉じゃない。
それに、いくら服装とメイクが違うとはいえ、私に気が付かないなんてことある?
「あ、惚れちゃったっていうのはほんと。てか、こんなに可愛い子に惚れない男いないよね! もし彼氏とかいないなら、僕と付き合ってみない?」
え、これ軽口じゃなくてガチなやつ?
お酒で酔っているとはいえ、彼の目は真剣に私を見つめていた。
惚れちゃったなら、私ってことに気づけよ!
という心の叫びは置いておいて、今この状況をどう打開するかを考える。
さすがにOKするのはまずい。
「えっと、ごめんなさい。ちょっといきなりそんなこと言われても……」
「じゃあ毎週ここで会おうよ。それで僕のことを気に入ってくれたら付き合って」
寮長ふたりが毎週下町へ抜け出す……のはあまりいいことじゃないけど。
でも、この姿の私なら彼と……?
「う、うん。待ってる」
「良かった、ありがとう! また来週会おうねベルちゃん」
私の頬に軽くキスして、エリオットは出ていってしまった。
彼が好きなのは、あくまで変装した私だ。
女子寮長のマリアベルではなく、平民の女の子のベルちゃんだ。
それでも、私の心臓は鳴り止まなかった。
◇◇◇
「マリアベル様。エリオット様が呼んでますよ」
昨日の夜あんなことがあったから、全く眠れなかった。
「やぁ、マリアベル。期末テストの結果見に行こうよ」
この人……本当に昨日の私は別人だと思っているようだ。
態度が全く変わっていない。
私、あの可愛いって言われたベルちゃんですが?
「わかったわ。今回こそ勝つ!」
「勝てるといいね!」
「いや、あなたに応援されたくないわ!」
「ははっ」
なんだかモヤモヤする!
こうなったらテストで勝つしかない!
「……2位」
「やったー1位だ!」
私が恨みの篭った目で見ると、彼はわざとらしく身震いする。
「怖いよマリアベル。可愛い顔が台無しだ」
「……本当にあなたって軽いんだから」
◇◇◇
あれから半年ほど、私とエリオットは週に1回
酒場で会うようになった。
最近では女将さんや常連さんに冷やかされることも多くなってきて、これは付き合っているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
しかし、学園へ戻ればただの友達。
モテる怪物な男子寮長と、かっこいい優等生な女子寮長というだけ。
酒場でのエリオットからは、何回か付き合って欲しいと言われてきたけど、その度に曖昧な返事をしてきた。
だって、私がマリアベルであることを伝えずに付き合うのは不誠実すぎるから。
「ねぇ、ベル?」
「何? エリオット」
ほら、今日も。
酒場を出たあと、広場にあるベンチに座っていると、彼は真剣な口調で話しかけてきた。
「……僕と付き合ってくれない?」
「エリオット……」
「僕、もう気づいてるよ。君が僕のこと好きだって。もう1年以上前からずっと、……ずっと」
「嘘。あなたはなんにもわかってない」
だって私がマリアベルであることにずっと気づいていないんだから。
でも、私からこれを伝えることは出来ない。
伝えてしまったら私たちのこの酒場での関係は……それに学園での関係だって終わってしまう。
私は、そんなの耐えられない。
「ごめん、やっぱり私は無理」
「……」
夜の広場に沈黙が落ちる。
「じゃあ、他のことがどうでも良くなるくらい好きになってもらうしかないな」
「な、何を言って……」
突然彼の顔が寄ってきたと思ったら、そのまま私の唇に自身の唇を重ねた。
これまで唇同士で触れ合うことなんてなかったのに。
私が動揺で口を少し開いたところに、彼の舌が入り込んでくる。
そのまま2、3分もされるがままだった。
「……っ! ちょっと! やめて」
あまりにも長すぎる口付けに、ストップをかける。
「……ごめん。困らせるつもりはなかったんだ。ちょっとやりすぎた」
エリオットは俯いた後、もう一度私の手を握って目線を合わせてくる。
「ねぇ、ベルは僕のこと好きだよね?」
「……うん」
「じゃあ、どうして付き合うのはダメなの?」
もう。
もう限界だ。
どうなったっていい。
そう思った途端に、私は叫んでいた。
「私は…………!」
「私は、マリアベルよ! 男よりもかっこいいとか言われてるあの! マリアベル!……わかった? ぜんっぜん可愛くなんてないの! ねぇ、付き合おうなんて言って後悔してるでしょう? 聞かなかったことにしてあげるから……」
「やっと言ってくれた。これなら、僕はマリアベルと付き合えるわけだ、だって僕のこと好きなんだもんね」
時間が止まる。
彼は笑っている。
「え!?」
「やっぱり、僕がベルはマリアベルだってことに気がついてないと思ってた?」
コクコクと頷くと、彼は可愛いと言いながら私を抱きしめる。
「入学試験で僕と競っていた時からずっと、マリアベルのことが気になっていたんだ。努力家で負けず嫌いなのもいいし、何より本当に可愛い。かっこいいからこそ可愛いところも多いこと、みんなに気がついて欲しいなぁ……いや、無駄なライバルは増やしたくないからやめておくか」
突然始まるエリオットの甘い話についていけない。
「エリオットは、私の事なんて友達にしか思っていなかったんじゃないの?」
「どうして?」
「だって、モテるけど私の隣は落ち着くって言ってたじゃない」
「うん、なんとも思ってない人に迫られるより、自分の好きな人と一緒にいた方が居心地がいいに決まってるじゃん?」
「そういうことだったの!?」
彼は驚く私の頭をなでる。
「僕かなりアピールしたのに、それに君がたまに見せる表情からは僕のことを想ってくれていそうな感じがするのに……なぜか全然君は靡かないんだもん。これは何かきっかけがいると思って」
「じゃあ、酒場で私と会ったのは……」
「ごめん、ちょっと後をつけてた」
「男子寮長がそんな人だなんてバレたら退職ものだわ……全く」
「でも、こうでもしないとあのままライバル関係のままだったでしょう? 必要経費だって!」
「わかったわかった。そろそろ帰りましょ」
彼の手を頭から退けて、立ちあがる。
彼は私の左手を掴む。
「……手を繋いでもいい?」
今更そんなこと、聞いてこないで欲しい。
「……」
無言で左手を開くと、彼は嬉しそうに右手を重ねた。
この日から私達は、ライバルから恋人になったのだった。
初の短編なので、ストーリー展開等分かりづらい部分がありましたら申し訳ありません。
良かったよと思ってくれた方は、いいね・ブックマーク・評価等していただけると、モチベーションとなります。
よろしくお願いいたします!