世界で一番強い奴 後編
街角で睨み合う2人の大きな体は、歩道を塞ぐように立っていた。
そこに近づく1人の女。
長い黒髪を靡かせ、ミニスカートにハイヒールの女が2人の真横に立つ。
女「あのーすみません・・ちょっと通してもらえますか。遅刻しちゃうと店長に怒られちゃうの」
ダットン 「どうぞ!どうぞ!お通りください!」
ダットンは直ぐに1歩退き、目の前を通りすぎる女の姿をスケベそうな目で見送っていた。
マックス 「チャンピオンでも、女には簡単に道を譲るんだな!」
ダットン 「当たり前だ!てめぇには、1ミリだって譲らねぇがなっ・・あっ!しまった・・・店の名前を聞いとくんだったな!」
マックス 「走って追い掛けろよ!」
ダットン 「バッケッローッ!てめぇに背中を向けれるか!それじゃまるで、俺が逃げてる見てぇじゃねぇか!」
マックス 「ほらほら、まだ間に合うぞ!背中が見えてる!」
ダットン 「くぅ~っ・・よし!ここは、ジャンケン1発勝負でケリを着けよう!」
マックス 「分かった!」
ダットン 「ジャンケン!グゥーッ!」
ダットンは思いっきり振りかぶって、勢いを付けてグゥを出し、そのままマックスの顔面に拳を叩き込んだ!
マックスは、まともに拳を食らったがグッと踏ん張り堪える!
マックス 「てっ・・てめぇ~・・どういう事だ!」
ダットン 「コレが俺のジャンケンだ!」
マックス 「このヤロォ~ッ!」
マックスは顔面に拳を食らったまま鼻血を流し、歯の抜けた顔でニヤリと笑い、自分の広げている手をダットンに見せた。
マックス 「俺はパーだぞ!俺の勝ちだな!」
ダットン 「いや!お前の負けだ!」
マックス 「てめぇ!何言ってんだぁ!グゥよりパーが強いに決まってるだろ!」
ダットン 「それは、お前のジャンケンだ!俺のジャンケンでは、グゥがパンチでパーはビンタ、それを相手に叩き込む!ビンタよりパンチの方が強ぇんだよ!」
マックス 「このヤロォ~じゃあ、チョキは何だ!」
ダットン 「チョキは目潰し、最強だ!」
マックス 「そんなジャンケン知らねぇよっ!」
ダットン 「チャンピオンのジャンケンだな!」
マックス 「チッキショォ~・・よーし!分かった!もう一度勝負だ!」
ダットン 「ダメだ。1発勝負だって言ったろ!もう、お前は負けたんだ!道を譲れ!」
マックス 「絶対!譲らねぇ!」
ダットン 「ちっ!・・仕方ねぇなぁ・・ジャンケンでは俺が勝った。何か他の勝負なら受けてやる!」
マックス 「よし!言ったな!じゃあ、あっち向いてホイで勝負だ!」
ダットン 「こっ・・このヤロォ~・・ヤってやろうじゃねぇか~っ!」
マックス 「いいか!行くぞ!」
ダットン 「おおぅ!」
二人同時に「ジャンケン!グゥーッ!」
互いの拳が顔面にめり込む!
二人同時に「合いこで!グゥーッ!」
2人はグゥを出し続ける!血渋きが飛び、折れた歯が落ち、互いに1歩も引かずグゥを出し続けて2人の顔はボコボコに腫れ上がって行く。
ダットン 「・・なぜチョキを出さねぇ・・最強だぞ!」
マックス 「バカヤローッ!その手に乗るか!目潰しなんか決まるわけねぇだろっ!てめぇが出しやがれ!グゥが最強なんだよ!だから、てめぇもグゥを出してんだろうがぁ!」
辺りはすっかり暗くなっていたが、2人のグゥの出し合いは激しく続く、思いっきりパンチを出すと同時に顔面でパンチを受け止め、グッと踏ん張る!
ダットン 「マックス!てめぇのパンチは軽すぎる!こんなモン幾ら食らっても俺は倒れねぇぞ!」
マックス 「へっ!てめぇの方こそ!チャンピオンのパンチがこんなヘナチョコだとはなっ!」
ダットン 「言ったな!よーし!本気のパンチを食らわせてやる!」
更にグゥを出し続けた2人の顔はパンパンに腫れ上がり、足はフラ付き、ろれつも回らなくなっていたが、気力で合いこを出し続けた・・・
二人同時に「フぁいふぉで・・・・バタン!」
フラフラの2人は、遂にグゥの音も出なくなり、同時に地面に倒れ込む。
ダットン 「ヒョットふへっちはったへ!」
マックス 「へへぇ、はにひっへっは!」
ダットン 「へへぇは、ほへっ!ひひほほへ!」
マックス 「はらぁはにへっはんへっへー!」
立ち上がれない2人は、顔を近づけ睨み合い、理解不能な会話を続けていたが、不思議な事に次第に通じるようになっていた。
ダットン 「これじゃあ勝負が付かねぇ!ジャンケン抜きであっち向いてホイだ!」
マックス 「分かった!俺からいくぞ!」
ダットン 「おぅ!掛かってこい!」
マックス 「あっち向いてぇー・・・」
マックスは自分の鼻に指を突っ込み、鼻クソをほじるとダットンの頬っペタにねじり付け
マックス 「ホイ!」
ダットン 「てっ、てめぇーっ!今のは何だ!」
マックス 「鼻クソ!ねじってやった!」
ダットン 「てってめぇ~!チャンピオンの顔に鼻クソ付けやがったのか!」
マックス 「コレが俺のあっち向いてホイだ!参ったか!」
ダットン 「参るかっ!意味分かんねぇんだよ!汚ぇ奴め・・・次は、俺の番だからな!いくぞっ!あっち向いてぇー・・・」
ダットンはパンツの中に手を入れ、2本の指をケツの穴に突っ込み、それをマックスの鼻の穴へ
ダットン 「ホイ!」
マックス 「だぁ~っ!何だぁ!このクセェのは!」
ダットン 「俺のクソだ!てめぇにはクソがお似合いだ!どうだ、参ったか!」
マックス 「参って・・たまるかぁーっ!ペッペッ!」
ダットン 「このヤロォーッ!唾かけやがったなっ!ペッ!ペッペッペッ!」
マックス 「ペッペッペッペッペッ!」
地べたに這いつくばり、互いに顔を突き合わせ1歩も引かずに唾を掛け合っているうちに、辺りはうっすら明るくなって来た。
ダットン 「ペッ・・ダメだ・・これじゃあ、ラチがあかねぇ・・」
マックス 「ペッペッ!どうだ!降参か!」
ダットン 「死んでも降参しねぇが唾の掛け合いなんてチャンピオンの闘いじゃねぇ・・夜も明けちまうし、ここは先に立った方の勝ちにしよう!」
マックス 「・・いいだろう!」
ダットン 「むぅおぉぉぉぉーっ!」
マックス 「ぬぅおおむぁーっ!」
二人同時に「ぐおぉぉぉ~っ・・・」
2人は、先に立ち上がろうと必死に力を込めるが、体が動かない・・気力を振り絞り、何とかダットンは片膝を付いた・・・マックスを見ると地ベタに這いつくばり、もがいている。
ダットン 「どうしたぁマックス!まだ動けねぇか!俺は、あと一踏ん張りで立ち上がっちまうぞ!」
マックス 「ちっ・ちっきしょおめぇ~っ!動けっ!動け!俺のからだぁーっ!」
ダットン 「グッハハハハハッ!所詮、お前はそんなモンだ!お前はチャンピオンの前で、もがいてひれ伏す!いい光景だ!これが王者の眺めだ!」
マックス 「くっそぉ~っ!ふんがぁ~っ!」
マックスのボコボコに腫れ上がった顔・・血とヘドが混ざったベトベトの顔に鼻先から漂うウンコの臭い、プルプルと震える膝に自分の限界と屈辱感から涙が滲み出る。
ダットン 「ん?泣いてんのか?マックス!だから、てめぇは負けるんだよ、情けねぇ・・・よし!俺がいっちょ、闘魂を注入してやる!」
マックス 「・・闘魂を・・注入する?・・」
ダットン 「マックスよく聞け!クソまみれで負けた試合は、シュークリームが悪かったんじゃねぇぞ!プリンだ!俺が、てめぇのプリンにタップリと下剤を注入してヤったんだよ!」
マックス 「なにぃーっ!こっこっこのヤロォ~っ!!!」
マックスの怒りが全身を駆け巡って行く。怒りは、気力に活力を与え、体に力をみなぎらせた!体中から力が沸き起こる高揚感を感じたマックスの体はマックス状態!そして今が、人生最大のクライマックス!鼻から一気に息を吸い込み!
マックス 「くっせぇ~っ!」
クソの臭いがマックスの感覚を麻痺させ限界突破!湧き出る力で地面を押し上げ、片足を立てると思いっきり踏ん張る!
マックス 「ぐおぉおおお~っ!」
ダットン 「おっ!力が出て来たか!」
ダットンも負けじと最後の力を振り絞る!限界を越えた2人の意地と気力で立ち上がる!
ほぼ同時に立ち上がった2人だったが、ダットンの膝はガクガク振るえてやっと立っている。マックスの膝も振るえていたが笑顔を見せていた。
マックス 「へっへっへっ!俺の勝ちだ!俺の方が早く立ち上がった・・・勝ったぞぉーっ!」
マックスは高々と両手を上げて勝利宣言をしたが、バランスを崩して横に倒れてしまう!
マックス「ぐぁ・・っ!」
ダットン 「やっと道を譲ったか・・マックス!最後に立っている者が勝者だ!」
ダットンは、地ベタに這いつくばったマックスの目の前を胸を張って、ゆっくりと歩き出す。
ダットン 「マックス!俺は、お前の力を全て引き出し、お前を倒した。これがチャンピオンの闘い方だ!」
マックスは悔しさをこらえダットンの後ろ姿を見上げる。去っていくダットンのスキンヘッドに朝日が射し込み光を放っていた・・・それはまさに、王者の輝きだった・・・
ダットン 「アレ?俺、何処に行くんだっけ?」
この日の限界を越えた激闘・・・肉体を痛め付け、精神をすり減らした泥試合の影響は、2人に大きなダメージを与えた。
ダットンは、この後1度も試合に出る事なく無敗のまま引退し、マックスも肩と首を痛め、引退を余儀なくされていた・・・
ー1年後ー
ダットンが街中を歩いていて、角を曲がった所で偶然マックスと顔を合わせた!
2人は道を譲らず、互いに睨み合っている・・・
(おわり)