恐怖
祖父の腕時計を眺めていた。
時針、分針、秒針、曜日、午前午後。
時計は動いていない。
俺が知っているのは、竜頭を触ると時間が止まると言う事だけだ。
他にも色々な機能がある筈だが、それはまだ分からない。
一見古びた男物の普通の腕時計だ。
曽祖父の説明書を見る。
意味を取ろうとするが、上手く行かない。
穂乃果・・・と思うが・・・『休め』って言ったしな・・・止めとこう。
まず、竜頭を巻くとどうなるか・・・恐らく・・・時間が巻き戻るのではないか?
しかし、穂乃果は危険だと言っていた。
どの程度の危険なのだろう?
時間が戻るという事はどういう事だ?
俺と言う物体がどうなるのだろう?
精神のみが戻る?
それとも、体ごと戻る?
竜頭の他に4つのボタン、というかこれも回転するのか?
これで何が出来るんだ・・・。
ボケっと、腕時計を左手で持って眺めている・・・・。
色々、想像する。
危険、無限の可能性、価値が無限大。
危険・・危険・・・穂乃果の恐怖・・・表情、恐怖の表情、怯え・・。
危険性か・・・・。
もう一度曽祖父の説明書と言われた和紙をめくる。
何となく意味が取れそうで取れない・・・。
古文もっと勉強しとくんだったな・・・。
必要性を感じなかったので、古文は完全に試験前の一夜漬けだ・・・。
これは、穂乃果に訳させなきゃ・・ダメだな・・・。
子機が鳴る。
「航一郎様、近藤公彦様がいらっしゃいました」
「俺の部屋にお願いします」
「はい」
藤原さんはやはり色々知っているな。そう感じた。
ドアがノックされる。
俺は腕時計を左のポケットに入れた。
さて、ここからだ。
「どうぞ」
「失礼します」
藤原さんがドアを開け、近藤がドアの前に決まり悪げに立っていた。
「入れよ」
「あ、うん」
近藤は少し委縮しているようだ。
「ソファーに座ってくれ」
「あ、ああ」
冷蔵庫からコーラの2リットルペットボトルを取り出すと、コップに二人分注いだ。
「暑かっただろ」
「あ、ああ、暑かったよ・・・」
「ほら」
コーラのコップを渡す。
「悪い・・・」
近藤はゴクリ、と飲んだ。そして、残さず飲み干す。
「勝手に注いで飲んで」
2リットルのペットボトルをテーブルに置く。
「悪いな」
近藤は二杯目を一気に飲み干す。
俺はコーラに手を付けず、それを見守った。
「眠くならないか・・」
「え?」
「まだ、大丈夫なのか・・・」
「お、おい、何言ってんだよ!」
「・・・・・・」
「まさか・・!」
近藤はコーラを恐怖を込めて見る。
「大丈夫だよ」
「何がだよ!」
「俺の目を見ろ」
「・・・え?」
俺の目を近藤が見た瞬間に俺はポケットの竜頭を触る。
時間が止まり、近藤が俺を見ているのを確認する。
さて・・・・・・。
俺はゆっくりと作業を始めた。
「・・・・・」
近藤の時間が戻る。
「え!?」
結構反応が早いな・・・・。
「お、俺・・寝てたのか?」
「・・・・・」
「なんの冗談だよ、これは・・・・・」
近藤が手枷と足枷をガチャガチャゆする。
「実はな、さっきのコーラには薬が入ってたんだ」
「・・・・・・」
「まぁ自白剤とかそういう類のものだ。危険性はほとんどない」
近藤は混乱の極みにあるのか、目を仕切りに周囲へ走らせ、冷静さを保とうと必死だ。すごい恐怖を味わっているのだろう。手枷足枷でソファーに固定されて手足は動かせない。動かせるのは頭と目と口位だ。
俺はグロックと呼ばれるモデルガンを近藤に向ける。
「知ってる事を全て話せ」
「や、止めてくれ!!!あぁああぁあああ!!ごめん、悪かったよ、ごめん、謝るから・・ごめん止めてくれ、俺は・・」
「早く話せよ・・」
グロックを近藤の眉間に向ける。
「わ、分かった。落ち着いてくれ、航一郎、いや、航一郎様!」
「お前こそ、落ち着け、別に殺すつもりは今はないよ」
「う、うん、そ、そうか・・・う、うん、俺は、いや僕は、君、いや、、」
「落ち着け」
「わ、分かった」
「話せ」
「な、なにを?」
「全てだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・」
「ダメだ、話せ」
俺はグロックの引き金に手を添えて筋肉をワザと緊張させる。
「お!!おれは!!知って、知ってたんだ、お前が、お前が、四井のあれになるかも、あれ・あれ・・あれに・・・」
「落ち着け」
グロックを下に向ける。
「話せ」
「わ、分かった、悪かった知ってたんだ・・俺はお前が・・・」
それから、近藤は最初から知ってて高校になってから近づいたこと、親友になれば将来の為になると親から言われていたこと、しかし、本当に友情を感じていたこと・・・等々どうでも良いことまで、声が枯れるまで話し続けた。
「もう良い。止めろ」
「あ、ああ、え、えーと、ま、まぁそういう事で・・決して」
「分かったよ」
「ありがとう。航一郎様、君には感謝してるんだ。色々と」
「黙れ」
「・・ああ」
「これから、選択して貰う」
「・・・・・・」
「俺に完全に服従するかどうかだ」
「・・・服従するよ」
「・・・・・・・」
「そりゃ、体拘束されて銃で脅されてるんだ・・・そういうしかないよな」
「・・・・・・いや・・」
「考えて決めろ、今すぐに」
「完全に服従って、どういう・・・」
「そうだな、俺が人を殺せと言ったら殺せ、死ねと言ったら死ね、どうだ、単純で明快だろ」
「・・・・・」
「どうした?さっきのはやっぱり嘘か?」
俺はグロックを再び近藤に向けた。
「あ、待て、ちょっと待ってくれ。お前落ち着いて・・」
「お前?呼び方が違うんじゃないか?」
「あ、悪い、ごめん、航一郎様、違うんです」
「で?」
「あ、ちょっと待ってくれ、銃を向けないでくれ、本当に怖いんだ」
銃を下ろす。
「で?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
近藤は考えているように見える。必死に。
「完全に服従したら、俺はどうなるんだ?」
「そうだな、今の親友のポジションを受け持って貰う。お前は優秀だし、容姿もいい。人材として貴重だ」
「そ、そうか」
近藤は一気に緊張が抜けたように、自然に微笑んだ。
「それに、お前には友情を感じているよ。近藤」
「ありがとう、ありがとう!」
「それで?どうする?」
「・・・俺なんかで、役に立つのか?」
「ああ、お前は自分で思っている以上に出来る奴だと思うよ」
「そ、そうか・・」
「さぁ決定しろ、今後の自分を」
「わ、分かったよ。俺はお前の、お前に・・完全に服従する」
俺はニコリと笑って見せる。そして銃をベッドに投げ捨てると子機を手に取った。
「藤原さん、ちょっと来て」
藤原さんに鍵を渡し、近藤の手枷、足枷を解いて貰う。
近藤はニコニコとハイテンションだ。
冷蔵庫からファンタの500mlペットボトルを出し置いてやると、旨そうに飲んだ。
「で、これから何をするつもりなんだ?こ、航一郎様?」
「何時もの呼び方で良いよ」
「あ、ああ、悪いな・・ってのも違うか・・こ、航一郎」
「これから、俺たちの学校を支配する」
「・・・・なるほど・・」
「お前には生徒会長になってもらう」
「俺が?」
「たぶんな・・・計画はこれから説明する」
「わかった」
「ちょっと見てろ、俺を見てろ」
俺は時計の竜頭をポケットで触る。
そして、近藤の後ろに移動して竜頭から手を離した。
「え!?」
「ここだ」
「え、ええ!」
「これが、俺の力だ」
「あ、え・・、あ、ああ」
「これから、共にやるぞ」
「あ、ああ、うん」
俺は近藤の肩に手を優しく載せた。
近藤の体はビクリと震えた。




