旅立ち
「旅に必要な大事なことだけ話すから、よく聞くよーに!」
用意してもらった部屋に到着し、イヴァンが話始める。
「いい?さっき適材適所は大事って言ったけど
例えば朝が苦手なオリヴィアに朝食とか荷造りを任せたら、人の3倍は時間がかかるから出立がかなり遅くなるわね。」
「‥たしかに」
まさに今朝の出来事です‥
「だから朝はエルデ君に任せてあんたは自分の支度をすることと目的地の経路の確認と羊の世話でもしてればいいわけよ。
そのかわり寝場所の確保、お金の管理、魔法で済ませられる家事もあるわね、他にもあなたがやらなきゃならないことが沢山あるんだから、どちらがやっても変わらないことは分担してこなしなさい。
正直あんたよりしっかりしてそうだから任せるところは任せちゃいなさいよ!そうよねー」
「ねー」
イヴァンとエルデ2人に同意されて大人の面目がない私はぐぬぬ……と、呻くしかない。
「必要なこととかやることはこの本に大まかに書いてあるから道すがら読んでいくと良いわ」と小さめの本を渡された。
『子供でもわかる旅の手引き』と書いてある。
んん?バカにされてる?
「あと、お金については朗報よ」
「え?」
これ、と胴回りほどの包みがジャラリと音を鳴らしてテーブルに出された。
「これは金貨?」
「そう、今朝仕事場の中に置いてあったわ‥このマーク見覚えあるでしょ」
オーギュストの家紋がそこに記されていた。
師匠のおどけた姿が浮かぶ。
「まったく、許可した人物しか入れない結界がはってあるっていうのに‥
お陰でセキュリティの見直ししなきゃならなくなったわよ」
「‥何やってんのあの人‥」
「ま、銀行に行くのも危険だったしちょうど良かったんじゃない?」
「至れり尽くせりってこのことね‥過保護すぎる」
師匠もイヴァンもエルデも隙あらば甘やかそうとしてくる。そう考えてオリヴィアはため息をついた。
「お陰で箱入に育っちゃって心配だわあ」
「お母さんですか」
「あとは旅の経路ね。
基本的には門番がいるような街には近づかないほうがいいけど、そうも言ってられないから必ず外見を変えていくことと、どこから来たとか関係とか目的とか不自然じゃない設定を‥‥あとで決めてあげる。
それと、これから冬になって旅をするには厳しい季節だから少し距離があるけど南部の港町を目的に進むといいわ。
後でピックアップした場所を教えるわね。
宿屋を取る時は必ずその土地で名前が売れてる場所にすること、安宿は厳禁。
荷物のリストはこれ、使い方のわからないものは今のうちに聞いてくれる?」
「わかった」
リストを受け取り内容を確認する。荷物自体は先ほどイヴァンが異次元鞄に詰めて持ってきてくれた。
師匠からのお金をありがたくいただき、一部だけ財布に入れてあとは鞄に詰める。
エルデにもいくらかお金を持たせるように小袋に入れ、彼用のベルトポーチに入れた。
そこには小型のナイフが取り付けられていて複雑な気持ちになるが、今朝の襲撃者を制圧した出来事を考えると素手でいさせるわけにもいかないだろう。
オリヴィアは自分の首から下げられている透明な石のついたネックレスを外してエルデを呼ぶ。
「エルデ、これを」
「いつもオリヴィアがつけてるのだよね」
「うん、お守りだから肌身離さず持ってて」
この石は結界水晶と言って攻撃魔法に反応して結界を張ってくれる物らしい。
とても珍しいもので、オリヴィア自身どのようなものかはよく分かっていないけれど、いざという時この子を守れるものは多い方がいい。
遠慮がちに見上げるエルデの首にネックレスをつけてあげると興味深そうに水晶を眺めて嬉しそうに笑った。
「ありがとう、大事にするね」
✳︎
旅の準備が整い、街の関所を通過するためにイヴァンのつてで紹介してもらった旅芸人の一座に合流することになった。
一座の下働きに見せかけて関所を通過するため、髪色は黒に近い茶髪に服装はエスニック風なゆったりとした服装に変えている。
正直師匠の住むこの街から出ることが1番リスクの高い行為なのだけれど、この分なら問題なく旅に出られそうだ。
優秀で優しい友を持って私は本当に幸せ者だと思う。
「‥イヴァンがいてくれて本当に良かった。ありがと」
イヴァンとはここで別れ、あとは自分で行動しなければならない。
ここから先、エルデを守れるのは自分だけだと言う責任感に手が少し震える。
「あなた1人で平気みたいな顔してるから友人としては心配してたんだけど‥こんなふうに頼られて、正直嬉しいのよ」
だから‥と言葉を続ける
「絶対に逃げ延びなさいよ」
イヴァンは、ちゅぅとオリヴィアの頬にキスをして小さくベッと舌を出すと悪戯っぽく微笑んだ。
エルデはギョッと目を見開いて唖然として固まっている。
「お代はいただいたわ」
「ちょっと!!」
「あはは真っ赤じゃない」
「もういい!行く!」
オリヴィアは顔を真っ赤にさせて荷車に乗り込んだ。
イヴァンは片手を上げて二人を見送っている。
「まったく、こっちの気も知らないで‥」
やれやれと一行の見送りを終えイヴァンは肩を落とした。
できることなら自分も一緒に行きたかったが、国が相手なのだ、離れた場所で支援する信頼できる人間が絶対に必要になる。
「無事に帰ってこなきゃ承知しないんだから‥」
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