追われているそうなので逃げます
風呂に入り、寝る準備を整えたのでオリヴィアはベッドの背もたれに寄りかかり、エルデを抱えるように向かい合うと今後のことについて話し始めた。
「さっき私の師匠が沢山の人に追われていることは聞いたね?」
「うん、でも、悪い人じゃないんでしょ?」
「ああ、変な人だけど私にとっては恩人なんだ。幼い頃に捨てられた私を拾って育ててくれた」
「今の僕とオリヴィアみたい」
オリヴィアは恩人と自分とを比べるのはおこがましいような気がして微笑む眉が自然と下がる。
エルデにとってみたら鳥の刷り込みのように自分を助けた恩人だと慕ってくれているのだろう。
「師匠を捕まえるために弟子の私まで追われる可能性が高い。相手が国だから何をしてくるかわからないんだ」
「そんな‥悪いこと、何もしてないのに」
「それと、エルデもこの件に関わっているかもしれないから、なるべく竜人族だってバレないようにしたほうがいいね」
「僕も?!」
「そう、だからこれからどうやって身を守るか決めないとならない」
「うん」
「まずは、捕まらないように逃げることが1番大事だ。住むところを変えて見つからないように生活するか、旅をしてひと所にとどまらず転々とするか‥なんだけど、エルデはどうしたい?」
「えっ?ぼ、くは‥」
今日見た道すがらでの景色を思い出す。
瞳に映る白黒の世界が思い出したかのように一瞬だけ色づいた様はとても感動的だった。
「旅を、してみたい‥」
今日、空が青いって植物の色や花の色を思い出してすごくすごく綺麗だとおもった。旅をしたらちゃんと取り戻せる気がする
「ん‥そうか、うん、それもいい」
「オリヴィアと、一緒にいて良いの?」
「うん、もちろん。そのつもりで話をしてた」
「うれしい‥」
子供らしい笑顔を向ける少年の無邪気さに
嬉しくなると同時に引き攣ってクマのある目元を見て胸が締め付けられる。
「詳しいことは明日決めよう。今日はお休み」
「おやすみなさい」
✳︎
エルデが寝静まると、オリヴィアは鳥の使い魔でイヴァンに連絡を取っていた。
「‥ああ、各地を転々と旅をすることに決めたよ」
「思い切ったわね‥大丈夫?旅なんてしたことないでしょ」
「まぁね」
「‥‥‥わかったわ、こちらで準備は整えておくから」
「助かるよ、予算はそれなりにあるから後で請求して」
鳥の通信が切れるとエルデの寝顔を見て頭を撫でた。
(あんなに無邪気に笑うのに体は随分と衰弱している…)
この子供は忘れられた過去、どれほどの眠れぬ夜を過ごしたのだろう
そう考えてふとある少年の姿を思い出す。
10年位前にレーアンの国境砦に出入りしていた頃に出会った私と同じ年頃の騎士の少年
彼も何日も眠れていないような荒んだ目をしていた。
彼は今眠れているだろうか……
そんなことを思いながら目を閉じた。
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