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イケメン筋肉乙女なお兄さん

レーアンの街についてすぐ羊を預けて商品をお金に変えた。


この街は敵国の国境近くに位置しているが、領内でも経済の中心部であるため防壁や防衛がしっかりとなされており、人口も比較的多く人々も活気がある。


商店街を抜けた先の2階小さな部屋を訪ねると

乙女チックな言葉遣いの筋肉イケメンお兄さんが腰をしならせながらオリヴィアの腰を抱き寄せ挨拶をした。


「あーん、久しぶりねぇ相変わらずいい女してるじゃない♡おちびちゃんも初めましてぇ︎」

「イヴァンも一層良い男ね、口調以外は」


イヴァンは肉食系の獣人特有のネコ科のようなしなやかな体躯で人懐っこい笑みを浮かべている。

彼は師匠の知人で情報屋をやっていて、オリヴィアとは5年近い付き合いになるだろうか。


「もぅっ!しばらく来ないと思ったら子供ができてたなんてショックー私と言うものがありながら!」

「そんなわけないでしょ!!昨日家の前にいて‥

って、それどころじゃないのよ師匠の居場所わかる?」


相変わらず勿体無いイケメンだなぁと思いながら本題を出した。


「あら、知らないの?

王国魔術師長オーギュスト(オリヴィアの師匠)は失踪中よぉ

その件できたのかと思ってたけど、違うのねぇ」

「は?失踪?!」

「今朝入った情報だけど、どうやらかなりヤバいことをやらかして逃走したみたい、世間的には行方知れずってことにしたらしいけど‥

流石に国もあれだけの高位魔術師を敵に回したくはないんでしょうね」


師匠の頭がおかしいのはいつものことだが国から追われる程とは思わなかった。


「なんでそんなことに‥」

「‥まぁ、気持ちはわからないでもないわ」

「え?」

「‥…あなた世情に疎いのねぇ、今この国で起こっている戦争のことよ、相手国はもう降伏状態なのに戦力を次々に送り込んで無闇に戦を長引かせているの」

「なんで?戦争は儲かるとかそう言う話?」

「さぁねー。理由は様々でしょうけど、以前から囁かれてる噂が関係しているのかもね」

「噂?」

「どうもウィリム派(王弟派閥)がきな臭いらしいの、騎士団の人員を入れ替えたり王都周辺の貴族を取り込んでるとか‥」

「簒奪?」

「どうかしらね、第一継承権を持っている王子はもうすぐ成人を迎えるから殿下を殺すつもりなら、あるいは‥」


物騒な話に眉をひそめた。

これでは王都にコンタクトを取るのも難しそうだ。エルデの素性を確認したいと思ったのだけど‥


「ん、困ったな‥イヴァン、封印術詳しい?」

「一応ギルドの魔術鑑定を請負ってるから何の魔法かくらいはわかるわよ」

「助かるよ、この子の首輪がどんなものか見てほしいんだ。多分、師匠が関わってる」


子供のフードをパサリととって首輪を見せる。


「へぇ、んーどれどれ?‥あら、あなた竜人族じゃない??初めて見るわぁ、うふふ可愛い子ねぇ」


竜人族といえば、もうすでに数は少ないため滅びたと言われているが、この国の戦の要、一騎当千の力があるとされるフェルディナントという英雄を排出した種族で身体能力や魔力量が高いとされる獣人の何倍もの力と頑強さを持つとされる。

ただし、子供のうちは種族独特の虚弱体質が色濃いせいで成体までの生存率が低いらしい。


これは、厄介ごとの匂いがプンプンするわね‥


エルデの首に付けられた金属製の首輪は見るからに高価な魔道具だ

精密な金属の配合をしてあるようにも見える。

こんな代物は身分の高い貴族でも手に入れるのは難しいだろう。


「封印術に間違いないわね、この子の力を抑える効果があるってだけで本人に害があるわけじゃなさそう‥これだけ高度で高価な魔道具を使って抑えてるくらいだから封印を解いたら逆に危険かも‥」


ま、ちょっとやそっとで解ける仕組みじゃないけど‥そう言いながらイヴァンはエルデの目を覗き込む


「これは誰につけられたの?」

「わからない」

「何か覚えてることは?」

「白い男の人が何か言ってたような‥」


不安気に揺れる瞳に嘘はない。


「記憶がないらしい」とオリヴィアが伝えるといよいよイヴァン眉間の皺が深くなった


「ご丁寧に暗示もかけられてるようね‥エルデ少し眠っていてくれる?」

「え‥」


エルデの目の前に手をかざし眠らせるとソファに横たえる


「オリヴィア、これからこの子をどうするつもりでいるの?」


いつもの気軽な調子と違うイヴァンの様子に真剣な響きを感じる。


「身元がわかるまでは保護することになる‥かな」

「はぁ‥悪い事は言わないわ、平穏に暮らしたいならこの件から手を引きなさい」

「え?」

「あなたも気がついていると思うけど、この子に術を施したのも暗示をかけたのも、おそらくあなたの師匠だと思っていいでしょうね」

「うん‥」

「この首輪をはめられるのは王国魔術師か神官でもトップクラスの高い地位にいるような魔術師だけだから間違い無いわ。」


つまり、この子を保護するということは国から追われる可能性が高いということか。


「現状オーギュストの弟子ってだけで追手を向けられる可能性があるっていうのに、子供まで匿うなんて無謀よ」

「はーー‥…師匠が、私に、この子を託したんだもの‥放り出せるわけない。」

「‥‥まったく、あんたも損な性分ね」

「そんなことはないよ、私も危険な立場なことに変わりはないし‥協力、してくれる?」

「当然よ」


『国境は警備が固められているだろうから国内の見つからないところで暮らすか、各地を転々とするか‥選んでちょうだい。必要なものはそれに合わせて手配するわ。家にはもう帰らないほうがいいわね、持ち出したい荷物があれば使い魔で持ってきてあげるわよ。』

イヴァンはそう言って色々と手配を申し出てくれた。

神を信じたことはなかったけど、できる友人を持ったことに感謝したい。


元々平和な日本で生まれ育ち、転生してすぐに親に捨てられたものの幸運にも師匠に拾われ田舎でのほほんと暮らしてきたオリヴィアは自身が危機感知能力が低いのを自覚している。


『いい?一つの店で大量に買い込んではダメ、エルデくんも預かるわ、ひとまず3日匿える部屋を用意するから取り急ぎ必要なものだけ買うこと。』オリヴィアはイヴァンに言われたことを思い出しながら商店で物色をする。


「子供服と洗面用具と食料と‥一応魔石も‥」

エルデの低体温対策に毛布も必要だな

元々2〜3泊くらいは泊まれるように準備して来ているから自分のものはさして必要ない。

ふと、猫耳風の黒いニット帽が目に入る。



「ただいまー」

「オリヴィア」


イヴァンの仕事場の扉を開けるとエルデが駆け寄ってきてオリヴィアの服の裾を掴んだ。


「捨て置かれたと思ったみたい」


大丈夫って言ったんだけどねーとイヴァンが苦笑する。


「起きてから出かければよかったね、大丈夫、一緒にいる」


視線を合わせて頭を撫でてやるとホッとしたように手を離した。


「エルデの服を買ってきたから着てみて、少し大きいかもしれないけど」

「わぁーありがとう!」

「ずいぶん懐かれてるわねー可愛い帽子じゃなぁい」


猫の帽子をかぶってエヘヘっと照れるエルデに相好を崩すオリヴィア。

そんな彼女の姿を見てイヴァンは目を見張る。


「‥‥子供、好きなんだよ」

「あら、初めて知ったわ」

「まぁ‥」

(前世の話だし)

「ふぅん、さてと」


イヴァンがおもむろに魔術師の杖を取り出して何やら記号のような文字や記号を用いた魔法陣を床に描いていく。


「支度も整ったし、さっさと移動するわよ」

「エルデつかまって」

「う、うん?わわっ」


陣の中に入るとジャプンと床が水のように揺らめいて3人を飲み込んだ。


「プハッ‥!」


床に沈んだ瞬きほどの間で見知らぬ部屋に移動したのでエルデは驚きで言葉を失っている。


「ここは歓楽街にある酒屋の簡易宿泊所‥、あけすけに言えば発展場のヤリ部屋なんだけど」

「ちょっと!!子供がいるのに‥!」

「あのね、あんたに伝わらなきゃ意味ないんだからしょうがないでしょ!まったく

建物自体の機密性は抜群だけど外の治安は悪いから気をつけてちょうだい。

昼間なら下の階にあるキッチンを使っていいらしいわ。それ以外の部屋の出入りはしないように」


わかったわね?と念を押して使い魔を差し出す。


「何かあったら使い魔(この子)に言って。身の振り方については明日までに、お願いね」

「わかった」

「じゃ、いくわね」

「ばいばい」


イヴァンはじゃぁねと人懐っこい笑みで手を振り魔法陣で帰っていった。


「今の話わかった?」

「うん、この部屋からでちゃダメなんだよね」

「そうだよ、賢い子だ」


よしよしと頭を撫でるとエルデは照れたように俯いた。


「身の振り方って、どこか行くの?」

「ん、そうだなぁ風呂に入りながら話そうか」


エルデの帽子や服をポイポイっと脱がせてあげながら言うと途端に真っ赤に顔を染めて後ずさった。


「えっ!!ぼ、僕1人で入れるから」

「ん?恥ずかしい?」

「‥う、うん」

「寝ないで待っていられる?」


コクコクと必死に頷くので好きにさせてやることにしよう。


「じゃあ寝巻きと下着とタオルこれ」

「ありがと、入ってくるね」


駆け足で風呂場に向かう様が可愛らしい。


見ていただきありがとうございます♪

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