朝が苦手なのは今世から
エルデ視点からはじまります
次の日
ほのかに温かい手が額に触れてベットが軋む
目を覚ますと昨日僕を助けてくれた女性がフラフラと室外に出て階段を降りる音が聞こえた。
見回すと古めかしい簡素な天井と壁。
使い古されたチェストが目に入る。
かけられた衣服を見るに彼女の部屋なのだろう。
目を擦りながら体を起こして生活音のする方へ向かった。
階下に降りると、暖炉のそばで半分眠っているようにガクンガクン頭を揺らしながら軽食を作るオリヴィアがいる。
魔法も使っているからか、なんとか食材を落とさず済んでいるようだが、目も開いていないし意識もあるのか微妙なところで見ていて危なっかしい。
「お、はようございます」
「‥はよ〜」
オリヴィアはむにゃむにゃと目を擦りながら卵とウインナーが入ったフライパンをパンが置いてあるテーブルの鍋敷にゴトリと置く。
温めたミルクを大きめのマグに注ぎ指でコンコンと僕に席に座るよう指し示して「食べな」と自身も席についた。
エルデはおずおずと席に座り食べ始め、オリヴィアはいただきますと微かにつぶやいてフォークを握った。
「あの‥オリヴィアさん、助けていただいた上に食事までありがとうございます」
「ああ、感謝をするのはいいことだ。
だけどエルデ、私には敬語も敬称も不要だよ。
その年齢で随分としっかり話せることを褒めるべきなんだろうけど、幼い君にはまだ早いね」
そうぶっきらぼうに言うと眠そうな態度で、もぐもぐぱんを頬張っていく。エルデはその言葉を噛み締めるようにぽつりと呟く。
「‥うん」
「支度が済んだら街にいくから荷造り手伝ってくれる?」
エルデはこくこくとうなづいた。
食事を終え、オリヴィアの後につくように片付けを手伝った。魔法で済ませるから座ってていいと言われたけれど、何故だか無性にそばにいたくて付き纏ってしまう。
荷造りをするため様々な種類の乾燥させた植物が保管されている部屋に案内された。草木の乾燥した香りと様々な花の香りがふんわりと香る。
オリヴィアに指示された通りに植物を瓶に詰めていった。
「この植物は何につかうの?」
「薬、お茶、料理とか色々、街で売るんだ」
「へぇー、草花って色々使えるんだね」
「砕いたり粉末にして売られるから何からできているかまで知らない人が多いよ」
植物を詰めた瓶をオリヴィアが異次元鞄に入れていく。
明らかにカバンより大きい便が吸い込まれるように鞄に収まっていったのでエルデは目をまるくして驚いていた。
「わぁっ!すごいすごい」
「生きてる物以外は入れられる」
「こんなに軽くて小さいのに」
不思議そうにバックの周りを見回して裏を覗き見たりして興味を示している。
ファンタジーの定番の便利グッズだが、この世界ではまだ開発されていない技術でオリヴィアの要望を師匠が実現してくれたものだ。
魔法もない異世界の空想物を実際の魔法で再現してしまうのだから師匠は本当に天才としか言いようがない。
若干18歳で国一の魔法師と呼ばれ、30歳に至る現在まで数々の偉業と変人ぶりは他の追随を許さない。
そんな彼の寄越した子供となると
確実に厄介ごとが潜んでいるだろうなと
この先にあるであろう揉め事を想像して嘆息した。
説明くらいしてよ‥
✳︎
大人の背丈ほどの大きな羊に鞍をのせ、エルデを抱き上げ乗せてやる。
この世界では様々な動物を移動手段とするが、羊は足は遅いが寒さに強くクッション性に優れ、冬の長時間移動に適しているためオリヴィアは好んで羊を使っていた。
「ふかふか」
楽しそうに羊の毛をふかふかする子供は年相応にあどけない。
「落ちないように」
オリヴィアは念のためコート中に子供を入れ縛る。
暖かいコートに包まれてエルデはなんだかくすぐったい気持ちになった。
(温かい‥)
多分僕は過去こんなふうに大切に扱ってもらったことがなかったんだろうな、となんとなく思う。
周囲を見渡すと嵐の後の土の濡れた匂いと曇りのない青空、遠くに見える山々に手前には豊かな草原が広がって草花に着いた雫がキラキラと反射している。
きっと息を呑むほど美しいであろうその景色を
ぼんやり眺めていると一瞬景色がブワッと色づいた気がして目を見張る。
「‥きれい‥」
ぽつりと呟いた子供の声は微かで届くことはなく空に消えた。
見ていただきありがとうございます♪