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玄関に少年が落ちていたら


ザーザーと嵐のような雨の日の夜

小屋のような家はギシギシと軋む音を立てる


そろそろまともな建物に越さないとな‥とガタガタとうるさい立て付けの扉にうんざりしながらオリヴィアは暖炉で湯を沸かしてカップと茶葉を用意する。


不意にゴンゴンと遠慮のないノックのあと、ガタンと大きな音が扉の向こう側からした。


こんな夜更けの嵐の日に訪問者とは‥


確実に厄介ごとを感じて眉をひそめる

扉を壊されても面倒だと顔をしかめて扉を開けた。


「誰?こんな時間に‥」

扉を開けるとそこには誰もいない。

「?」

見渡すと自分の足元あたりにずぶ濡れの泥鼠のような子供が倒れている。

歳の頃は5、6歳といったところだろうか。


「え?子供がなんでこんなところに……」


この家の周辺は民家などはない。

戦が始まってから国境付近のこの住まいは、特に人が避ける土地だ。大人が通れども子供なんてとんと見かけることはなかった。


それにペットにつけるような金属の首輪にサイズの合わないシャツ一枚の出立ちを見ると奴隷のようにも見える。

冷たい衰弱した様子の子供


たまに街に出た時くらいにしか人と接していなかったオリヴィアはこの突然の訪問者に心底困惑していた。


どうしろっていうのよーー‥




✳︎




「‥あーもー、ドロドロじゃないか」


青い濡れ鼠に汚された寝巻きのまま風呂でガシガシと汚れた子供の服を脱がし洗う。


この服は使い物にならないな、とドロドロの服を洗うのは早々に諦め捨て置く。

子供の頭に生える独特な形状のツノと所々にある鱗は獣人の中でも希少な種族を思わせる。


パシャっとお湯を子供の体にかけると子供が目を覚ました。


「う‥」

「ん、起きた」

「え?‥な!なにっ」


かぁぁっと赤い顔をする子供を見ることなく抱えた腕を解いて子供の頭についた汚れを擦って洗う。


「家の前で倒れていたでしょ、泥だらけだったから洗ってる。覚えてない?」

「あ‥」

「ん、もうちょっと‥よし、洗い終わったからそこの湯に肩まで浸って」


その少年は恐る恐る湯船に浸かると暖かさに気持ちがよさそうにしている。

(ふわぁーあったかくて気持ちいい‥いい香りがする)


湯上がりの子供に自分のシャツを着させタオルでわしわしと頭を拭いてやった。


「低体温になりかけてたから湯冷めしないように布団かぶって」

「わっ」


どさどさっと布団を多めにかけて、子供の頬に手を当て体温を確認するとマグカップに入れたハーブティーを渡す。


「飲める?」

「花の香り‥?」

「カモミールティーだよ、体を温めてリラックスさせる作用がある」

「ありがとう、ございます」


(竜人族は国の英雄騎士以外は絶えたと聞いていたけど……)

「なぜ、こんなところにいたの」

「気がついたら森にいて‥今までどこにいたのか‥」

「記憶がないのか‥」


ふむ‥と、不安そうな子供の頭の空をなぜるように解析魔術を行使する。

何かの術の痕跡を見つける。

封印系の術に似ているが詳しくはわからない。


幻術の類いでもなさそうだからこちらに危害を加えるものでもないだろう。

首輪と全身についた古い傷跡が痛々しい

奴隷の子供だろうか?


「名前は?」

「ぅ‥‥エ、ルデ」

「他にわかることある?」

「白い人が近くの家に行けって」

(白い人‥)


オリヴィアは白い髪の自分の師匠が思い浮かべる。

あの人の仕業かもしれない。


「あ―…おそらく‥私の師、だな」

「師?ぼく、どうなるの?」

「私の親代わりでもある人だよ。安心しなさい、事情がわかるまで私の元にいるといい」


安心させるように子供の頬をなぜる。

不安に揺れる瞳は子供にしては少し大人びて感じられる。


「は、い」


ひどい顔色と目元のクマはその子供の境遇を如実に表しているようだ。

今日はもう寝なさいと子供に伝えると少しホッとしたようにこちらを見上げた。


「あの、あなたは」

「オリヴィア」



子供を寝かしつけていると昔を思い出す。


自分がこの世界に生まれる前、日本で生まれ育った私には、歳の離れた弟がいた。

父も母も家庭を顧みる人ではなかったから彼にとっての親代わりのような存在だったと思う。


でも私は、弟が中学生の時に、23歳で病死してしまった。


苦労して入った国立大学の薬学科を卒業せずに辞めなければならなかったことも当時はかなり無念だったが、この世界でかつての知識が生活の糧となっているから人の人生とはわからない。


ここはいわゆる魔法や魔獣がいるファンタジーな世界。

怪我や病気のほとんどはポーションや魔法での治療が主となるため、医術があまり発達していない。ただし、治癒魔法やポーションは基本的には怪我を治したり体力回復に特化しているため、発熱や細菌やウィルスや心の不調等々による病気を治すことはできない。

そういった場合薬草治療となるため需要自体はあるのだが戦時中ということもあり技術を発達させるにはあと数十数年は必要になってくるだろう。


(漢方薬学の研究室に入っていてよかった‥)


この世界の薬草の種類や効能は前世のものと似ていたこともあり私の作る薬はとても評判がいい。


転生してすぐに捨てられた時は、今世と前世の親運のなさに嘆いたけれど、師匠のオーギュストに拾われたのはとても運が良かったと思う。

彼は高名な魔術師で沢山の魔術知識を私に教授してくれた。戦が激しくなってからは国の仕事が忙しいようでここ数年会えていないが元気にしているだろうか。


こんな幼い子供をなんの連絡もなしに寄越す訳のわからない人だけど、私にとっては紛れもない恩人だから一応信頼はしている。一応……


挿絵(By みてみん)

見ていただきありがとうございます♪

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