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密室で甘い傷を

作者: 下菊みこと
掲載日:2021/12/01

「君なんか大っ嫌いだ!」


「はい」


「そうやって俺を気遣うそのそぶりも気に食わない!」


「ええ」


「俺なんかにそんなに尽くして、よく平気な顔で笑っていられるな!こんな男捨てればいいだろ!」


「それは嫌です」


「なんでだよ!」


「貴方を愛しているからです」


私の婚約者である彼が黙り込む。


「お顔が真っ赤ですよ?」


「うるさい!君なんか大っ嫌いだ!」


素直になれないこの人は、天邪鬼な暴言を吐いて心の均衡を保つ。そして一人になると自己嫌悪に陥る。


それは、婚約者に拒否されると辛い。けれど私にとってはその傷はとても甘いものなのだ。この、私達二人だけの密室で、甘い傷を刻んで。それが私の幸せなのだ。


「君は、やっぱり変だ」


「はい」


「君なら、他にもいい男がたくさんいるだろ」


「生憎と、貴方以上の素敵な男性に会ったことがありませんので」


私の言葉に更に顔が赤くなる。単純で、素敵な人。


「俺は誰も幸せになんてできない男だぞ」


「ええ。貴方の隣にいれば勝手に幸せになれますので、ご心配なさらず」


彼は林檎のような真っ赤な顔をその大きな手で隠した。


「君さぁ…本当、そういうところだよ…」


「あら、どういうところでしょうか?」


恨めしげな顔を向けてくる彼に、優雅に微笑みを返す。彼は溜め息を吐いた。


「…君の幸せを願うから、身を引くと言っているのに」


「私は貴方の隣が一番幸せですわ」


「またすぐにそういうことを言う!」


「本当のことですもの」


言いながら、ソファーに座り込んだ彼にのしかかる。


「…なに」


「私、いつも貴方に傷をつけられてばかりですから、たまには私から貴方に甘い傷を刻んで差し上げようかと」


「…なにそれ。いいよ、やってみなよ」


私は彼の首筋に口を寄せて、そのまま思い切り噛んだ。


「痛い痛い痛い痛い痛い!?物理的に傷を刻まれるとか!?」


「うふふ。綺麗に跡がつきましたわね」


「君本当になんなの…?」


「これで私だけの貴方ですわ」


「そもそも、俺、浮気とかしないんだけど」


「でも、貴方を放っておかない女はたくさんいますもの」


「…まあ、ねぇ」


「どうか、身を引くなどと仰らずに私だけの貴方でいてくださいませ。それが私の幸せですわ」


「…好きにすれば?」


「はい、好きに致しますわ」


きっと、このやりとりは何も今日だけじゃない。きっと、またこんなやりとりを繰り返す。それでも。


「愛していますわ」


「俺は大っ嫌いだよ」


私は、この甘い傷をいつまでも慈しむのだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 糖分多めで、幸せが溢れていますね。 女性にリードされてるけど、このやりとりが今日だけじゃないということは、男性も楽しんでますよね。
[良い点] あま~い、ですね(´▽`) 二人だけの密室、という言葉がまた素敵でよきですね✨ 末長くお幸せにと言いたくなりました(´▽`) 素敵な作品をありがとうございました!
2021/12/01 20:15 退会済み
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