キミに想いを伝えるために『ざまぁ』する!
ある時、親友から
『いつもウザ絡みしてくる幼馴染みをなんとかしたい? 少し冷たくするといいんじゃない?』
そんなアドバイスをされた。
追加で
『なんなら絶縁からの、最後はざまぁだな』
とも。
彼はいつも親切に忠告してくれる。
早速、実行してみようと思う────
「先輩、急ぎの用ってなんでしょうか? なかなか珍しいですよね、先輩が急ぎだなんて」
「ああ……今日は千早に折り入って伝えないといけないことがあってね」
えりを正し、真剣な顔でさっそく切り出した。
「伝えたい事? 何かありましたっけ。あ、お夕飯の献立ですか?」
「夕飯はハンバーグだと僕は喜ぶ。用件はメニューじゃないけど」
「わかりました、ハンバーグですね。すいません、話の腰を折って」
ハンバーグ嬉しい、やった。
「いいんだよ。千早は確か以前『私、友達からウザ絡みしてるように思われてるんですよね。先輩に対して』って、こぼしてたでしょ?」
「はい、言いましたね。まさか……」
ここだ、満を持してのタイミング!
「そのまさかだよ……! 僕はね──親友に相談したんだ。『ウザ絡みしてくる幼馴染みをなんとかしてあげたい』、と。親切な彼は、答えが見えない僕にアドバイスをくれた。曰く──『少し冷たくして最後にはざまぁ』。この友情に報いるためにも、僕はそれを実践しなきゃいけない」
……厳しい話だ。
「ぐ、具体的には?」
「核心を突いてしまったね。……千早、悪いけどキミとは絶縁だ」
そして僕は、ウザ絡みしてくる幼馴染みに絶縁を言い渡した。
夕食後────
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。先輩、そろそろいいですか?」
「そうだね……『少し冷たく』の加減が分からなくて、条件を満たすために『とりあえず夕食後まで絶縁』って決めたけど、冷た過ぎた。せっかく美味しい晩ご飯をいただいてるのに、『うまいよ』って伝えられないから罪の意識がすさまじかったよ」
「はい……私も、お買い物の時に『ほらほら先輩、人参が赤いですよ!』って言えなくて辛かったです」
「千早、捨てられた子犬のような目でこっちを見てたよね。とにかく、彼の要求はクリアだ。もはやこれで『ウザ絡み』なんて千早が言われることもない」
あの、つぶらな瞳の上目づかいを思い出すと胸が痛む。
彼女はこんな仕打ちを受けなければいけないほど
罪深いというのか……?
鬼の所業だ……僕はまさしく悪鬼だ!
「過酷でしたけど、成長できた気がします。以前、先輩のマンガを見て『ほらほら先輩、極限の状況こそが人を成長させるんですよ!』とは言いましたけど、まさか自分が極限を体験する事になるなんて……」
「ちょっとした試練ってヤツだね。『絶縁という極限状況』を乗り越えて、どうやら僕らはずいぶんと成長してしまったらしい……」
ちなみに千早が読んでいたのは少年マンガだ。
話の中ではバトルを乗り越えていた。
「おかげさまで、少し自信がつきました。あ、でも……これから私、『ざまぁ』されちゃうんですか? もしかして、これから嫌われるとか……?」
「嫌われる? なんでそんな必要が? 気持ちはいつも伝えてる通りだよ。とはいえ親友のアドバイス通りに『ざまぁ』は受けてもらうけど」
「この過酷な試練を乗り越えた私です。なんとか耐えてみせます……!」
ここまで非道な扱いをされているのに、この子は……。
「千早は健気だな。偉いから『ざまぁ』の後に頭を撫でてあげよう」
「私は『ざまぁ』に怯えればいいのか、それとも尻尾を振ればいいのか……」
「なにも怯える事はないんじゃない? 尻尾は──もし付いてるなら振っててもいいけど。今は『ざまぁ』だ。千早──」
「は、はい」
「こんな『絶縁という、まさに絶望的な状況』の中だけど、実は僕はキミの事が好きなわけだよ」
「昨日もそうですけど、面と向かってハッキリ言われると照れますね。私もです」
「ありがとう。親友は試練の後の二人を見越していたんだ。つまり──」
「つまり?」
「千早、愛されてざまぁ」
「!! 『愛されてざまぁ』ですか……! 言葉の意味は全くわかりませんけどなぜだか好かれている気持ちがすごく伝わってきました!」
途端に上がるテンション。
ウザ絡みすると評判の幼馴染みは『ざまぁ』をされて、
とても喜んでいた。
やはり親友は凄いな……。
「恐らく、『ウザ絡み』なんて表面的な事だけを指摘していた訳じゃない。『いつもストレートに言葉を出せば伝わるなんて甘えるな、安直過ぎるから何とか工夫して気持ちを伝えろ』って彼は言いたかったんだ。……。『いつも』は僕のセリフだ。目から鱗が落ちるようだよ」
「ご友人の方、すごいですね……!」
「僕の自慢だからね」
それから約束通り、しばらく千早の頭を撫で続けた。
彼女の背後には、ブンブンと激しく振られている尻尾の幻が見えた気がした。
親友のおかげで全てうまくいった。
さっそく明日にでも報告するとしよう。
そして、お礼とともに
話の成り行きを知らせると────
「いやお前、絶縁ってそういう意味じゃない。状況が想定と全然違う。というかそもそも、上手いこと着地させる前提かよ。分かってなさそうだから言うけど、『ざまぁ』って、もっとマイナスを精算する時に生まれるカタルシスだから。なんだよ、『愛されてざまぁ』って。誰に『ざまぁ』してるんだよ……。あ! 俺に対してか!?」
こうやって親友も、まるで我が事のように喜んでくれた。
この痛快な解決っぷり、いわゆる賢者だ。
また何か問題が生じたら、この最強賢者に相談させてもらおう。
そう無事に決着がついたはずだが、なぜか『千早のウザ絡み』についての評価は変わらなかった。
その本人はあれ以来、周りに
『私、先輩にざまぁされちゃいました!』
と、嬉々として語っているらしい。
それはいいとして解決したのに変わらない評価、か。
きっとまだ──僕らには見えない
『真理』みたいなのがあるのだろう。
最強賢者の力を
思ったより早く借りる事になりそうだ。
まさかの「ざまぁ」された自慢。