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煌く灰  作者: 鹿鹿 ユウ
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邦彦は激怒しそうだった。その日はねちっこい天気だった。今日は自分の誕生日なのに、交際している梨沙が今日は会えないと連絡してきたからだ。織姫と彦星ですら1年ぶりいちゃこらする日であるのにも関わらず、会えないとは何事であろうか。さすがに激怒してもいい案件だが、怒りを発散したところで状況は変わらないことを彼は知っている。情に任せて山賊に出くわしたり飛ぶように走ったりせず、彼はもう一度ラインのメッセージを見直した。邦彦は弁護士を目指しているところで、専ら自宅で勉強漬けの日々を過ごしていた。既に3年連続で落ちているので、今年の試験が正念場だと感じている。27歳の誕生日とはいえ、アルバイトもほとんどしていないに等しい。その為お金があるわけでもなく、みなとみらいで豪華なディナーを食べることもできないから、自宅でピザでも取ろうかと考えていた。


梨沙とは大学時代に友人からの紹介で付き合うことになった。司法試験に落ちた年数=交際期間であることから、一緒にいた期間を忘れたことは一度もない。「今回の試験で合格したら結婚してください。」みたいな、ケガをして入院している少年とプロ野球選手のホームラン宣言のような誓いは立てていない。ゆくゆくは結婚も十分に考えられる年齢まで差し掛かっていることに現実を受け入れられない自分がいた。


「何か急用でもできたの?」と送ったメッセージに対して既読は着いていたが返事はきていなかった。もし有名なホラー映画で着信がなかったらそれはそれで日本中を悲壮の渦に巻き込む悲しいストーリーになるに違いないだろう。家から出て鍵をかけたことを確認すると、邦彦は梨沙に電話した。

「もしもし、今電話大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。何か用?」

おいおい何かって、勘弁しろよこの尼、という想いを押し殺す。

「何かって、もちろん今日のことなんだけどさ、来れないってどういうことなの?」

「‥…実は最近ずっと考えてるんだけど、私達って付き合ってるのかなって。最近は1日1回のやりとりだってあんまりできてないじゃん。もちろん勉強で忙しいのは分かってるんだけど。」

たしかに分かっていることだ。ただ、分かってること言われるのが一番嫌だってことを彼女は分かっていない。

「それは本当に申し訳ないと思ってる。でも次の試験で合格すれば時間だってできるし、将来的にも金銭面でも……」

「合格する保証なんてどこにあるの?」

梨沙はの声は震えていた。興奮しているのか、泣いているのか電話越しではわからなかった。

「いや、たしかに保証なんてできないよ。ただこの1年はこれまで以上に勉強してきた自信はある。1日に7時間は机に向かっていたし、勉強の為に漫画やテレビだって売り払ったもの。」

「私、やっぱりもう待てない。一方的だし急なのは申し訳ないんだけど、この関係終わりにしたい。」

「なんでもするから、本当に。梨沙のやりたいこと、なんでもするから。だからせめて試験までは待ってくれないか。」

声色を強くして話していた。これじゃあ友のために死ぬ覚悟をした小さな牧人ではないか。

「もう終わりにさせて。だいたい27にもなって誕生日がやっすいピザって何よ。お金がないなら銀行でも襲ってみたら?周りの友達は結婚式とか海外旅行とかしてるのに。もううんざりなの、待ち飽きたの。」

一気に吐き捨てるようにそう言った。そして、

「試験頑張ってね。」ぽつりと言い残して彼女は電話を切った。

邦彦は電話が切れたことを確認すると、頭が真っ白になった。脳みそが全て灰にでもなったかのようだった。再び梨沙に電話を掛けてみたがやはりでない。邦彦は何も考えることができなくなった。ただ茫然と歩いていると、近くに襲ったりするような銀行こそなかったが、代わりに七夕の飾りつけが途中までされているコンビニがあった。

「銀行でも襲ってみたら?」という梨沙の言葉が頭の中でぐるぐると回り続けていた。

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