プロローグ
「グボボボボ、たす、グボボボボ、けて、グボボボボボボボ」
その水に溺れているような声は、海でもなく、川でもなく、水中でもない、洞窟の中から聞こえてくる。
その真っ暗な洞窟の中、松明の火だけが辺りを照らし、火の強弱だけが存在をアピールしている。
しかし、その光の持ち主は見つけることができず、周りに人の気配はない。
それにも関わらず水に溺れたような声は、聞こえてくる。
声の主は松明の火が照らしている所のさらに奥、洞窟の一番奥から聞こえてくる。
そこには確かに人の気配はなかった。
しかし、人とは別に子どもの大きさぐらいのブヨブヨとうごめいているものがそこにはあった。
それはは青く、水よりも濃度が濃く、粘り気の強い物体、物音を立てず、静かにうごめいていて、その中心から声が聞こえてくる。
ーー僕はこのまま死ぬのか
その物体の中で、彼は死を確信する。
体はもがき苦しみ、手、足をバタバタさせ、頭、お腹はグネグネとくねらせ、生にしがみつこうとしている。
それとは逆に、心の中は常に冷静だった。
冷静といったが、それは少し違うかもしれない、冷静というよりは諦めに近い。
その諦めはもう何をしてもダメという諦めではなく、死んでも当然だと言う反省の諦め。
ーーやっぱりこんな僕が勇者なわけがないんだ、みんなが僕をまつりあげて、僕が調子にのった罰がこれだ
彼はこれまでの自分の過ちを悔いながらどんどん、自分の中の光が失われていくのを実感していた。
そのブヨブヨの物体の中は水ではなく、決して冷たいものではない。
しかし、彼はどんどん冷たくなっていくのを感じていた。
彼は気づく、これは周りが冷たいんじゃない、自分が冷たくなっているのだと。
冷たくなっていく、これは死の前兆を示唆していた。
それを実感することで彼は、体の動きを止め、そのブヨブヨから抵抗するのをやめ、ブヨブヨを受け止めた。
ーーあ〜気持ちいな、こんなに気持ちいなら最初から、こうしておくんだった
抵抗することをやめた彼は、清々しい気持ちになった。
まるでお母さんのお腹の中にいるような安心感、死の直前にして生きていると感じることができている。
体が停止して、思考が停止して、意識が停止した。
彼は死んだ。
全てが停止し、一つの命が消えた。
彼の命が消えた後も、そのブヨブヨは動き続けている。
そして、言葉通り、そのブヨブヨ中で命が消え、体も消えていった。
彼はこの世の中から完全に姿を消した。
ブヨブヨの物体は子どもぐらいの大きさから、大きな石ぐらいの大きさに形を変え、殺人物体から世界最弱の物体に姿を変えた。
世界でだれ1人負けたことがない存在。
その物体は表情がなく、考えもない、心もない、ただいるだけ、ただ倒されるだけの存在。
その中は『スライム』
表情がないその物体はにっこりと笑っていた。
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