ゲームの最強キャラに転生したけど、3日後に下方修正されることを知っているので活躍しません
《目覚めよ……双剣使い・ナーファンス》
天から声が聞こえてくる。ナーファンスは目を開けるとそこには広大な大地が広がっていた。
ここは崖の上。眼下には戦士たちが戦っているのが見えた。
「これは……一体?」
ナーファンスは声に導かれるまま、戦場へと降りていく。やがて、その末端へとたどり着いた。
1人の男が声をかけてくる。
「お、お前が新しく入ったっていうナーファンスか。よろしくな」
その男は俺に声をかけると、敵に向けて矢を放つ。
矢は敵に当たり、その敵は消滅する。逆に相手の刃にかかった仲間であろう部隊も消滅する。ナーファンスはなにをすればいいかよくわからなかった。だが、この盤面をひっくり返せるのは俺なのではないかと考えた。
「俺に任せておけ」
ナーファンスは一歩前に出ると、腰に刺さっていた刀を一振り。すると、敵軍全員に真空の刃が刺さり消滅する。相手の大将とあろう者まで、その刃によってダメージを受けていた。
「行くぞ!!!」
ナーファンスはそのまま大将へと突っ込んでゆき、首をはねる。すると勝利のファンファーレと共に、控え室のような場所へと戻された。
ナーファンスは何がなんだかわからなかったが、とにかく自分の力によって勝利がもたらされたのは嬉しかった。
すると、先ほど戦場で声をかけてきた男が話しかける。
「やー、噂に聞いていたけどナーファンスは強いな。なんてったって味方が多ければ多いほどその刃の威力が上がるんだろ? いいねえ」
ナーファンスはなんの話かよくわかっていない。しかし、褒められているのは間違い無いのでお礼を言っておく。
「おっと、次の戦が始まったみたいだ。俺はもう呼ばれた。行ってくる」
そういうと、その男は部屋から消えていった。他の仲間たちも次々と消えていく。残ったナーファンスはその部屋を見渡す。すると部屋の端に薄く四角い金属の塊が見えた。
ナーファンスはそれを手に取る。そして気付く。
「これは……スマホ?」
次の瞬間、ナーファンスの記憶が蘇る。ハッとして手に持っているスマホを起動する。
ナーファンスは全てを思い出した。元々は日本に住んでいた普通の高校生であったことを。そして、気づくとこの世界に来てしまったことを。
そして、何よりも『ナーファンス』という名前で思い出したことがある。
ナーファンスはスマホを使ってそのゲームのまとめサイトに飛ぶ。『ダークモリファイ』という、ナーファンスが普通の高校生であったときにハマっていたデジタルトレーディングカードゲームである。
そして、そのサイトには書かれていた。『双剣使い・ナーファンス』はぶっ壊れであると。
ナーファンスは完全に思い出した。このカード、あまりの強さにこのゲーム史上最速の3日で下方修正が行われたカードである。そして、下方修正をされたナーファンスはだれも見向きもしないカードとなった。ナーファンスは現実にいたとき、そのカードを馬鹿にしていた。あまりの弱体化にたびたびネタカードとして笑っていた。その報いがこれなのかもしれない。
ナーファンスは考えた。もし本当にここがゲームの世界なら、あえて活躍せずに、弱体化を回避しようと。
この控室のような場所はデッキであると考えた。ではカード欄はどこになるのか。それはわからない。だが、ここよりは寂しく暗い空間なのだと直感していた。下方修正を食らってしまうとそこから一生出られなくなる。それは嫌だと。ならば活躍しなければよいと。
ナーファンスは手始めに情報コントロールを行った。幸いにもそのスマホから書き込みはできる。そのため、ナーファンスが弱い点を書き込む。
31:名無し
ナーファンスは初手に来ると結局最後まで使いづらくなるし、びみょい。それに優勢じゃないと効果を発揮しづらいから、逆転のカードではない
32:名無し
>>31 ナーファンス使いちーすちーす
33:名無し
>>31 まーたネガキャンやってるよ
効果は薄いだろう。しかしこれに実践を組み合わせれば、弱いと錯覚できるかもしれない。
次に、ナーファンスは強く戦わないことを決めた。ナーファンスは序盤に来ると弱い。そのため、必ず真っ先に控室から出るようにした。戦闘においても、味方が少なく、あまり効果が強く使えないときに出るようにするなど、なるべく自身が弱く見えるように立ち回った。
さらに仲間にも協力してもらった。下方修正が来てしまうかもしれないからと、ナーファンスが強く使える戦況にしないでくれと。仲間たちも始めは不思議に思っていたが、仲間のためだと協力してくれた。
そして、最も気を付ければいけないのは、とある別の人物とのシナジーである。これがナーファンスが弱体化を食らった原因を作ったといっても過言ではない。そのカードは誰でも使えるからという理由で下方修正は入らなかった。そのシナジーに気付かれると、ナーファンスは確実に下方修正されてしまう。とはいえ、明らかに相性がいいカードではあるため試している人は多くいるだろう。それならばそのカードのせいでナーファンスを強く使えなかったという印象をつければよい。
ナーファンスもそれもどちらも終盤にかけて活躍するカードである。そのため、ともに最速で控室から出るように仕向けたり、どちらも強く使えない場面で出撃したりと繰り返した。
3日後に弱体化を食らうとはいえ、運営が決定したのはその前日。そのため、期限は2日しかない。その間にナーファンスは弱いのだと印象付けなければならないのだ。
そして、迎えた2日後。
ナーファンスは恐る恐る公式のサイトを開く。公式のサイトには、能力変更のお知らせが通知されていた。
ナーファンスはそのページを開く。そこには、2枚のカードの能力変更について書かれていた。そしてどちらもナーファンスではなかった。
そのカードは違う戦場の人たちであり、ナーファンスたちの戦いに影響があるわけでもない。ナーファンスと仲間たちは喜び合った。
「これで、思う存分戦えるぜ!」
「おう! これからもよろしくな!」
ナーファンスと仲間たちは意気揚揚と戦場へと赴くのであった。
この一週間後、再び行われた能力調整でナーファンスは過剰に弱体化させられ、産廃と化したのは言うまでもない。