出会い
第1話 出会い
高校生である以上 「彼女がいるか?」等のふざけた質問には 「そんなものいないし、興味もない」と答えるのが模範解答だろう 少なくても僕はそう答えるつもりだ。
高等学校とは勉学に努めるものであり、決して色恋を学びにきているわけではないのだ。 しかし、世間の一般的な高校生というものは、どうやら彼氏彼女の1人や2人は有してるようで、いや 一般的と表現したのは数の問題で、決して僕自身が常識とかけ離れていると認めた訳ではない。
現に ここ清我谷市立清我谷南高等学校の校則にも、不純異性交遊の禁止が明言されており、即ち 僕 福浦慎太郎こそが、常識で一般的な男子高校生であると証明されているQ.E.D
「そのTHE童貞マインドさえ、克服すれば慎太郎にも彼女ができると思うんだけどな」
僕だって別に好きで独り身やってるんじゃない こうでも言わないと モテない悲しい奴みたいで、精神衛生上良くない
「そういう京太郎こそ、彼女とは上手くやってんのかよ」
「あぁ、まりとは別れたよ 今は、一年先輩のマネージャーと付き合ってる」
この男 並木 京太郎は、清我谷名物の超女たらし 日替わりレベルで彼女が変わる。すでに、南高の五割の女子がコイツの元カノなんて噂がまことしやかに噂され、後に一クラスの女子まるまるコイツの元カノなんて事件に発展するくらいコイツの罪は業が深い。まぁ、僕の推測だけど。
「それより、慎太郎 聞いたか?東京から転入してくる生徒がいるらしいぞ」
「あぁ、あの東京にある聖なんたら学園とかいうお嬢様学校から転入だろ?」
「聖吉祥女学院だ!あそこの生徒は、良いぞ!おしとやかで華がある。俺が長く続いた彼女ベスト3は、聖女の生徒に占められている」
コイツ 他校にも手を出してんのか 東京だぞ?どうやって手を出してんだよ!つくづく救いようのない奴だな その内に日本の女子の数%をコイツの元カノが占めることを想像し悪寒が走る。
「それにしても、なんでそんな東京のお嬢様が北海道の片田舎 こんな辺鄙な町にやってくるのかね」
「さぁな、お嬢様にも色々あるんだろう あぁ、悩みを聞いて 一夜を共にしてぇ」
「先輩マネージャーはどうすんだよ」
それはそれと京太郎はジェスチャーを添えて答える コイツのどこが良いのか 清我谷の女子達はどうやら、見る目がないらしい コイツを選ぶくらいなら僕を選べばいいのに
「ところで、慎太郎 お前、寮は何号室だ?」
この春から突然この学校は全寮制になるらしい全く迷惑な話だ
「寮?そんなん向こうに行ってから知らされるんじゃないのか?」
「何言ってんだよ!新学期案内に同封されてる寮申請用紙に室番号書いてあったろ」
「いや、そもそも そんな申請書出してないぞ?」
「じゃあ、今日から始業式までの間は野宿だなw」
「冬の北海道の寒さなめんな!そんなことしたら、たちまちルイベだ!」
ルイベとは、凍らせた魚の刺身で北海道の郷土料理なのだが、今はそんなことどうでもいい。
暫しの沈黙の内 車内アナウンスが、口を開く
「清我谷高校前 清我谷高校前 止まります」
そうして、僕の波乱に満ちた一日は始まった
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「チミはふざけとるのかね!!」
「いえ!至って真面目です!大真面目です!」
語尾に「ありんす。」とか「でやんす。」とかつけてみようかと思ったけど それは流石にふざけすぎかと自粛した。こういう所が僕の真面目さを強調してるといえよう。
「申請書を出し忘れた分際で、第1寮に住まわせろ?口を慎め!口を!!」
「はぁ 口を慎んだ結果 学年一位の秀才の僕が、第1寮で我慢すると譲歩してるんですよ。分かりますか?」
天才を秀才と一歩下がった表現にした辺りここら辺も慎んだ結果だ。それなのに、目の前にいる男の顔は茹でダコよりも赤い。
そういえば来る途中 今夜縁日をやる予告が出ていたな 帰りに たこ焼きでも買って帰るか
「学年1の秀才って、後ろから数えての話でしょうが!この、万年補修組が!」
やれやれ、まだ一年しか在学していないのに万年とは、このタコは計算もできないらしい、この分では、自分の足の数を把握してるのかさえ疑わしい。
「チミは、極彩寮行きだ!」
目の前に、鍵と寮までの案内図 寮の見取り図が叩きつけられる
どうやら、第1寮ではないらしいが、これ以上 この茹でダコの相手をしてやるほど、僕も暇ではない 仕方ないこの寮で許してやるか。
鍵と紙を受け取り 部屋を後にする
そういえば、あの茹でダコ 名前なんて言ったけ まぁいいや。
僕は早速 寮に向かった。始業式までは、後一週間ほどある。前日からでも良いと思うのだが、この学校はいささか、心配性が過ぎるようで、一週間前には生徒全員学校の敷地内に集合するのだ。
寮につくと、僕は唖然とした 明らかに築数十年は経っているであろうオンボロ感 建っているのがもはや奇跡 もはや、廃屋である。
茹でダコに貰った寮の見取り図にかいてある外見の写真とは 比べ物にならないレベルでボロい 極彩寮と書かれた木の看板も取れかかっている。そもそも、寮が出来たのは今年のはずだろ?詐欺だ!これは、詐欺だ!一刻も早くクーリングオフしなくては! 僕は今来た道を戻ろうとクルッと回れ右をした。
「おわっ!!お化け!!」
振り向いた先に人がいた。雪のような白い肌 なびく黒髪はさながら、黒曜石のような輝きを放っている。顔の半分はマフラーで覆われていて厚めのコートに身を包んだ 女子生徒がそこに立っていた。その姿はまるで、ミュシャが描いた絵画のごとく美しく目に焼き付けられた。
「・・・・」
曇りなき眼で俺を見つめる女子生徒
マフラーを口元から外し 口を開く
「ハックシュン!!」
少女の口から放たれる無数の水滴 否!唾液!鼻腔から放たれる粘着質な流動性の液体 否!鼻水!否!あっおぱな
認知した瞬間 時すでに遅し、僕の顔面は 目の前の少女の放った 液体に汚染される。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
近くにあった残雪を手に取り顔をゴシゴシ洗う
「何すんだ!!」
少女は、おもむろに手をポケットに入れ何かを取り出す 僕は身構え 戦闘態勢に移る相手が女子だろうが僕は、一切手を抜かない 男女平等は 僕の信念でもある。
少女が取り出したのは、ティッシュペーパーだった、少女は手に取ったそれを鼻に当て チーンと鼻をかむ 鼻をかみ終えたティッシュを丸めて ぼくに手渡し 無言で歩き始め 極彩寮の中に入っていった。
しばらくその場に立ち尽くした僕は、起動したてのロボットのごとく、カクカクした動きで、寮を見つめ、誓いを立てる。
「あの女 絶対に許さねぇ」
僕は近場にあった雪を握りしめるとクーリングオフの事をなど、すっかり忘れ、寮に駆け込む。
「この!クソアマミュシャ女!!!」
寮の廊下に入ると、前方に今まさに曲がっていく黒髪が靡いているのが見えた。廊下を駆け抜け同じ方向に曲がる。
「覚悟しろ!!」
握りしめた雪玉を女子生徒めがけて投げつけようとする。しかし、その瞬間、俺の身体が宙に浮いた。
「え?」
「おいたはダメよ?少年」
俺の両腕が何者かに掴まれ、持ち上げられているのだ。その何者かは屈強な体つきに図太い腕 パンチパーマ ピンクのエプロンを身につけ、口紅をつけた男だった。
「オカマゴリラか?」
「あら、ゴリラは百歩譲っても メスゴリラよ私は。あらあなた、良く見ると、可愛い顔してるじゃない。」
僕を見つめる男の目は、サバンナを生き抜く猛獣のそれである。サバンナにゴリラは実はいないと言うが まぁ、そんなことはどうでもいい。男はそれだけ言い終わると、女子生徒へと視線を移す。
「美咲!また、あんた何かやったの?」
「やってない」
「いい加減にしなさい。あんた、そんな性格だから前の学校追い出されたんでしょ?」
オカマゴリラじゃなかったメスゴリラの言葉に気分を害したのか、少女はそれ以上口を開くことなく、最奥の部屋の戸を開け中に消える。やれやれ とため息混じりの吐息を吐くとこちらへの興味を取り戻したのか メスゴリラが僕の顔をまじまじと凝視する。
「やめてくれ、僕を食べたって美味しくないぞ。そもそもゴリラって肉食だっけ?バナナ食ってるイメージしか無いぞ」
「あら、私は肉食でバナナが大好きよ」
「あんたが言うと別の意味にしか聞こえねぇよ」
メスゴリラが手を離し 僕を久方ぶりに地に足をつける。宇宙飛行士が地球に帰ってきた時に涙する理由が分かったな。あぁ母なる地球よただいま。
「そんなことより、あなた誰よ?」
「僕は、福浦慎太郎 今日からこの寮でお世話になる予定だ」
「あぁ、あなたが、入寮手続きを忘れた馬鹿な学生さんね。話は聞いてるわよ。私は玉代 まぁ、自己紹介は後でいいわ。こっちに来なさい。」
そう言うと玉代さんは、僕の手を引き廊下奥へと引きずっていき最奥の部屋の前で立ち止まる。
「ここが、あなたの部屋」
「え?でも、ここはさっきの女子が入ってた部屋ですよね?」
「そうよ。でも、ここが貴方の部屋。美咲は第1寮に自室があるもの。」
それだけ言い終わると、開けるわよ。と一言かけてから、扉を開く
「もう美咲ったら!そんな色気のない下着じゃ、男は落とせないわよ!っていつも言ってるじゃない」
扉を開けた先で、件の美少女は着替え中だったのか、純白の下着姿で、アタッシュケースから洋服を選んでいる。頭には大きめなヘッドフォンをしているせいで、こちらが見ている事にまだ気づいていない。肌がもともと白く美しいしスタイルも抜群なお陰で、地味な下着でも、そこいらのモデル顔負けの美しさだった。とゆうか、女子の下着姿なんて始めて見た 眼福である。
「美咲!美咲ってば、聞いてる?今度私の下着貸してあげるから!」
玉代さんが美少女の肩を揺らす ようやく気づいたのか、美少女の顔がみるみる赤くなり、般若顔負けの睨みを効かせてくる。美少女の下着姿を拝めた挙句、美少女に睨まれるという全国の童貞諸君が夢見る行為をして頂けるとは、今日は最高な1日らしい。いや、別に僕はドMではないんだけどね。本当に。
「つっ!!見るなぁ!!」
近くにあったYシャツで、身体を隠しながら、頭につけていたヘッドフォンを僕に向かって投げつける。その姿の方が逆にエロいような気がしたが、深く考えるより先に僕の顔面に直撃する。
「痛ってぇ!わざとじゃないって」
「良いから!出てけ!!」
覗いただけで、部屋には入ってないのだから出て行けと言われても、どうしようもないが、僕は玉代さんを促して扉を閉めさせた。
「玉代さん!あなたのせいで、怒られたじゃないですか!」
「あら、内心は喜んでるくせに、実はムッツリ?」
扉の向こうからドタバタ聞こえ、しばらく経つとギィーギィーと耳障りな音を奏でながら、扉が開く。扉の隙間から美咲と呼ばれた女の子が顔を覗かせる。
「なに?」
聞いただけでご立腹ナウと分かる圧を含む問いかけがなされる。それを気にしてないのか、気づいてないのか、玉代さんはおちゃらけながら事情を説明した。
「ありえない!なんで、私の部屋に、この変態を住まわせないと行けないの?無理!生理的に!」
「だから!俺の部屋なんだって!お前の部屋は第1寮にあるんだろ?」
「嫌よ、あんな部屋!野宿の方がマシだわ。」
おかしいな…第1寮といえば、五つ星ホテルも顔負けな 夢の楽園と聞いてたのに…
「もう!わがまま言わないの!」
そう言うと玉代さんは、ズカズカ部屋に入っていき、アタッシュケースを部屋の右側に寄せると、どこからか取り出したテープを床に貼り部屋を二等分にする。
「はい!これで、この部屋は二世帯住宅!右が美咲!左があんた!分かった?」
そう言うと、いつのまにか部屋を出て僕の後ろに立った玉代さんに部屋に押し込まれる。
「ちょ!玉代さん!?」
「昼ごはんは各自で食べて、夜ご飯は、7時から歓迎会をやるから、遅れないように広間に来なさい!じゃあ、私は忙しいから!」
そういうと、勢いよく扉を閉め去っていった。
それからは、小言を言われながらも次々に届く自分の荷物から、ベットなどの必要な物を狭い部屋に搬入していく。
と言っても、これといった趣味のない僕が搬入する荷物は最低限。半分になった狭い部屋でも、十分余裕がある。
「つまらない部屋ね。まぁ、あんたがつまらないからお似合いだけど」
「うるせぇなぁ。趣味のない一般高校生の部屋なんてこんなもんだろ!」
「趣味のない事を自慢しないでくれる?」
してねぇよ!と、反論しようと思ったが、どうせ無駄なのでやめる。
とりあえず寮でも探検するかとドアノブに手をかける。それと同時に美咲が声をかけてくる。
「私寝るから、夜ご飯の時に呼びに来て!それまで、入ってこないでよ!」
「なんで、俺がそんな事!」
「じゃ!よろしく!!」
くそ!どこまでも身勝手な女だ!俺はため息を吐き、この部屋を後にした。
俺はこんなところで、これから先の人生を送らなければいけないのかと考えると少し憂鬱な気分だった。
fin