第6話 「うぉおお!!!限界だ!!!友情の都市伝説!!!
田中太一は地面に突っ伏した。
魔王軍の四天王獣王カイザーの根城、グロングロン洞窟に仲間たちと共に潜入した。
しかし、仲間たちはカイザーの卑劣な罠にかかり囚われの身となってしまい、太一は孤軍奮闘、モンスター達をなぎ倒し、遂に獣王カイザーの玉座にたどり着いたのであった。
獣王カイザーはライオンの頭部に熊の胴体、大蛇の下半身、アシカの手を持つ巨大モンスター。その口から放つデスビームは一撃で山を粉砕するほど強力な威力を持つ。
幾ら選ばれし勇者と言えど、1人戦い続けてきた太一の体力も限界を迎え、カイザーとの対決の最中、遂に膝をついたのであった。
「くそ、これで限界か…」
「グハハハ勇者よ…お前の命もここまでよ」
太一が諦めかけた瞬間、光が洞窟を包んだ。
「諦めちゃ駄目ッ!」
太一が顔をあげるとそこには天界からの使者であり、太一を転生させた張本人である爆乳妖精ピピン、魔王軍四天王の1人暗黒騎士バリオットの弟で都では花の剣士の異名で知られたサオス、希少種属ドワーフの生き残りで太一の悪友タジフが立っていた。
「すまねえな!!太一、ちょっと脱出に時間がかかっちまった!!!」
「フン…勝負はこれからですよ…」
「みんな…」
俺には仲間がいる、1人じゃない…
そう思うと、太一の身体に力が湧いてきた。
「は!!!たった4人で何ができる!?」
獣王カイザーが嘲笑う。
「お前を倒すことができる」
太一は笑い、立ち上がると再び剣を手に取った。
「行くぞ!!!獣王カイザー!!!」
4人はカイザーに立ち向かった。
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一方その頃…
草木も眠る丑三つ時、グリンパーク城の衛兵詰め場では2人の男が談笑していた。
ギークとオクタである。
狭い詰め所には簡素な机と椅子が4脚あるのみである。机の上にはポテトチップスとビールが置かれていた。
「オクタさん、これ、聞いた話なんですけど…」
ギークが声を潜めて話す。
「なんですか?」
「勇者軍と魔王軍は実は裏で手を組んでいて、この世界を滅ぼそうとしてるそうですよ」
「んな、馬鹿な…それどこで聞いたんですか?」
「これですよ!!!」
ギークは本をオクタに投げてよこした。
その本の表紙には「最強都市伝説〜遂に動き出したワールドオーダー〜」と書かれていた。
「これ、露天で売ってる超怪しい眉唾の本じゃないですか」
オクタは呆れて本をギークに投げ返した。
「あ、オクタさん、信じてないですね…この本によると既に帝国の科学部では地震兵器が作られていて、自然災害を捜査しているそうですよ…」
「………」
「さらに、帝国を裏から操る宇宙人アヌンナキが人類の選別を始めたとも書いてあります…」
「ギークさん…それ僕に言うのはいいですけど、絶対に他の人に言っちゃ駄目ですよ(馬鹿にされるから)」
「隊長、信じてないんですね…仲間を信じれないなんて最低ですよ…まぁ、いいですよ…選別の日、生き残れなくても泣くのは隊長ですから…」
詰め場に1人の肥満体が入ってきた。
ナードである。
「おいおい、お前ら、俺様が見回りしてる間にくっちゃべってていいご身分だなぁ」
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「ぐおおお!!!」
太一の剣が獣王カイザーの手を切り落とした。
「クソぉおおお!!!人間如きがぁあ!!」
カイザーは苦悶の表情を浮かべる。
「お前ら魔物は確かに強い!!!ただ、人間には無限の力がある…それは仲間を信じる力だ!!!」
太一が叫ぶ。
「そうよ!!!私は太一がこれまでどんな馬鹿なこと言っても信じてきたからね」
ピピンがいたずらっぽく笑う。
「おい!ピピン、そりゃねえだろ」
太一が口を尖らせて反論する
「おい、お前ら、戦いの最中にいちゃつきだすなんていいご身分だな」
タジフが笑いながら2人に言う。
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「隊長に「ワールドオーダー」について話してたんだ…ナードよ…選別はもう始まっているぞ…俺たちの本当の敵は宇宙人だったんだ」
「え、おい、お前、本気で言ってんのか…?」
ナードが椅子に座りながらギークに聞く。
「本当だ…仲間に嘘言う奴がどこにいるんだよ…魔王軍と帝国と勇者一行はグルなんだよ…この本の著者ナンシーセギが言ってた。奴らの選別の日が始まるのは古代マヨ暦が終わる1697年4月1日からだそうだ!!!」
「お前、それ、俺ら以外の人間の前じゃ絶対言うなよ(真実が知られたと有れば帝国に消されるから)」
「まさか、2人とも信じてるんですか?」
オクタが呆れて呟く。
「もちろんだ!!!帝国の住民税、所得税、もろもろの税金が高いのは俺たちを消すための策略だったんだ!!!」
ナードはそう叫ぶと、机を叩いた。
叩くと、拳は机を貫通し、抜けなくなってしまった。
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「いけぇええ!!!」
太一が叫ぶ。
遂に太一の剣が獣王カイザーの胴体に突き刺さった。しかし、鋼鉄の様なカイザーの皮膚を貫くことはできなかった。
「グハハハ!!!所詮人などこんなもんよ!!!」
「さっきも言ったでしょ、私たちは1人じゃない」
剣を持つ太一の手をそっとピピンの手が包み込んだ。
「そうだぜ!!!太一!!!」
「まったく、熱苦しい人たちですね」
タジフとサオスの手もそこに重なる。
「さぁ、みんなで押し込めばカイザーの胴体を貫ける」
「おせぇえええ!!!!!」
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「押すな!!!馬鹿!!!」
ナードの叫ぶ声が響く。
ナードの手をギークとオクタは持ち、手を机から引き抜こうとするが、びくともしない。それどころか、少しでも動かすとナードがぎゃあぎゃあ痛い痛いと騒ぎだす。
「じゃあどうしろって言うんですか?」
オクタが途方に暮れ言った。
「どうにかしてくれ」
「机を切るしかないんじゃないかな?」
ギークが言う
「駄目だ。お前らのヘボ剣術で机を切ったら俺の手まで斬りかねない」
「なら、一生このままで過ごせ」
ギークが笑う。
「お前ら…」
ナードは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「じゃあ、もう、こうしましょう、俺はナードさんの身体を引っ張るから、ギークさんは机の下からナードさんの体を押してください」
ギークは机の下に、オクタはナードの背後に回る。
「こんなの初めてなんだ…痛くしないでくれ…血が出るかも知れん…」
「なんか、言い方クソ気持ち悪いですよ…痛いのは我慢してください」
「せーの…おせぇえええ!!!」
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獣王カイザーの胴体を剣が貫いた。
「やった!!!勝ったぞー!!!」
「クソぉおおお!!!たかが人間如きにぃいい!!!」
カイザーの身体が崩れ落ちていく。
「これがお前らにはない、友情の力だ…」
太一はそう呟くと、剣を鞘に納めた。
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「痛い痛い血が出るぅううう」
ナードの背後からオクタが引っ張り、下からナードが手を押し出すが、なかなか抜けない。
「痛い痛い!!!本当に、勘弁してくれぇええ!!!」
「クソぉおおお!!!全然抜けねえじゃねえか!?」
ギークが下から叫ぶ。
「ナードさん、力抜いて!!!」
オクタも叫ぶ。
「痛い痛い…助けでぇええ!!」
ナードの声が詰め場に響く。
その時、詰め場のドアが開き、男が入ってきた。
この男、グリンパーク騎士団長ミハエルである。
夜中に詰め場から聞こえる叫び声に気づき、見回りに来たのであった。
「お前ら!!!力を抜けだの、ヌくだの、痛いだの聞こえてきたから来たら、何をやっているんだ!?」
背後からミハエルの怒号が聞こえたオクタはミハエルはとんでもない勘違いをしていることに気がついた。
確かに今、オクタはナードの背後に回り、腰に手をやり思い切り引っ張っているし、ギークは机に潜って、ミハエルの位置から見ればあらぬことをやっていそうにも見える。
つまり、ミハエルはオクタとギークがナードをレイプしていると思い込んでいるのではないか?
オクタは体から血が引いていくのを感じた。
なんでことだ。そんなおぞましい勘違いをされたら、この先衛兵として生きていけない。
この危機的状況を打破する為の一言…次の一言が重要である。
極限状態のオクタが辿り着いた答えは…
「友情…友情パワーです」
掠れた声でミハエルに言った。
「痛いいいい!!!もう嫌だぁぁぁぁあ!!!」
ナードが叫ぶ。あまりの痛さにミハエルが入ってきたことに気がついてない様だ。
「おい!!!こいつ全然抜けねえぞ!!!」
ギークもミハエルに気づかず叫ぶ。
「オクタ隊長…アナルセックスは楽しいですかな…?」
ミハエルは眉をピクピクとさせ、この世の終わりの様な顔をしていた。
その後、しばらく、オクタ班は全員節操のないゲイ集団であるとの噂がまことしやかに城で噂される様になったが、信じるか信じないかはあなた次第です。