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第5話 「恋は焦らず」

ナードとギークは中庭の茂みの中に隠れていた。中庭の中央ではブルラが魔法少女達に魔法を教えている。


「手筈はわかってるな?」


ナードはギークにささやき、ギークは無言で頷いた。


ギークの魔法少女に一目惚れ発言を聞いて、酒場でオクタとナードは固まった。

この男、ロリコンなのか…と、そしてそんな男が衛兵やってていいのか…と


「ギークさん、あなたを逮捕します…」


オクタは押し殺した声でそう言った。


「はぁ!?」


ギークが反論の声を上げる。


そう、この男、ギークはロリータコンプレックスであった。

このギーク、45歳にして童貞なのである。

彼は女性との接触がこれまでほとんどない人生を送ってきた。

小学校までは特に問題なく日々暮らしていたが、中学校時代から高校までずっといじめられ、周りの同級生が青春を謳歌し、恋や友情に悩んでいた頃、ギークはヤンキー達の虐めからどう逃げるのか?それとも諦めて死を選ぶか?デッドオアアライブについて悩んでいたのである。


女性との関わりは高校卒業後もなかった。

大学に進学した際に、前衛芸術バンドに目覚めたギークは全身を白塗りにして、ギターを叩きながら叫ぶと言う超前衛的吟遊詩人として活動していた。

もちろん、女の子受けがいいわけもなく、そして、男受けも決していいわけではなく、要するに誰にも見向きもされなかった。


そんなわけで、こと女性関係についての精神年齢について、ギークは小学生で止まっているのだ。

成人女性など論外とすら思っている。

魔法少女アラマですら、ギークからしたら、少し年上のお姉ちゃんと感じている。


が、この狂った思考に、ナードとオクタは当然ついていけない。


言い合うオクタとギークを尻目にただ呆然としているナードであったが、彼の脳裏に衝撃が走った。


上手いことギークを使えば、あの超絶美人でエロエロなブルラと仲良くなれるんじゃね?



「おい、ギーク、俺がお前をプロデュースしてやるよ…」


ナードがブヒブヒと笑いながらそう呟いた。




中庭の茂みでギークとナードの2人は息を殺していた。

ナードがギークに教えた手筈はこうだ。


「まず、城を落とすときに必要なのは外堀を埋めることだろ?」


「ほう」


「つまり、アラマちゃんを落としたければ、先に落とすべきはブルラなんだ」


まずはブルラと仲良くなるところから始めろ。そう教えたのである。

そして、普通に近くだけでは有象無象の男達と大差なく、ブルラの印象にも残らない、だから、ブルラに話しかける時は、元気に走って手を振って近くんだ!!!


近づいての第一声は「ご機嫌麗しゅう、魔女様」だぞ!!!


手を取って甲にキスするのも忘れるなよ、紳士の証拠だからな。

話す時は自分から話すな!安い男と思われる。まずは黙って相手の様子を見ろ。

アマラちゃんに話しかけるのは、ブルラと話してからだ。

何を話すのかは簡単に考えとけ、天気の話とかでもいいからよ。


とナードはギークに指南した。

なるほど…とギークは頷いた。



しかし、これはナードの策略である。

まず、ギークのような小汚い40の男が元気に手を振って走ってきて、手の甲にキスをしてきたら、これはちょっとしたホラー&犯罪である。

ナードが教えた通り、ブルラにギークが近づけば、ブルラは怖がるだろう、そこでナードの出番だ。

ギークを取り押さえ、ブルラの恩人になれば話す機会もできると言うものだ。


名付けて、「泣いた赤鬼作戦」である。


ギークすまん、俺のために犠牲になれ!!

ナードは心の中でそう呟いた。


「いまだ!男を見せてこい!」


ナードはそう言って、ギークの肩を叩いた。


「わかった、行ってくるよ…」


そういうと、ギークはかけて行った。


中庭で魔法少女を相手に講義をしていたブルラは視界の端に奇怪な生き物を捕らえた。

その男はこちらに手を振りながら全力で走ってきている。

見すぼらしく、どこか汚い、目は落ち窪んでいて生気を感じられない。

その男が口元だけ釣り上げて、こちらに走ってきているのだ。

ブルラはこの男が魔王軍の手下ではないのかと思った。


ナードには唯一つ誤算があった。

若くして宮廷魔法使いまで上り詰めたこのブルラと言う女。肝の座り方も尋常ではない女傑なのである。

つまり、ギークを見たところで怖がるどころか、それは彼女の戦闘本能を刺激した。


「みんな下がって!!!」


そう言って、魔法少女達を下がらせると、彼女はギークに向かい、手を広げた。


「マダパニ!!!」


そう、ブルラが言うと、白い光が彼女の掌から飛び出し、ギークを突き刺した。


「しまった!!!」


一部始終を眺めていたナードだったが、ギークが倒れるところで初めて己の計画の甘さを思い知った。

計画変更、ギークを救出しつつ、ブルラに近づくのである。


「こいつは、俺の隊の奴で、ちょっと可愛そうな奴でね…病室から抜け出しちゃダメだろ!!」とかなんとか言って誤魔化せばなんとかなるだろ…そう思い、ナードは茂みから飛び出した。




魔法少女達は興味津々と言った風に恐る恐る倒れた男に近づこうとした。



「近づいちゃダメ!!!さっきかけた魔法は混乱魔法です。この男がみんなに害を与えることはないでしょうが、十分に気をつけて!!!」



ブルラは魔法少女達に言うと、彼女達はハイと気持ちのいい返事をした。

そんなブルラの視界の端に男が走ってくるのが見えた。


男は球体のような肥満体、顔はあばたで凸凹でその凹凸からぬるぬるとした汗が湧き出ている。

生理的に受け入れ難い見た目だった。


この時、ナードには唯一の誤算があった。

初めて目の前で魔法が使われるところを見た魔法少女達は興奮していた。

そこに走ってくる第二の男。魔法少女達の取る行動は一つだった。


「マダパニ!!!」


無数の光がナードの身体を貫き、彼はぶっ倒れた。



ギークは誰かに抱き起こされた。

目を開けると、自身を抱いているのはアマラであると気がついた。


「おじさん、ごめんね、先生が乱暴して」


彼女は目を潤ませてギークを見ていた。


「大丈夫さ、人には間違いの一つや二つあるものさ」


そうギークが呟くと、アマラは熱っぽい視線をギークに向けた。彼女はギークの耳元まで口を近づける。


「ねえ、おじさん、キスしてあげよっか」


それを聞いて、ギークは顔を真っ赤にして、首を振った。


「バ…バカ言っちゃいけねえよ!!!アマラちゃん!!!もっと自分を大事にしなきゃ!!」


そう言って、ギークはアマラの肩に両手を置いた。


「ダメ?」


アマラが悪戯っぽく答える。

もう、ギークの理性は崩壊し、彼女を拒むことは出来なかった…



ナードは誰かに抱き起こされた。

目を開けると、自身を抱いているのはブルラであると気がついた。


「おじさん、ごめんね、生徒が乱暴して」


彼女は目を潤ませてギークを見ていた。

ブルラの大きな乳房が自分の腕に当たっていることをナードは感じた。


「大丈夫さ、人には間違いの一つや二つあるものさ」


そうナードが呟くと、ブルラは熱っぽい視線をナードに向けた。彼女はナードの耳元まで口を近づける。


「ねえ、おじさん、キスしてあげよっか」


それを聞いて、ナードは顔を真っ赤にして、首を振った。


「バ…バカ言っちゃいけねえよ!!!ブルラちゃん!!!もっと自分を大事にしなきゃ!!」


そう言って、ナードはブルラの肩に両手を置いた。


「ダメ?」


ブルラが悪戯っぽく答える。

もう、ナードの理性は崩壊し、彼女を拒むことは出来なかった…




中庭ではおぞましい光景が広がっていた。

混乱魔法マダパニから目覚めた中年男2人が抱き合い、お互いの唇をむさぼりあっているのだ。

これは、混乱魔法の為、2人が幻覚を見ているからだ。

ナードはギークが、ギークはナードが意中の相手に見えている。


こんな光景を見せられたらたまったものではない。魔法少女達は泣き始め、ブルラもどうしていいか分からず、立ち尽くしていたところ、衛兵達が2人のもとに駆け寄り、無理やり医療場に連れて行った…


そんな2人に下されたのは1ヶ月の休職であだった。

本来なら懲戒もやむなしだったが、オクタがなんとか2人を許してもらうように懇願し、処置は休職に留まるところとなった。


この二匹のモンスターが起こした事件はしばらく宮中の語り草になったのである。

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