世界との差
静岡学園優勝記念更新。駆け込みで本日中に間に合わせました。
とても面白い試合でした。手に汗握った。
「あ、北浜ユース部長。お疲れ様です」
扉を開き、運営本部内に足を踏み入れると共に、一番近くにいた若いスタッフが挨拶をよこす。それに釣られて皆が一斉に立ち上がろうとするのを手振りで制し、業務に注力するよう促した。表彰式も終わろうとしている今、撤収までそう時間もない中で彼らの忙しさもピークを迎えているだろう。そちらに集中して欲しかった。
「ガルシア氏はどちらに?」
「第三貴賓室にいらっしゃいますよ」
挨拶をくれた彼に目的の人物の居所を尋ねると、すぐに回答が返ってきた。礼を言って運営本部をあとにする。廊下を少し行けば第三貴賓室に行き当たった。扉をノックするとすぐに応えがあった。扉を押し開く。
『やあ、セニョール・北浜。一年ぶりだな。今日は招待ありがとう』
「こちらこそ、セニョール・ガルシア。今年もお会いできて光栄です」
ガルシア氏に帯同していた通訳が互いの言葉を訳してくれるのを聞きながら、彼と握手を交わす。カルレス・ガルシア。40代後半になった今でも精悍なプロポーションを保っている彼は、現役時代にはスペイン代表の一画として活躍し、そして今はバルサの育成組織ラ・マシア16歳以下のカテゴリーの責任者を務めている。そして。
「優勝おめでとうございます」
そのバルサのU-12チームが先ほどアーモリーズを下して優勝を決めたのだった。
『いや。うん、ありがとう』
祝福に対しての返事がどこか歯切れが悪いのは、自国開催の私たちに気を遣ってだろうか。あるいは、彼らにとってこの大会の重要性がそこまでではないからか。そうであれば残念なことではあるが。
そんな私の考えを察したのか、ガルシア氏はジェスチャーで否定を示すとどこか申し訳なさそうに切り出した。
『いやセニョール北浜。気を悪くせず聞いてほしいのだが、ある意味この結果は順当だと考えている』
それは。と、言葉を挟もうとすると、彼はそれを制して続けた。
『我々やアーモリーズは国内中はおろか、世界中から才能を集めて最高の環境で育てている。いわば世界選抜なのだ。それに対して日本のチームは一国の、それも一地方の選抜だろう? それがまがりなりにも我々とやり合えている。むしろ我々は日本の子供たちのポテンシャルの高さに毎年驚かされているさ。近いうちに我がクラブへ仲間入りする日本人の少年も現れるんじゃないかな』
そう言ってガルシア氏は快活に笑って見せた。招待者側の私たちに阿るでもなく、そして世界最強クラブの代表の一人として上から語るのでもなく、話してくれる。やはり彼はひとかどの人物らしい。そんな彼に常日頃気にしていることを率直に聞いてみることにした。
「それで……日本の子供たちの印象はいかがですか?」
こちらの様子を汲み取ったのか、ガルシア氏も笑顔を納め、真剣な表情で切り出した。
『毎年のことだがトラップしかり、パスやシュートしかり、ボールを持ったときのテクニックは素晴らしい。本当に驚くべきことだが、我々のクラブの子供たちと遜色ないとさえ思える』
ここまではべた褒めだ。けれどここで一拍おき、だが、と続けた。
『これも毎年のことだが、スペースへの意識が低い、そして戦術への理解がない。だから個々のポジショニングも悪いし、連動した守備もできない。切り替えも遅い。ここ数年、この大会を通じて日本の子供たちを見ているが一向に改善される気配がない。これから海外へ挑戦する日本人選手がどんどん増えてくるだろうが、彼らを指導する監督は苦労するだろう』
実に耳に痛い話だった。もともと普段から不安に感じていた部分ではあったのだが、外からの目ではっきりと指摘されたことで確信が持てた。これをなんとかしていくのは、ユース部を預かる私のミッションだろう。
認識を改めたところでもう一点。今度は純粋な興味から聞いてみたかったことを聞いてみる。
「東雲美鶴、エスパーダの11番の少女はいかがでしたか?」
『……怪物』
それに対して返ってきたのはシンプルかつ鮮烈な一言だった。史上最高のストライカー、超常現象とまで謳われ、個人が戦術たり得たほどの傑物を評する言葉だ。FWにとっては最高の賛辞だと言っていいだろう。
「そこまでですか……!」
驚きを隠せない私に、彼は「彼女が男だったら間違いなくラ・マシアに掠っていっているところだ」と言った。声は笑っていたが、目は真剣そのものだ。
『バロンドールをとれる……とまでは言い切れないが、少なくともビッグクラブのトップを張れるくらいの才能があるのは間違いないよ。ボールテクニックが飛び抜けているのはもちろんだが、何よりあの身体能力が素晴らしい』
ガルシア氏は目を輝かせて続ける。
『セニョール北浜。これからフットボールはどんどんアスリート化が進んでいくぞ。進化したゾーンディフェンスのおかげで前線から時間的余裕とスペースが消えた。これを破るには強さと速さが必要だ。強度を保ったまま90分走り続けられないと話にならないんだ。現時点の彼女を見る限りアスリート的な素養については間違いない。それに点取り屋には珍しく守備を厭わないところがいい。これからのフットボールではFWがファーストDFを兼ねることは必須だ。育成年代のFWには何よりまず、ディフェンスを仕込むべきだと俺は思うね』
自分の守備範囲の話になったからか勢い込んで話すガルシア氏だが、今日のバルセロスの戦い方に思い当たる節があった。その辺りを引き出すために突っついてみる。すると彼はするすると明かしてくれた。
「そういえば、今日のバルセロスの試合、前からのプレスが見事でしたね」
『ああ。圧倒的なポゼッションで試合を握るためには、ボールを失わないだけじゃだめだ。もう一つ、相手ボールをすぐに奪い返すことが必要になってくる。だから今、ラ・マシアの子供たちにはプレスの連動性、網の張り方を徹底的に指導してるんだ。見てろ。彼らの中からトップチーム選手が現れる5~10年後にはああいう前からの守備ができなければ話にならない時代が来るぞ』
その言葉には、自分がサッカーの未来を創っているという強い自負があった。その自信のありように羨望を感じながらも傾聴していると、本題からずれて熱くなりすぎていることに気づいたのか、咳払いでいったん話を切ってから立ち返った。
『ともかくだ、返す返すも彼女が女であることが嘆かれるな。……いや、そういう言い方はよくないか。彼女は世界的な女子フットボール人気拡大の起爆剤になり得る存在だ。それがひいてはフットボール界全体の繁栄につながる。セニョール北浜。彼女を大切に育てることだ。なんなら我がバルセロスFCに預けてくれても構わんぞ。10年後と言わず、5~6年後にはFIFA女子最優秀選手賞を取らせてみせるからな』
そう茶目っ気を含めて言ってみせるガルシア氏に、いや、すでに彼女の次のステップは決まっているそうだからと返すとオーバーな仕草で嘆いていた。
だがそうだな。彼の言うとおり東雲美鶴は才色兼備、そのヒロイン性は非常に高い。ちょうど先の6月の女子W杯優勝で女子サッカーへの注目はこれまでになく高まっている。ここで彼女を中心とした次世代育成のPJを立ち上げ、その成長を見守りながら、次のW杯は難しいにしても、リオ五輪にぶつけられれば。そして2019年のW杯。女子サッカーの人気を不動のものにすることも夢ではない―――
けれど、エスパーダ清水から彼女の次のステップについて内々に聞いている私は不安を拭えず、内心ため息を漏らすのだった。
◇◇◇
【驚異のサッカーJS】国宝系女子東雲美鶴(11)を草葉の陰から見守るスレ80ゴール目【世界よ、これが日本だ!】
45:U-名無しさん
いい大会だったね…
46:U-名無しさん
世界との差を体感できる貴重な機会
47:U-名無しさん
バルサまじでヤバたん
48:U-名無しさん
それな
49:U-名無しさん
今年のバルセロスU-12は神懸かってた
50:U-名無しさん
トップチームの圧倒的な強さをそのままU-12に持ってきたみたいな
51:U-名無しさん
Jクラブはおろかアーモリーズも子供扱いやったからな
52:U-名無しさん
パスワークの上手さはもちろんやったけど……
53:U-名無しさん
それ以上にやばかったのはあのプレスやな
54:U-名無しさん
連動完璧でしたね
55:U-名無しさん
高い位置でパスカットされまくったからなー
56:U-名無しさん
完全にパスコース誘導されてたな
57:U-名無しさん
あんなん小学生がやるサッカーちゃうやろ
58:U-名無しさん
ラ・マシアを日本の育成組織といっしょに考えちゃいかんってことや
59:U-名無しさん
ボールの扱いそのものは日本の子も悪くないんやけどな
60:U-名無しさん
オフ・ザ・ボールの質がな
61:U-分析班1号
まあ、試合なんてボール持ってない時間のほうが圧倒的に多いんやからそこで差をつけようっちゅうのは理にかなっとる
62:U-名無しさん
言われてみればそうやな
63:U-名無しさん
目からウロコ
64:U-分析班2号
攻撃時もバルサの子らは自分がどう動けばどこにスペースができるのか考えながら動いてるっぽかったな
65:U-名無しさん
そうなん!?
66:U-名無しさん
うせやろ
67:U-分析班2号
マジで。時々バルサの子が自らDFに近づいたりしてることがあったやろ
68:U-名無しさん
あったっけ?
69:U-分析班1号
あったあった。自分についてるマーカー引き連れてな
70:U-名無しさん
あ…(察し)
71:U-分析班2号
んで、ぽっかり空いたスペースに別の選手が走り込んだり、ドリブルで入ってきたりすると
72:U-名無しさん
基本日本のクラブはマンマークやし
73:U-名無しさん
それがどこもあんだけいいようにやられた原因か
74:U-分析班1号
スペースに関する理解は日本人指導者が最も苦手とするところやからなぁ
75:U-名無しさん
選手個々人の才能とは別次元の問題か
76:U-分析班2号
せや。そもそもまともに指導できるもんがおらん
77:U-名無しさん
結果、日本勢で一矢報いることができたのはエスパーダだけか
78:U-分析班1号
まあ、それも美鶴ちゃんの個人技で打開しただけで戦術うんぬんやないけどな
79:U-名無しさん
戦術での打開を素直に諦めて、活路を見いだせただけでも優秀やろ。清水の監督は
80:U-名無しさん
戦術は東雲(`・ω・´)キリッ
81:U-名無しさん
バルサに対してそれはある意味皮肉w
82:U-名無しさん
某フェノメノさんのことですね。わかりますw
83:U-名無しさん
まあ美鶴ちゃんなら極端に狭いスペースでもプレーできるからな
84:U-分析班2号
連動して迫るプレスの輪をドリブルで掻い潜れれば一気にチャンスやし
85:U-名無しさん
まあそれで実際に点もとれたしな
86:U-名無しさん
組み立ても崩しもフィニッシュも全部美鶴ちゃん任せで、美鶴ちゃんガス切れになった段階でジ・エンドやったけどな
87:U-名無しさん
日程がダブルヘッダーの二試合目じゃなければどうなってたんやろな?
88:U-名無しさん
それな。美鶴ちゃん一試合目も結構ハードワークしてたから
89:U-分析班1号
まあ、それは言ってもたらればやろ。それより収穫の多い大会やったな。美鶴ちゃんにとって
90:U-名無しさん
収穫? なにが?
91:U-分析班1号
いろいろあるけど・・・・・・一番はポジショニングの改善かな
92:U-分析班2号
それな。っていうかもともとは美鶴ちゃんもポジショニングできてなかったんやな。そんな印象なかったけど
93:U-分析班1号
ポジショニングにこだわる必要がなかったからやろうな。これまでは。ボールコントロールとフィジカルにものを言わせてどんな状態でボールを受けても簡単に前を向けてたし、マークを剥がせてたから
94:U-分析班2号
それがバルサの高度なプレスを躱すためにポジショニングにもこだわる必要が出てきたか…
95:U-分析班1号
周囲のバルサの選手を観察して吸収してたっぽいな。ポジショニングの取り方。試合中にみるみる良くなってたし
96:U-名無しさん
つまりどういうことだってばよ?
97:U-分析班1号
より美鶴ちゃんからはボールを奪いにくくなった
98:U-分析班2号
次のアクションへの移行もワンテンポ、ツーテンポ速くなったかな
99:U-名無しさん
やばいやん(小並感)
100:U-名無しさん
はぇー、すっごい(小並感)
101:U-名無しさん
素晴らしい(小並感)
102:U-分析班1号
語彙w
103:U-分析班2号
おまいら、そろって小並感やめーやw
104:U-名無しさん
まあともかく美鶴ちゃんはさらにパワーアップしたってことやな。めでてぇ
105:U-分析班1号
雑な理解w やけどまあそういうことやな。結構劇的な進化よ
106:U-名無しさん
それだけわかれば十分。これからの美鶴ちゃんがますます楽しみやな
107:U-名無しさん
早く国際試合で美鶴ちゃんが見たいのぉ
108:U-分析班2号
女子代表はAFC U-16女子選手権からやから・・・あと4年かな
109:U-名無しさん
美鶴ちゃんなら2013年にはでれるんちゃう、飛び級で(適当)
110:U-分析班2号
いやそれはさすがに…2015年でも1年飛び級なんやが
111:U-名無しさん
いけるいける。なんてったって既にU-15の試合に出てるんやから
112:U-分析班1号
今の時点で4年飛び級…ならいけるか(感覚麻痺)
113:U-分析班2号
せやな(混乱)
114:U-名無しさん
そんじゃ、結論がでたところでそろそろ落ちるわ
115:U-名無しさん
乙ー
116:U-名無しさん
乙乙ー
117:U-分析班2号
また近いうちに~ノシ
…………
…………
というわけでバルサ戦はお預けです。後々回想か何かで振り返るかと。
投稿ミスじゃないですよ。悪しからず。




