本文その4&掲示板その3
※今回は後書きも本編に含まれますので、どうぞお見逃しなく!
「──何ですか、デート中にいかにも手持ちぶさたに、スマホの画面ばかり見て。メールの確認ですか? それとも暇つぶしにソシャゲでもやっているんですか? ──ああ、わかりました。つまりは暗に、『もうこんなデートなんかやってられるか!』とか、『俺には他にもつき合っている女はいるんだからな?』とかのアピールですね?」
…………は?
自作のネット小説『ラプラスの悪魔たち』の最重要ベーステーマである『L学園設立の真の目的』シーンの部分を、愛用のブルーベリーのスマートフォン上に表示し再確認しながら、同時にテキストメールで今や歌音と一体化している自称夢魔からアドバイスを受けたりなんかしていた真っ最中に、唐突に投げかけられた十五、六歳ほどの少女の声。
思わずうつむいていた顔を上げれば、テーブルを挟んだ対面の席からクラスメイトの女の子が、せっかくの可愛らしい小顔をいかにも恨みがましく歪めながら、縁なし眼鏡越しに涙ぐんだ焦げ茶色の瞳で睨みつけていた。
いや、違うから。僕は別に、そんな鬼畜な俺様野郎じゃないから。
学園随一の読心能力者を自認しているのなら、むしろこんな時にこそちゃんと読心してよ⁉
……つうか、そもそもこれって、デートだったっけ?
初夏の休日のさわやかな昼下がりの、学園内に設けられている繁華街の一角にひっそりとたたずむ、瀟洒なカフェの窓際の席。
学園内といっても広大なる敷地面積を有していることもあり、それに何よりも多数の思春期の少年少女を国策のために密かに世俗と隔離して強制収容しているという事情からも、僕らの居住環境についてはけして不平不満を募らせて持ち前の異能で破壊活動を起こしたりしないように莫大な資金が投入されているからして、学園の付属物でありながらも紛う方なく『繁華街』としか呼びようのない商業施設や娯楽施設が完備されているのであった。
それで何でせっかくの休日に、何よりも『妹さえいればいい』をモットーにしている自他共に認めるシスコンの僕が、ルックスはかなりいい線をいっているとはいえそんなに親しくもない同級生の女子生徒とお洒落なカフェで相席なんかしているかというと、休日の学生寮で朝っぱらからベッドの上で妹といちゃいちゃしながら「きょうは一日妹といちゃいちゃするぞ♡」と宣言したまさにその時、部屋の扉を激しく叩かれたので仕方なく顔を出したところ、ほとんど口をきいたこともないクラスメイトの女の子(確か名前は照蓮佐鳥だったっけ?)が立っていて、「あ、あの、そのう。御神楽君に、少々相談事があって。そ、それに、私の読心能力によれば、御神楽君のほうも、私のことを気にしているようだし……。そ、それでよろしければ、これから私とデートしてください!」などとわけのわからないことを一方的にまくし立てたかと思えば強引に僕を部屋から引っ張り出して、気がつけば午前中は繁華街をあっちこっち引きずり回されたあげくの果てに、最後にはこのカフェの店内へと落ち着いたという次第であった。
「──いやいやいや。ちょっと待って。前提条件からおかしいから! 僕がいつ、君のことを気にしているような素振りを見せたって言うんだよ⁉」
僕が真横に座っている女の子の口元へとパフェのアイスクリームを乗せたスプーンを運びながら問い詰めれば、いかにも心外そうながらもどこかうれしはずかし気な赤面で答えを返す、正面の女の子。
「だ、だって御神楽君たら、授業中にいつも斜め前の席から、私(の身体の一部)をちらちらと見ているじゃないの? 今だって会話中に何度も視線を私の顔よりも下のほうに下げているし。それに何よりもこのスマホこそが、動かぬ証拠よ!」
そう言って僕のほうへと、何だかギャルゲの選択肢のようなものが表示されているダークブラウンのスマホの画面を見せつける、学園随一の読心少女。
「──げっ。な、何だこりゃ⁉」
【現在目の前の人物が考えていることの計測結果のリストアップと、その妥当性の確率数値】
①僕が自分のことを気にしているって? 何を自意識過剰なことを。…………33%
②何せ僕には歌音さえいれば、他に女友達なんか必要ないんだからな! ……33%
③こんな馬鹿げた茶番は切り上げて、早く歌音と二人でいちゃいちゃしたいぜ。……………………………………………………………………………………………33%
④うひょう、やはり照蓮さんのおっぱいは大きいよな! しかもこんな至近距離からだと、いつも以上に大迫力だぜ♡ ………………………………………………1%
恐る恐るスマホの画面から顔を上げれば、正面の席の超高校級の巨乳少女が、片手で胸元を隠そうとして隠しきれずに、こちらのほうを顔を真っ赤にして睨みつけていた。……ごくり。
「ほ、ほら! 今も私(の身体の一部)を、熱烈な視線で凝視しているし!」
「ち、違う! 僕は断じて、そんな不埒な男なんかじゃない! 妹一筋の誠実なシスコンなんだ! これは何かの間違いだ! それにそのスマホの計測結果だって、妥当性とやらも1%しかないし、きっとシステム上のバグか何かなんだよ!」
「でも、この『Lの悪魔』が授けてくれた読心システムって、本人が少しでも心の中で思っていなかったら、けしてリストアップされることはないはずなんだけど」
「………………」
そ、そりゃあ、正直に申せば、気になりますよ。いかにも気弱な極普通の同級生の女の子って感じなのに、これだけ胸が大きかったらね! ──だって、男の子なんですもの。
「それに御神楽君がシスコンであることなんか、言われなくてもわかっています。さっきから私の目の前で堂々と、いったい何をやっているんですか⁉」
なぜかいきなり一転して拗ねるような表情となるクラスメイトを訝りながらも、僕は正直に答えを返す。
「何をやっているって。愛する妹の歌音に、クリームパフェを食べさせているだけだけど?」
そうなのである。僕の真横の席には当然のようにして歌音が座っていて、僕はいつものように不憫な疑似三重苦の妹のために、デザートをせっせと口元に運んでやっていたのだ。
「何で同級生の女の子との初デートに、妹同伴なのよ⁉」
「いや。これってそもそもデートなんかじゃないし。それにたとえデートだとしても、生活能力皆無の妹を、たった一人で部屋に置いてくるわけにはいかないだろうが?」
「うぐっ。そ、それは、そうなんだけれど……。というか、何なの、その妹さんてば⁉ 私は御神楽君だけを連れ出したつもりだったのに、いつの間にかついてきていて、しかもずっと無表情なままで一定の距離を空けて黙々と歩いているだけだし。何かまるでヤンデレストーカーかゾンビにでも後をつけられているようで、ものすごく怖かったんだから!」
涙すら浮かべながら身を震わせて訴えかけてくる、自称デートの相手。
あー、確かにそんな感じだったよな。
こいつってば元々対人コミュニケーション能力皆無の無表情少女だったところに、命を繋ぎ止めるためとはいえ現在は精神体のみの存在である夢魔の多世界同位体にされてしまっていて、かつての歌音自身の自意識的には単なる抜け殻状態のようなものだからな。
一応僕に対しては反応を示すし、自分の許を離れようとしたら自発的についてきたりはするけど、その様はまさに『背後霊』や『生ける屍』以外の何物でもないしね。
ちなみにネット上の『ラプラスの悪魔たち』の登場人物としてなら、『歌音ちゃんカワユス♡』『むしろ無表情なところがいい』『僕も歌音ちゃんに背後霊になって欲しい』『「学○を出よう!」の春奈ちゃんを実写化したらこんな感じ?』などと、読者の皆様からは大好評なんだけど、あくまでも現実視点で見ればこんなものだよな。
「いやまあ、歌音のことはこの際脇に置いておくとして。ところで僕に、何か相談事があったんじゃないのかな?」
「ああ、そうだった。すっかり忘れていた」
こちらの指摘を受けて慌てて姿勢を正す、正面のクラスメイト。
おいおい。人をこんなところに強引に連れ出しておいて、肝心なことを忘れるなよ。
「……ええと、それというのも、ハルヒコ君のことなんだけどお」
「えっ。あいつ、読心能力者の君にまで、コナかけてきたのか⁉」
ハルヒコとはいわゆる謎の転校生で、いつの間にか学園内に存在していた自称未来人でもあり、未来の便利道具でみんなの記憶を操作して自分のことを正式な生徒だと思わせようとしているのだけど、元々ここは異能の生徒ばかりを集めたサイキック学園なのであり、教師等のスタッフ陣もその道の専門家ばかりなので、もはや時代遅れの陳腐極まる未来の便利道具とか記憶操作なぞは通用するはずもなく、彼のことは生温かい視線で完全放置していたのだけど、それに気づいていないハルヒコ自身はクラスメイトである我が高等部一年A組の生徒たちに対して男女を問わずコナをかけてきて、将来時間SF小説を書くよう強制してくるといった、何とも不可解な行動を繰り返しているのであった。
「ハルヒコ君に校舎裏に呼び出されて告白されて丁重にお断りしたら、いきなり未来の便利道具を取り出して意識を操作しようとするのを、事前に心を読むことで気がついたので慌てて逃げ出したんだけど、それ以来クラス内で彼と顔を合わせるのが気まずくて……」
「自分の心を読むことのできる読心能力者に対して何をやっているんだ、あのエセ未来人。ああ、あいつは相手にしなくても大丈夫。どうせあいつは量子論的には本来あり得ない存在でしかないんだから」
「え? 未来人って、量子論に基づけば存在し得ないわけ? だったら時たま人が変わったようにして、『今の私は現代人の明日奈未来ではなく、精神的には未来人である明日奈(大)よ』なんてわけのわからないことを言い出したりする、二年生の明日奈先輩もなの?」
「いや、あっちのほうは、ちゃんと量子論的に正しい未来人だよ」
どうせなら谷○流も、同じ肉体で一人二役的な精神体憑依型未来人の、ミクルちゃんだかクルミちゃんだかにすればよかったのに。
「他にもクラスメイトに限らず上級生も含めて自分のことを、大宇宙の超知性体から派遣された対地球人用の有機体インターフェイスであるとか、異世界のお姫様の生まれ変わりだとか、いかなる悪霊も調伏することのできる陰陽師だとか、唯一絶対の未来予測ができる予言者だとか、必ずただ一つの真相や真犯人を突き止められる名探偵だとか、心の中で信じ込んでいる人たちばかりなんだけど、何でみんなそんなに能天気なの? 世間の人たちがこの学園のことを何と言っているのか知らないわけ? 『自分のことを超能力者だと信じ込んでいる可哀想な子供たちのための開放病棟』なのよ? そういったとち狂った思念ばかりを読心させられている、こっちの身にもなってもらいたいものだわ」
普段は温厚な彼女には珍しく、本気でうんざりと表情を歪める同級生。
「いや、それは読心能力者である君だって同じようなものであり、お互い様だろうが?」
何せこちとら世間様の目から見れば、全員『悪魔憑き』なんだしな。いわゆる、『うちの病室にはハ○ヒがいっぱい』ってやつだ。
しかしそんな僕のおためごかしは、かえって逆効果でしかなかった。
「──それくらい私だって、わかっているわよ!」
「おわっ⁉」
突然大声を張り上げた少女の剣幕に、思わず身をのけ反らせる同級生の少年。
店内のすべての視線が、一斉に向けられてくる。
「私、読心能力を手に入れたことでむしろ、人の心というものがわからなくなってしまったの。どうして、どうしてなの? 私の読心能力はもちろん、『Lの悪魔』が私たちに与えてくれた異能はあくまでも量子論に基づいたもので、唯一絶対の読心や未来予測を実現するようなものではなく、実現し得るあらゆる可能性を算出するものでしょうが? それなのに何でみんなは本気で心から、未来人や宇宙人や異世界人や陰陽師や名探偵気取りになれるわけなの⁉ そんなものなんていまだに古典物理学に呪縛された、『ラプラスの悪魔』の再来のようなものじゃない!」
そう悲痛に叫ぶや、顔をうつむけ黙り込む、読心能力者の少女。
……そうか、この子も同じことに気づいていたのか。
僕がこの学園の生徒たち──いや。この国のSF小説界に限らぬ出版界全体をいまだに呪縛し続けている決定論の落とし子たる、エセ全知全能の小説の主人公たちを揶揄して、『ラプラスの悪魔たち』というタイトルのネット小説を創ったように。
やはりあの夢魔の我が国のSF小説その他に対する厳しい指摘は、正しかったというわけか。
『──うふふ。当然でしょ? 何と言っても私は真に全知全能なる、純粋に理論的な生体型量子コンピュータにして多世界の住人たる、夢魔なのですからね』
いつの間にかスマホに表示されていたテキストメールを横目に、僕は我が身を呪うあまり今やすっかり失意のどん底に陥っているクラスメイトに対して、優しくささやきかける。
「しょうがないさ。そもそもこの学園の生徒たちも御多分に洩れず、既存の小説の決定論的主人公たちにあこがれていたのだから、『Lの悪魔』からは一見決定論的にも見える異能が与えられているというわけなんだよ」
「えっ、そうなの? 例えば自称名探偵の、栗栖樽栗栖先輩なんかも?」
「ああ。彼女に与えられているのはれっきとした量子論的異能である死期予知能力と殺意察知能力なんだけど、それらを巧みに使いこなすことで唯一絶対の真相や真犯人を突き止めることを成し遂げて、まさに決定論的全知全能者である『名探偵』を演じているのさ」
「……ええと、ということは、つまり?」
「言うなれば別に現在のSF小説等における決定論的登場人物たちを全否定する必要はなく、多世界解釈量子論に基づいて文字通り解釈をし直すだけで、真に理想的で現実的な小説の登場人物として生まれ変わらせることができるってわけなのさ。──何せそのための実験場としての、『L学園』なんだからね」
「この私たちが現在強制的に収容されているL学園が実は、多世界解釈量子論によって決定論的登場人物たちを生まれ変わらせるための実験場ですって?」
「ああ。よっていつの日か、すべてのSF小説の登場人物が真の論理性と現実性を手に入れた暁には、僕たちも晴れて俗世間へと帰還できるって次第なのさ」
「じゃ、じゃあ、まだまだ希望はあるってことね⁉ よかったあ〜」
僕の言葉にすっかり安心し、その豊満な胸に手を当てて、ほっとため息を漏らすクラスメイトの女の子。
その姿(の主に胸元)をいかにも邪な目つきで──もとい、優しげな瞳で見守る少年。
そんな心温まるシーンに横やりを入れてくるのは、スマホのテキストメールであった。
『あらあら。そんなのん気なことでいいのかしら。何か肝心なことをお忘れではなくて?』
へ? 肝心なことって。
「……待てよ。そもそもどうして君は、こんな学園の真の創設目的のような重大なことを、一介の生徒にしか過ぎない僕に聞いてきたんだ?」
彼女が『デート』に誘ってきた理由ばかりにこだわっていたものの、考えてみればこんな『相談事』をしてくることのほうがよほど不可解だったのだ。
「え。そりゃあ御神楽君が、『作者』だからに決まっているでしょう?」
「さ、作者あ⁉ 何のことだよ、それって!」
「だってあなたこそがこのL学園をモデルにした、ネット小説『ラプラスの悪魔たち』の作者なんでしょ?」
──っ。
「……どうして、それを」
「どうしても何も、御神楽君ったら、本名で作品を発表しているじゃない。うちのクラスはもちろん、結構学園内で知っている人は多いわよ。そもそもあんなにうちの学園で起こった出来事をまったく手を加えることなく実名をバンバン使って小説化しているんだから、作者が学園関係者であることなんて自明じゃないの。しかも本編早期に夢魔と契約を結ぶことによって、あなたが学園の真の目的までも知り得る立場にあることすらも明記されているんだし、こういった相談事を持ち込むのにはうってつけの相手じゃない」
ええっ。僕って学園の他の生徒たちからは、そういうふうに認識されていたの?
『よかったわね。きっとこれからも男女を問わず、モテモテになれるわよ』
いかにも他人事そのままのテキストメールを密かに寄越してくる、すべての元凶。
何がいいもんか⁉ 何このメタ構造。僕ってもはや、作者自身が自作の中に存在しているような立ち位置じゃないか。
そのように僕が混乱の極みに達していた、まさにその時。
「……何だと。君があの『御神楽響』なのか?」
唐突に投げかけられる、年齢の割には渋味が利いた声音。
「──あっ、あなたは⁉」
「高等部三年の『勇者の伝説の勇者』の、鏡勇先輩!」
そこに立っていたいかにもファンタジーRPG辺りに出てきそうな『冒険者』風の出で立ちをした年上の少年を見たとたん、思わず声をあげるクラスメイトの二人。
彼こそはこれまで千に上る異世界を救ってきたことで有名な、元勇者の鏡勇先輩であった。
元々うちの学園は多世界転移系の異能者の数が多く、いわゆる『魔王等を倒して異世界の危機を救った勇者』である生徒も別に珍しくはないが、四桁もの異世界を救った鏡先輩はさすがに別格で、学園最高のヒーローとして『勇者の伝説の勇者』の通り名で呼ばれていたのだ。
「た、確かに僕が御神楽響ですが、先輩のようなヒーローが、いったい何の御用でしょうか?」
学園最大のVIPの御機嫌を損ねてはならじと、極力低姿勢で問いかければ、何とVIP様のほうがこんな若輩者に向かって姿勢を正すや否や、頭を深く垂れたのだ。
「ちょっ。先輩⁉」
「君に何としても、聞き届けて欲しい願いがあるんだ!」
「は? 願いって……」
何だ? 僕は別にファンタジー異世界でお馴染みの、チート能力でも何でも望むがままに願いを叶えてくれる、『女神キャラ』なんかになった覚えはないぞ?
「それというのも、どうしてもやり直したい異世界があるんだ! 俺の異世界転移能力では別の世界に行くことはできるが、同じ世界の過去をやり直すことなんかできないし。かといってたとえタイムトラベラーの力を借りたところで、この世界の過去にしか行けないし。『他の世界の過去の時代』に行くなんてイレギュラーなことができるのはこのL学園広しといえども、作者である君だけなんだ!」
そう言って、今度は僕の両手を力の限り握りしめてくる、体育会系上級生。
いやだから僕はネット小説の作者に過ぎないのであって、この現実世界を小説そのままに自由自在に書き換えられるわけじゃないんだってば⁉
「……一度救った異世界への転移をやり直したいって、どうしてまた?」
そんな僕の当然といえば当然な質問を聞くや下げていた頭を上げ、真剣極まる鋭い視線を突きつけてくる、勇者の中の勇者。
「ただ一人だけ、救うべき少女を救えなかったんだ。今度こそ、彼女のことを助けたいんだ!」
『──おお。何だかすごく思わせぶりな場面で、次回に引いたものだよな?』
『ちょっと、あざと過ぎィwww』
『でもよ、これって結構気にならない?』
『は? 何がよ』
『いや、よくあるじゃん。こういった異世界転移やタイムトラベルもので、主人公が世界の建て直しや歴史改変に失敗して手のつけられないほど無茶苦茶にしたあげく、すべてをほっぽり出して自分だけ別の世界や時代へ逃げ出してしまうってやつ。それってその後その世界がどうなってしまったのか気にならないか?』
『ああ、あるある!』
『俺も気になっていたんだよ、それって』
『例えばメインヒロインが消失してしまったやつとか、シルベスター=スタローンの顔をしたキメラ型の鶏をむやみやたらと量産してしまったやつとか、すべてに絶望した少女が精霊から力を得て悪魔になって世界のすべてを破壊してしまったやつとかな』
『おいおい、いちいち具体例をあげるなよ』
『いろいろとヤバイしw』
『一応その後、主人公自身は他の世界や時代で事態を収拾するんだけどよ』
『肝心の元いた世界がどうなったかは、結局語らずじまいだよな』
『失敗した世界をほっぽり出したくせに、救世主気取りィwww』
『いやいや。主人公だったら、ちゃんと最後まで責任をとらなきゃ』
『つうか、作者自身だって、そこまで考えていないんじゃないのか?』
『一応、元の世界は「上書きされた」とか「分岐した」とか、ごちゃごちゃ言い訳はしているようだけど、論理的にきちんと決着をつけてはいないよな』
『──さて。我らが「ラプラスの悪魔たち」では、そこら辺のところを、どうケリをつけてくれるのかな?』