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曇天

作者: しろあん

 自分がここで得たものはなんだろう。失ったものは?

 僕は3年間をどう過ごしただろう。

 もう二度と来ることのない校舎の階段を上りながら考えた。

 卒業はゴールではなくスタートだ。とよく言われるが、確実に何かはそこで終わる。友達との付き合いかもしれないし、自分の感情かもしれない。それとも。


 校長や地域の会長は、定型文を組み合わせて作った祝辞を僕らに投げかける。僕らは暗記したセリフで3年間の思い出を語る。保護者席ではビデオカメラを抱え、画面の中の我が子を眺めている親達がいた。卒業式とはそういうものだ。

 式の後は、話したこともない在校生達が作った花道を歩き、知らない子に花を渡される。

「お前この後どーすんの?」友人Aが尋ねてきた。

 友人Aという言い方は、気取っているわけではなく、名前を覚えていないからこう言うしかないのだ。

「普通に生活して普通に死んでいく予定」

 普通の生活など送りたくなかったがとりあえずそう言っておいた。


 卒業式が終わった1時間後、僕は校舎の屋上に立っていた。

 僕は進学校と呼ばれるこの学校のこの校舎で学年トップの成績を取り続けた。日本で1番偏差値の高い大学にも合格した。親の希望通りの人生を歩み、このまま生きれば高給取りになれるだろう。妻も子供もできるかもしれない。休日には趣味を満喫する姿も頭に浮かんだ。

 だが僕は、誰の記憶にも残らないそんな幸せは求めていなかった。真っ直ぐに長く生きるのならば、瞬間を見つめて消えたかった。


「社会に出ても本校で培った強い意志を発揮し、社会貢献できる大人になってください!」

 と、卒業式で高らかに言い切った校長の姿を思い出した。

 僕は柵を乗り越えて屋上のへりにたった。そして、手を挙げ、叫んだ。

「僕は本日! この素晴らしい世界を! 卒業します!」

 今日が曇天で良かった。

 僕は屋上の床を蹴った。

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