2話 「双剣と美少女魔女」
家を出た俺は辺りを見渡す。
すごい騒ぎだ。それに俺のような『エクウェス』の奴らもみんな緊張を隠せていない。
場所は街のかなり外れの方らしいがそれでもこの国の王都だ。ものすごい被害が出るだろう。
ここ『バルテオン王国』は大陸の中心に位置し、その大陸で最も栄えている国である。
その王都が攻撃されたら国民の半数以上が死んでしまう。
「モンスターが近づいてきたぞー。急げー」
『エクウェス』であろう男が叫んでいた。
「俺達も行くぞー」
「集団で攻めよう」
「──俺も混ざるか...」
その集団に混ざり急いでモンスターのいる所へ向かう。
街中の人々が逃げ出している。
俺たちはその人々と逆の方向に向かっているわけだ。
だんだん人が少なくなってきた。
街の外れまで来たみたいだ。
そこにはたくさんの『エクウェス』達がいた。
『エクウェス』の中には色々な種類の者がいる。
一番人気なのは重装備で剣を使う「騎士」。
防具はあまり付けず剣技と素早さに自信があるやつは「剣士」または「ブレイダー」。
「騎士」に属しているが主に守備をするのが
「シールダー」。
そして、魔力に自信があるのが「魔術者」。
とくにその中の男を「魔法士」、女を「魔女」と呼ぶ。
「騎士」以外は服装や装備はバラバラだ。
ちなみに俺は「剣士」。
「騎士」は圧倒的に男の割合が高く、
「魔術者」はほとんどが女だ。
「バーラ。おーい」
「ん?おーー、トールじゃんか。久しぶりだな」
声をかけてきたのは親友のトールだった。
トールは小さい頃からずっと一緒に鍛えていた親友だ。
そして、トールは「騎士」になった。トールのお父さんも「騎士」なのだ。それも超有名な。
「今回の件は相当ヤバいやつだ。バーラ、大丈夫か?」
「ああ、全然怖くない。むしろ絶対に無事に帰る。トール、2人で帰ってこよう」
「うん。約束だ。」
「騎士の者、集合!」
「騎士」に号令がかかった。
トールは手を振って集合場所に走っていった。
その後、他のグループも呼ばれていき「剣士」達も呼ばれた。
「この丘を下ればモンスターがいる。今回のは「龍型」だ。気を抜くな。戦闘時はシールダーが前に行く。次に騎士、剣士、魔術者の順だ。報告によると、敵は攻撃した後、1、2分のインターバルが必要らしい。そこで一気に攻める。いいな」
「「「「「「はい!」」」」」
そして──
「出撃ー」
『エクウェス』総隊長であるトールのお父さんの声とともに丘を一気に下っていった。
坂が終わったと思った瞬間、みんなの緊張は一気に高まった。
「いたぞー」
1人の声とともにみんなはスピードを上げる。
普段ならみんな馬なんだが今回の移動は走りだ。
足を止めるわけにはいかない。
「グガゴオォー」
モンスターの鳴き声が辺り一面に響いた。
そして、俺たちは立ち止まり作戦通りの戦闘態勢に入った。
するといきなり龍型のモンスターが攻撃してきた。
口から燃え盛る炎を放出し街の建物ごと燃やしていく。
シールダーの盾と守護魔法で防ぐが何人かはその威力に耐え切れず吹っ飛ばされていた。
そして、情報通りモンスターはしばらく動かなくなった。
「突撃ーー」
その声とともに騎士と剣士、ブレイダーが一気に攻撃を始める。
俺もすぐさま飛びかかる。
「うおーーー」
ジャキッ。
体長6メートル程のモンスターの腹をカッさばく。
今回の『エクウェス』の数は490名。
普段とは比べ物にならない人数だ。
いつもなら30人から50人程のグループで別れ依頼や任務をこなしている。
だが、このような非常事態ではそんなことは出来ない。
全体では1000人以上いるらしいが他国やほかの街にいるものも多くこの人数である。
「もうすぐ一分です」
「下がれー」
その合図とともに皆が下がる。
そしてまたモンスターが動き出した。
今度は氷結系の攻撃。
魔術者達が火炎魔法で打ち消すが相手の残った氷が飛んできた。
前の方で何度もキンッ、カキンッという氷が弾かれる音が聞こえる。
だが── バリッ、バリッ。
「耐えきれません!くっー。」
パリンッ。
「うわぁーー」
守りが崩れたその時。
龍の目が赤く光る。
そして──
黒い翼から高威力の光属性のレーザーが広範囲に飛んできた。
ドドドドドォー。
目を覚ますと500人近くいたはずの集団は完全に姿を残していなかった。倒れ込んでいる者や、遠くまで吹っ飛ばされている者。
「な、なん...で。ぐはっ。連続で」
そうだ。こいつは連続で攻撃は打てないはずだ。
だがこちらが崩れたその時、やつは追加攻撃をしてきた。
それも高威力の。
「グオオォー。」
龍はまるで俺たちを嘲笑うかのように吠えた。
クソっ。
「クソッ。クソッ。クソッ。」
地面を殴り続けた。神を恨んだ。
こんなことになるなんて。
だが、もう逃げても無駄ってことは分かっている。
だから──
剣を取り俺は走り出した。
「うおおおおぉーーーー」
だが、龍の尻尾によって起こされた風で吹っ飛ばされる。
「もう1回、もう1回だ。絶対に最後まで戦わなきゃいけないんだ。」
「あの人は、まさか...」
そんな小さな声は俺には聞こえなかった。
可愛いらしいその少女の声に俺は気づかなかった。
「はあーーーーーーー。はっ!」
キーーンッ。
クソッ。
その時、龍の口が開く。
最期を覚悟した。
だが──
ヒューーン、ドドーンッ!
「ッ!誰だ!」
「大丈夫ーー?」
声を掛けてきたのはめちゃくちゃ可愛い超絶美少女だった。
「君は?」
「話は後。まずはこのモンスターを倒さなきゃ」
どうやら魔女の様だ。今までフードを被ってたから気づかなかったのか。出なければこんな可愛い子に気づかないわけが無い。
「でも、どうするんだよ。こんなやつ」
「...君なら。君なら勝てるわ。アレに」
「な、何言ってるんだよ。500人で勝てないんだぞ?俺一人でどうしろって──」
「君、今体が少しいつもと違わない?」
なッ──
その言葉に驚愕した。
そう、家を出る時は暖かいくらいしか感じなかった。
でもだんだん力が中から溢れるような初めて感じる感覚になってきていた。
「なんで分かった。君はいった──」
「避けてッ!」
ドヒューンッ。
この子が俺を助けてくれたらしい。
押し倒されているような体勢だ。
ムニュッ。
ん?
「んにゃっ!ひゃー!」
まさか...
「ご、ご、ごごごごめんなさい!」
謝ったがめちゃくちゃ鋭い目付きで睨まれた。
てか、胸デカッ!
あーいかんいかん。こんな時に。
「それで、俺はどうすればいい?」
彼女はしばらく黙り込むと、
「剣に。君の剣に君の意思を、気持ちを込めて」
「は?俺の?」
ドドーンッ!
ドカッ!
攻撃を躱しながら会話する。
「時間がない。急いで!君なら出来るよ。絶対に出来る!」
「...分かった。やってみる。」
絶対に倒す。みんなはまだ生きてる。こいつを倒して絶対にみんなを助ける。
「行くぞ!龍のモンスター。うおおおおぉーーーー」
俺は剣に気持ちを込め振りかぶる。
その時。
俺の剣が光りだした。
「喰らえーーー!」
ザザザザザザサッ、シャキンッ!
龍の頭から横腹まで一気に切り裂いた。
「グァーー」
ドシンッ!
龍が倒れる。
「これは...」
「まだだよ。まだ終わってない。早くトドメを」
「でも」
と言って俺の剣を見せた。
先程の攻撃で刃がボロボロになっていた。
だがその心配はないというような顔で
「うん。」
と言うと
「君ならこの剣を使える。君のための剣だよ。」
そう言って彼女は俺に両手を出すように指示する。
そして、はいっと俺の両手の掌に自分の掌をのせた。
「こんな時に何を──」
「ううん。ふざけてる訳じゃないよ。私の魔力を流し込んだの。君の掌には今、魔力で作られた仮の剣がある。これでアイツをやっつけて」
まったく不思議な子だ。
この子は一体何者なんだろう。
だが、さっきからこの子の言ってる事やっている事全てが正しい方向に向かっている。
だから今回も彼女を信じることにした。
「分かった。君を信じる。絶対に倒してみせる。そして、君と他のみんなを絶対に助けるから」
「うん!」
彼女は少し頬を赤くして頷いた。
龍が起き上がってきた。
だが龍の前には俺しかいない。
彼女の言う通り俺はあたかも二刀流の様に構え、
一気に龍に向かって走る。
龍が攻撃してきたが俺はそれを躱す。
そして、覚悟を決めて両手にある見えない剣を振ろうとした時、俺の両手に眩しい青白い光が発せられた。
とても明るく、前が見えないくらいだった。
だが、龍の顔の前で光りだしたその光は龍には眩しそうだったが俺には少しも眩しくなかった。
そして次の瞬間。
バチバチッ、チュイーン、シュキンッ。
ボアッ、チュイーン、シュキンッ。
右手に稲妻と共に剣が現れ、
左手にも炎と共に剣が現れた。
「終わりだあぁーー。うおおおおぉりゃー」
ザザザザザザサジャインッ。
双剣で切り裂いたその傷口から燃え盛る火柱と全身に走る稲妻が起きていた。
「グオオォー。ガアァーー」
「あれが、勇気と希望と気持ちの強さから生まれる最強の剣、『英雄双剣・ディバイン』。
つまり、彼が『英雄剣技』を持っているということ」
そして、龍はまた倒れた。