第九話
その後、刑期が五千年追加された。
完全に八つ当たりだろう。番人の肩を壊したくらいで五千年なんて。左肩にしてやっただけでもありがたく思ってほしい。軍服にその場で両肩を外された俺の身にもなれ。番人のあんたらだったら即気絶もしくは失禁だっただろうな。
さらに、俺の両足にやたら重い錘がつけられた。少し歩くだけでいい運動になるぞ、これ。
けど、すっきりした。
俺も死のうかな。
どうせ俺なんて…
けれどこの状態では死ねない 。まず、鎖を固定する場所がない。
両足の錘に繋がる鎖を見て、溜め息を吐く。
舌を噛みちぎって死ぬのは嫌だ。血の臭いで死ぬ前に気がつかれそうだ。死ぬのなら、確実に死にたい。
爪で頸動脈を裂くにしても、定期的に整えられている。そこまでするかというくらいの拘束をされながら。おそらく過去に、実際にその方法で自殺をした捕虜がいたのだろう。
手っ取り早いのは、あの番人を怒らせて射殺なりなんなり殺されること。しかし今回のことで肩は外されたが、刑期の追加延長を告げられた時に、それなりに丁寧にはめられた。しかも何もされなかった。唾を吐きかけられたが、せいぜいその程度だ。
詐欺師のことは無造作に殺したくせに、俺のことは殺さなかった。最低でも腕か足の一本は切り落とされると思ったのに。
理由はわからないが、俺のことは殺せないのだろう。番人は俺に対して、敵意と殺意の込められた瞳と態度を見せた。
殺したいとは、番人だけでなく国民も思っているはず。それなのに殺されていない現状。何かしら圧力がかかっているのだろう。それもかなり偉い人間の。
国民の意見と対立してまでも俺を生かす理由とは。
俺にはわからないし、推測もできない。知りたいとも思わないが。
なにか刃物を手に入れる手段はないだろうか。…ないだろうな。番人から掠め盗るにも、錘のせいで動きは鈍く、難しい。何をするにも錘のせいで制限がかかる。
本当に、脱獄でもしなければ刃物の入手はできないだろう。
ならば、脱獄の機会を狙うまで。
どうせ刑期三十七万五千年だ。バレてもいい。今さら少し増えたところでたいして変わらない。脱獄しようとしたからという理由で殺されるのなら本望だ。
ついでに、言葉使いも直すことにしよう。脱獄できたとして、外に出たときに世渡りで困らないように。自分の言葉遣いは悪いことも、無愛想なことも自覚済みだ。
そうだ、詐欺師のあいつは確か口が上手かった。窃盗団に移動してからは、事を起こす前に、あいつが必ず視察しに行った。スパイとして抜きんでており、かなり活躍していた。あいつの口調を真似しようか。忘れないように。
飲み下せない気持ち。どう表現したら良いのだろう。悲しくて悔しくて、苛立って投げ出したくて、やっぱり悲しくて、空しい。
友人の死をどうにか認めた。強烈な喪失感と深い哀しみ。この二つの感情をどうしたらいいのかわからない。胸の内でぐるぐると渦巻くそれはきっと、単純に言い表すことができるものではない。結局はわからないのだが、わからないなりに胸にしまっておこう。溢れ出さないように、そっと。
ここで一区切りつきます。