第八話
食べて寝る。それ以外は体を動かす。
そんな毎日の繰り返しに飽きてきた頃。
「おい、三十七万年、お前に良い報せだ」
呼ばなければ食事を運ぶとき以外は檻にすら近づかない見回り番が、そんなことを言った。
良い報せとは何だろう。俺に関係あることとは何だ。
にやにやしている番人の顔を見上げた。
「あいつがお前に会いに来たぞ。名前、なんつったっけかな。ほら、お前がここに来るときに最後まで暴れてた奴」
「っ!」
間違いない。あいつだ。詐欺師だ。
嬉しかった。会えることも、会いに来てくれたことも。
「死体になってまでなぁ」
シタイニナッテマデ…
したいになってまで…
死体になってまで…
え、死んだのか?あいつが?何故…?
番人の言葉は理解できても受け入れたくなかった。
ニタニタ嗤っている番人に、手当たり次第に言葉をぶつけた。思い付く限りの暴言、嫌味、皮肉を。しかし番人の表情は変わらなかった
「おい、持ってこい。こいつに現実を教えてやろうじゃないか」
そして軍服姿の男が二人、布に包まれた横長の何かを運んできた。
その時点でわかってしまった。布からはみ出して見える箇所で、臭いで、見当がついてしまった。
「久々で、しかも最期のご対面」
楽し気にそう言った番人。
同時に布が外される。
そして露になる。友人の姿が。友人の死体が。友人だったものが。
焼死体だ。全身焼け焦げており、顔を見ても誰だか判別できない。焦げ臭さとヒトが焼けた独特な匂いが戦場を彷彿とさせ、心がざわめく。
友人にはささやかな黙祷を捧げた。
「こいつさぁー、ほんっとうにしつこくってよー。面会は禁止つってんのに会いたい会いたいって言ってきて。あんまりにもしつこいもんだから刺しちゃった。ま、仮釈放してたんだけどー、人殺しは人殺しだし?別に人殺しが一人くらい死んでも誰も困らないしね」
終始笑顔で話す番人。ふざけた態度に腹が立つ。
「ふざけるな」
「うん?」
直後、番人は苦痛に顔を歪ませた。膝をついて肩を押さえている。
アランは詐欺師を馬鹿にした番人を見下ろしながら、冷たく言い放つ。
「あんたなんか死んじまえ」