表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
檻と王女と元奴隷  作者: kuro
序章
4/21

第四話

 昼休み。

「アラン!スウィン!」

 一番隊隊長、ヒューの声。

 ここ数日で聞き慣れてしまった上官の声。

「ちょ、俺はいいですけどアランはちゃんとコードネームで呼びましょうよ」

 詐欺師は入隊式の後、本名を言いたがらず、スウィンという仮の名前を隊の名簿に書いた。アランは一応本名を名簿に書いたが、通称窃盗団と隊内で呼ばれる二番隊に配属されたのだ。二番隊は諜報活動が主な仕事なので、本名ではなくコードネームを使う決まりで、シン、という名がアランのコードネームだ。

「あれ、窃盗団なの?」

 きょとんとして首を傾げたヒューに、無言で頷くアラン。

「そーなんだ、かわいそうに…」

「何がかわいそうなんです?」

「ああそっか、スウィンは知らないか。二番隊は訓練がかなり厳しいんだよ。スパイだけど戦闘もできなきゃいけないし、勿論、隠密行動もできなきゃいけない。バランス良く、とかじゃなくて、全てに高い水準を求められるんだ。本来はいきなり数字隊に配属されないし、しかも二番隊なんて異例なんだ。普通は色彩隊で経験を積んで、そこから数字隊に移動する。数字隊って言ってもほとんどが、最下層の九番隊からだろうけど」

 ヒューが言いながら煙草を吸い、言葉と一緒に口から煙を吐き出す。

「そう。だからシンだけでなく、スウィンも異例なんだ」

 一番隊副隊長、メルビルがヒューの背後に現れてそう言った。

「バレたか…」

 ヒューは渋い顔をした。メルビルはヒューの後ろ襟を遠慮なく掴むと、訓練場へと引きずり始めた。

 もうこの光景も見慣れたものだ。

「行きますよ、隊長。その放浪癖もいい加減どうにかしてください」

「メルビルのケチ。ちょっとくらい部下と話してたっていいじゃん。ねえ?」

 ヒューに同意を求められたアランと詐欺師。アランはメルビルをちらりと見ると沈黙し、詐欺師は苦笑いをした。

「スウィン、お前も手伝え。こんなんでも一応お前の直属の上官だぞ。仕事放棄もいいとこだ」

「第一訓練場ですか?」

「いや、四だ」

「わかりました」

 詐欺師は一番隊に配属されたのだ。身体能力は他人より多少優れているだけなのだが、ヒューに気に入られたためか一番隊になってしまった。

 親隊員の配属先を自由に決められるほどの権限がヒューにあるということは、ヒューの強さと信頼が隊内で認められているということだろう。そんな人に期待されていることは嬉しくもあり、重圧でもある。

 詐欺師はヒューの手首を軽く握る。

「俺は少し二番隊を覗こうかな。シン、二番隊はどこの訓練場だ?」

「午後からは鬼ごっこをするので、二番隊は軍の敷地内に散ってます」

 昼から夕方五時までずっと鬼ごっこだ。

「鬼ごっこか。…こんなところにいていいのか?」

「他の隊の訓練に混ざろうと思ってるので大丈夫です」

「なるほどな。ジョンは今何してるかわかるか?」

「ジョン、って隊長のことですか?」

 アランは二番隊隊長の名前…コードネームを知らなかった。隊長と呼ばれていて、ちゃんと名前で呼ばれている場面は見たことがない。入隊して次の日に面会したが、アランは自分のコードネームと訓練予定を告げられただけで、自己紹介などなかった。

「ああ、そうだ。副隊長のクレイグの居場所でもいい、知らないか?」

 副隊長のクレイグは、オリエンテーションのようなことを付きっきりでしてくれたので覚えていた。クレイグ、という名前もコードネームなのだが。

 二番隊では、本名をできる限り隠すことが決まりだ。隊長と本人、既に知っている人以外、誰にも知られてはいけない。互いにコードネームで呼びあうのだ。それを他の隊も承知している。…はずなのだ。とくにヒューは一番隊隊長なのでわかりきっているだろうに。

「中庭の地下で麻雀をしてると思います」

 そんなことを思いながら記憶を辿り、メルビルに言う。

「わかった。ありがとう。隊長、午後の訓練少し遅れます」

 後半、メルビルはヒューに向けて声を張った。

「はーい。わかったー。ありがとねー」

 遠くから間延びした声が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ