第三話
無事、入隊を果たしたアランと詐欺師。入隊検査を受けたその場で入隊を告げられた。
試験とは言いつつも、ほぼ実戦だった。しかし二人にとっては都合が良かった。どんなに卑怯な手を使っても、勝てばよかったからだ。
試験官の男は屈強で、受験者のことを殺しはしないが、容赦なく斬りつけた。そのため医療班も待機していて、失血死になる可能性があると見たら笛を吹いて試験官を止め、手当てをしていた。場合によっては病院に搬送する手筈を整えていた。実際に数名、連れていかれていた。
アランは軍隊から受験者用に貸し出されていた武器の中から、どこにでもある安っぽい短刀を借り、試験に挑んだ。短刀の扱いは、奴隷時代にみっちりと叩き込まれたので多少は自信があった。試験官は刀を持っていたが、瞬発力はアランの方が上だった。試験開始の笛がなった瞬間に試験官の懐に入り込み、喉元に切っ先を突きつけたのだ。
詐欺師は何も武器を持たず、素手だった。笛の音が鳴るやいなや、足元の砂を蹴って試験官の視界を奪い、その隙に自分より圧倒的に頑強な男を投げ飛ばした。その後、隠していたナイフを仰向けになった試験官の右目の真上でゆらゆらさせて、にこりと笑った。
後から知ったが、試験官は一番隊の副隊長だった。実質軍隊での二番手だ。卑怯な手を使ったとはいえ、試験で負かしたのは二人が史上初らしい。また、試験の場には一番隊の隊長もおり、二人に直々に手合わせをしたいと言って笑った。
細身で常にへらへらしている一番隊の隊長は、人当たりが良かったが隙がなく、どこか飄々としていた。詐欺師に似た雰囲気を纏っていたが、目が爛々としていて、狂気を滲ませていた。余程手合わせをしたかったのか、二人を軍隊の鍛練場に連れていこうと腕を掴もうとしてきた。そうしたら副隊長に有無を言わせず、おそらく宿舎があるのだろう方向に、引きずられて行った。体格からして力では副隊長に敵わないのだろう。隊長は文字通り引きずられていたが、それでも大声で「またねー‼」と叫んでいて、二人まで注目を浴びてしまった。
「変わってるが、強いぞあいつ」
「あいつだなんて言わないの。正式に入隊したら俺たちの上官になる人なんだから」
「そうか」
アランは興味なさげに相槌を打った。
「とりあえず入隊できたし、良かったね」
「そうだな」