4. 再会
「そんで、もう1人はまだか?」
そうアドルフへ問うセドリックだったが、実はそのもう1人がどうしているかは分かっていた。しかしならば何故わざわざアドルフに問い質したのかと言えば、その意図を探るためである。
「まだ此方へ着くまでには時間が掛かるそうですが……」
「…ふうん?」
「どうかされましたか?」
「アンタはもう其奴に会ったことがあるのか?」
質問の意図が見えず、アドルフは首を傾げる。セドリックは、アドルフの様子を見てどうやらまだ一度も会った事がないように感じた。任務に綻びが出ない様にする為、王がそのように命じたのか、はたまたいつものお茶目でセドリックを驚かそうとしているのか定かではないが。
やれやれと息を吐いたその直後、アドルフの背後から突如何かが現れた。それを予期していたセドリックが左手を翳し何かを呟くと、その何かはそのまま後ろへと吹き飛びそしてそのまま木に激突した。
「全く、相変わらずだなぁアンタは。」
その何かの目の前までセドリックはわざわざ転移魔法を使い移動し、思わず口角が上がる。
「…イテェなあ、少しは加減しろ。」
「嫌だね、特にアンタみたいなのにはアレで十分だ。」
「十年ぶりだと言うのに随分な口をきくな、セドリック」
「アンタがいると聞いていたら、俺はわざわざ出てこなかったぜ?ローランド」
吹き飛ばした相手とセドリックが仲良く話をしているのを見て、アドルフは混乱する。
彼、ローランドは、セドリックが王に拾われ王宮で過ごした十年もの間、幾度となく彼へ突っかかり、何度も勝負を挑まれては返り討ちにし、勉学も武術も共に学んだ所謂学友、同期と呼べる唯一の存在であった。
ーーーーーーーーそして、アドルフは知っている。
「あ、あの!!ローランド様とは、その、宮廷司祭のローランド・リー・カルヴィン様でしょうか…!?」
「…まぁ、一応そうではあるが」
まるでそれがどうした、とでも言うような態度にアドルフは目眩を覚える。ローランドは、宰相の次の地位にある宮廷司祭にその身を置いてはいるが、其の実、その本当の姿を見たものはいないと噂されている。
本来であれば、その姿は少なくとも宮廷内には知られていて然るべきだが、実際に姿を見たものでさえ、どんな姿であったか薄ぼんやりとしか分からないという。単に記憶に残りにくい容姿であるという話が出回っているが、アドルフはそれが出鱈目であることを理解した。
ローランドは外見に関して言えば、持て囃されてもおかしくはない程整っていたのだ。何より赤い燃えるような髪に、濃紅に光る瞳。
「アンタが司祭って柄かー?気性が荒くて毎回俺に喧嘩売ってくるのに、務まらねぇだろ?」
ケラケラ笑うセドリックにアドルフはさらに目眩がする。まさか、こんな重鎮達と仕事をするとは思っても見なかった。
しかしセドリックからすれば、旧友と、新人と王から任された仕事をするだけなので何も気負うことがない。
「王もお茶目だよなぁ。ローランドの事なんて一言も言わないんだぜ?」
「王の事をお茶目だとか言うのはお前くらいだ、また宰相に怒られるぞ。」
「んー、もう慣れたし。時間が長いからめんどくせぇだけなんだよ」
「自由人なのも変わんねえな」
楽しそうに談笑するローランドとセドリック。ちなみに一応敵地なのだが、彼らには関係がないらしい。