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2. 森から離れて








森の中にある自分の住処は今やとても充実していて、とても手放しがたいが仕方がない。この土地を治める、謂わば王と呼ばれる存在にその力を認められて自由に過ごすことを許す代わりに時が来たら、その力を貸さなければならなかったのだ。



本来セドリックはーーーー現在生を受けて25年だがーーーー十年前から国に務めなければならなかったのだが、その性格上どうにも宰相と馬が合わず王に直談判したところ、現在のように自由にやれていたのだ。




十年ぶりに、仕方なく国へと戻る為瞬間移動魔法を使用する。これも中々使うこともなかったのだが、仕方がない。





「…はぁ〜、お前らとも暫くお別れだな。下手したら帰れねえし?」



そっと、十年間世話になった妖精たちに触れ、お礼を言う。彼等は話が出来るわけではないが、相手が能力持ちであろうが人であろうが、その感情に敏感に反応する。とても気難しく、友好的とは言えない。人前に姿を現わすことも珍しく、どうやら向こう側では伝説の生物として扱われているらしい。



そして妖精は透明なよく磨かれたガラスのような羽を持ち、繁殖期には金色に輝く粉を出す。それらはとても高値で取引されており、一攫千金を狙った不遜な輩が時々この森にもやって来る。大抵はセドリックが魔法により向こう側にある王国へと飛ばしてしまうのだが。




寂しげに擦り寄る妖精たちに、セドリックもなんだか少し寂しくなる。しかしそうも言ってられず、この時用に準備していたテントや道具を、自分の異空間倉庫へと入れ込む。これもセドリックが独自に編み出した魔法で、異空間に倉庫を作り無制限に物を仕舞えるようにしたものである。






「…よし、こんなもんだろ。後は…あぁ面倒くせぇ。魔力感知の道具があるから偽装しねぇと…」




そして乗り込むにあたり、さすがに向こう側の人間も馬鹿ではないので能力を感知する道具を作り上げ、国内への能力者の侵入を防ぎ始めたので、これをどうにかしなければならない。ちなみに、セドリックは自身の放出魔力を最小にし、ほぼ向こう側の人間と変わらぬ力まで落とす事が可能だ。まぁ勿論、そう見せかけているだけなのでその状態であろうが能力を使う事に特に差し障りはない。




「…これでいいか。じゃあな、妖精さん。世話になった。また戻って来る事があれば…美味いもんでも持って帰って来るさ」



セドリックはそう言い残し、森から姿を消した。セドリックの作った住処は今や妖精たちの隠れ家となっている為、敢えてそのまま残した。魔力のない人間、セドリックに魔力で劣る能力者には見つけることも出来ない不可視の家。せめてもの置き土産に、と残したそれが、後の世で国宝扱いされる事になろうとは、セドリックは露ほども知らないのであった。




それはさておき、森を離れ、久しぶりに国へと戻ったセドリックが最初に訪れたのは。



「………」



死者を弔っている、墓地。


其処には、セドリックの父と母の眠る墓があるーーーーはずなのだが。



名が刻まれているのは、母親のみ。父親の名は無い。




特に何を言うでもなく、墓の前で膝を折り、花を置き、手を繋ぐように祈るーーーーそしてすぐにその場を去った。




その次に、セドリックが降り立った場所は、王国の城内。そう、それもーーーーーーーー





「バルバロッサ国王、お久し振りでございます。」



玉座の間と言われ、王とその側近以外は出入り不可能な場所である。




「…十年ぶりだと言うに、相変わらず心臓に悪い奴よ。いきなり現れるなと、何度言えば分かるのだ?」

「これが私です、ご容赦を。」

「固くなるでない。セドリック、お前は余の切り札であり…友なのだからな。」

「…なら、失礼して。突然呼ぶのは勘弁してください、森の妖精が騒ぎます。何かと思いましたよ本当に」

「それは悪い事をした。余でも見たことの無い妖精をお前は簡単にあやしてしまうのだから恐ろしいやつよ。」

「妖精たちは臆病なだけなんで許してやって下さい。…って、こんな事話しに来たんじゃねえや。王よ、本題へどうぞ」




ニコニコと人の良さそうな笑顔を見せる王に、セドリックはいつも気が抜ける。王というのはもう少し威厳があるべきだ、と言えば、お前の前くらい許せ、と言う。今はいないが、宰相がいれば間違いなくセドリックがどやされただろう。



話が逸れてしまったので修正すべく、本題へどうぞ、と入りやすいようにセドリックは言ったのだが、どうやら王はもう少し世間話がしていたいらしい。困った王である、と思うが、こうしたところが国民にも支持されているのだろうと思うと一概に悪いとも言えなかった。




「話ならまたそのうちする機会があるでしょうよ。大体、今回は急を要するっていうからこんな急いで出てきたってのに」

「それはそうなのだがな。お前を見るとどうも余は興奮してしまうのだ、許せ。」

「…宰相に怒られますよ、俺は知りませんからね。」

「あ奴は口煩くて敵わん。そうでなければ困るが、何もセドリックの事まで目くじらを立てずとも良いと言うに。」


王は、ああ困った、と微笑む。一切困っていないだろう、セドリックはそう思うがこの王の考えていることは計り知れないので下手に詮索をしない方が身の為というものだ。




「さて、本題であったな。セドリック、お前には向こう側に潜入して貰う。既に2名、お前程では無いが使えるものを五年前より潜入させておる。既にバロック王国への侵入は済んでおり、お前には城内…向こうの王に取り入って貰いたいのだ。ーーーー期限は五年、この意味が分かるな?」


「…はい、勿論。」




戦争を待てるのが、五年。あるいは、準備完了までに五年、そういうことであろうか。








「出来るだけ奥まで入り込め。そして内情を探って貰いたい。



ーーーーさぁ行け、我が懐刀よ。その力、国の為に振るうが良い。」




「はっ、ーーーー我が力は我が王と国の為に。」





それだけを言い残し、セドリックは姿を一瞬にして消した。特に驚くこともせず、王はそれを満足げに見つめるのみ。




「…さて、どうしたものかの」





宰相を呼ばなかった事への言い訳を考えつつ、小言に対する返しを考えつつ、ーーーーこれからの国の動き方に目を向ける王であった。













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