1. プロローグ
ーーーーーーーー世界に存在する種族は、大きく二つに分けられた。
異能力や超能力を持つ者と、持たざる者。
力を持つ者の数はごく僅かである。能力者が生まれる確率は低く、血筋により形成されることも少なくは無いが、大抵は突然変異によるものであった。
その力は、異能力を持たざる者……ただの人族が百人でかかっても圧倒されてしまうほどの力であり、その力も個人の能力に依存するものであった。過ぎた力は排他すべき、いつの時代もこのように考える輩が後を絶たない。
この世界も同じであった。最も人の中では気高く誇り高い筈の王族は、その強大な力を恐れた。そして迫害し、追いやったのである。共に歩むことなど頭には無く、その力を遠ざける為に動いた。能力を持つ者は、女なら《魔女》として、男ならば《魔使い》として処された。しかし一方的に迫害された能力者達は、当然反対勢力として同じ力を持つ者を集め、やがて一つの土地を支配した。
それは人では決して踏み入る事のできない険しく恐ろしい魔獣のいる、しかし豊かな土地。
森の中も美しく、大きなくくりで言えば能力者である妖精が集まる森もある。
ーーーーーーーーそこに、一人の男が居る。彼は森に暮らし、森と共存する。
勿論、能力者であるが、見た目は人と何も変わらないのだ。強いていうならその瞳の色は少し灰色がかっており、どちらかといえば白っぽい。そんな瞳とは対照的に、髪は黒い。何者にも支配されない漆黒が、そこにはあった。
大きな塊肉を骨ごと火で炙ったものに齧り付き、寄ってくる小さな妖精には木の実を施す、黒髪の男。
その男の名は、セドリック。この物語の主人公である。
「あー、うま。やっぱコレだよなぁ、妖精達は食べられないから仕方ないけど、木の実で腹は膨れない」
こと、食に関して言えばあまり執着はない、肉以外には。そういうことである。腹が満たせて、それが肉なら尚更良い。調理法は火で焼けば腹を下すこともない、それがセドリックの考えであった。
しかし美味いものを食べたいという欲はある、しかしこんな森では中々難しい調理法などできっこない、だから火で焼けば美味い肉が良いのだ、そうだ、と本人は自分に言い聞かせている。
妖精達から木の実の代わりに情報を貰い、背伸びをして今日やることをおさらいする。というより、セドリックの森での隠居生活は終わりを告げるのだ。
今日からセドリックは、人の中へと潜り込みその内情を探るスパイになる。
ーーーーーーーーそう、彼は情報屋、兼密偵である。
そんな彼の、波乱万丈な物語。