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19 西堀さんのSNS

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 西堀さんのアカウントには一つの記事しかなかった。大学時代には毎日のように投稿していて、多数のフレンドに支持されていたはずだ。記事の名前は「ごあいさつ」だった。コメントが三十六件も付いている。


 ご訪問ありがとうございます。

 いつも私の書く詩のような日記のようなものをご覧頂き、

 それから時にはコメントを下さり、感謝しています。

 私は思うところがあり、ここ二週間ばかり更新を止めていました。

 小学生のころから日々欠かすことなく投稿をしていましたが

 最近では荒んだ内容の文章が多くなり、

 心ある方の心配をお掛けし申し訳なく思っています。

 いつまでも皆さんの目の届くところで弱音や嘆きを続ける事も忍びないと思い、

 しばらくは投稿を止めていたのでした。


 私には、小さな頃から持っている大きな箱がありました。言葉を入れておく箱です。

 ひとしきり言葉が溜まると、わたしは大きな箱に言葉を入れるのです。

 それは、どれだけ言葉を入れても満たされる事のない大きな箱でした。

 私はその余白が大好きだったのです。

 いっぱいになるまで、いったいどれだけの言葉が入るのだろう。

 いっぱいになった時、わたしはどんな美しい言葉を手に入れているのだろう。

 

 私は大人になり、箱はいっぱいになりました。

 残っている言葉は、荒涼とした廃墟に漂う木枯らしのようなものばかりでした。

 大人の世界では、風のやわらかさや陽のあたたかさに喜ぶ肌は必要ないのです。

 私は手元あった大きな箱を、「からっぽの部屋」に移すことにしました。

 それは誰もいない、何も聞こえない部屋です。

 大きな箱に封をすると、私はさよならを言って部屋を出たのでした。

 

 そうして新しい言葉、できれば強い言葉が生まれてくるのを待ちました。

 でも、なかなかうまくはいかないものですね。

 一日が過ぎ、一週間が過ぎて、私は荒涼とした木枯らしに耐えきれなくなり、

 何もない部屋に逃げ込みました。そして大きな箱の封を開けました。


 私は一週間かけて、すべての言葉を一から読み直しました。

 今に比べれば、拙いところも、過剰なところも見受けられます。

 それでも、心は心です。

 しばらく乾ききっていた私の風景を、滞りなく潤してくれます。

 そして気付いたのです。

 言葉を生み出さない私は、心を失ったも同然だという事に。


 この場所で十年以上も私の文章を見に来てくれる方もいます。

 個人的に文通のようなものを交わして下さる方もいます。

 私にとってそれこそが何よりの支えでした。

 現実の世界では得難い、偽りのない宝物となりました。

 

 私の投稿はこれでおしまいです。

 けれど、私と同じような心を持つひとは、たくさんいます。

 きっと私以外にも、別の景色を見せてくれる人がいるはずです。


 どうか、風の音を聞く耳を失わないで。

 陽の光を浴びる肌を失わないで。

 景色を持つ心を、最後の時まで見失わないでいてください。

 それが私の望みです。


 僕は読み終えて、改めて投稿日時を見た。今日の日付が変わった瞬間に投稿されていた。僕は立ち上がり、底冷えのするフローリングを歩いて、左手の部屋にやってきた。押し入れを開けて段ボールの中を見る。スマートフォンのLEDライトを点灯させ、詳しく覗いた。ノートのほかに、プリントアウトされた紙の束がファイリングされている。開いてみると、それはSNSの記事レイアウトを印刷したものだった。

 押し入れに面した壁に背を預け、その場に腰を降ろす。西堀さんが、この場所に座り、昔から書き溜めたものを片っ端から読んでいる姿を想像した。左手の部屋は相変わらず底冷えがしたし、部屋の中は何の音も聞こえなかった。


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