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1.プロローグ
雨は夜明け前に降る。
射干玉の闇が一番深くなる頃、激しく降り注ぎ、世界を洗う。
それは大地には潤いと恵みを齎し、深更の森に蠢く獣の血生臭い狩りの痕跡を流し去る天空よりの賜物。
人間には――
咎人の秘された罪、嬰児の安らかな眠り、そして甘やかなる恋人達の逢瀬を守り隠す銀幕、水の帳。
そうして曙の光とともに去ってゆく。
それは世界がここに在る限り連綿と繰り返し、違える事のない天と地の約束事。
だからこの世界の夜明けはうつくしい。
例え、今日がどんなに暴虐と不条理に塗れようとも。
この世界では雨は夜明け前に降るのです。