侍女、確認する
「キャシー、マーガレット、ベス、いる?」
セーラ姫さま付きの侍女の控え室に私は出向き、ノックし、どうぞの掛け声のあと扉を開いた。
「マリア様!?」
中には3人が、向かい合ってお茶を飲んでいた。私を呼んだ声には、普通の響きではない、疑問符が付いているように感じられた。
私はドアを音を立てないように静かに閉めてから、姿勢を正した。背筋を伸ばし、手の平をお腹の前で重ねる。
「姫さまが、城内にいらっしゃらないの」
そう言うと3人は、顔を見合わせた。
「それは、どう言うことですか?」
「城外へ行かれたのね」
私ははっきりと答えた。
「城外へ!?」
「それならば早くお探ししなければ!」
「私達は、城外に詳しくはありません。あの、マリア様、行っていただけますか?」
姫君がいなくなったのに、この程度の反応。真偽も確かめず、うろたえることもない。私の考えは的中だ。
「それで聞きたいのだけれど、協力したのは誰?全員?」
3人は、顔を青ざめさせた。
私がそう聞いたのは、他でもない。姫さまはご自分一人で服を着られたことがないのだ。今回だって、自分一人で着たとは考えにくい。また、ほとんどいつも姫さまにべったり侍女3人組が、姫さまが2時間近く見えないと言うのに、全く騒がないからだ。おかしいと思うのに、時間はかからない。答えない3人組に、一つ溜息をついてから私は言った。
「全員なのね。発案者は誰?」
3人は一言も口を利かない。一斉に下を向いたままだ。
「黙っていては分からないわ」
「……」
「発案者が誰か分からないけれど、なぜみんなここにいるの?」
どう言うことだと言う空気が発せられたのが分かった。
「姫さまについていった人は誰かいるの?」
ビクッとマーガレットの肩が震えた。
「黙っていないで答えて頂戴」
ドスの効いた声を出したのが効いたのか、ベスが話し始めた。
「お一人で、行かれました」
「何を考えているの!城外に不慣れな姫さまを一人で行かせるなんて!何も知らない子供を一人で行かせるようなものよ!」
ビックリマークは多いが、そんなに大きな声を出したわけではない。そんなことをしたら、あっという間に城内に広まってしまう。事は必要以上に大きくしたくない。
「ですが、姫さまは絶対お一人で行くとおっしゃったのです。私たちがついていったのでは、マリア様は心配なされないからと。マリア様の忠誠心が分からないからと!」
逆に言う言葉を失ったのは私だ。
私の忠誠心が分からない???? なんじゃ、そりゃ。
「マリア様はいつも淡々と仕事をこなされておいでで、私の言うことにも反対が多いし、自分のことを大事に思ってくれていないに違いない。とおっしゃられて!」
「侯爵家の娘だから高く留まっているのだといつもおっしゃられていて」
「そんなことはないと私どもは申し上げていたのですが、じゃあ、確かめてみようと今回この様な行動にでられたのです」
「心配なら、絶対捜しに来ると!」
聞いてもないのに、3人は一気にまくしたてた。
言いたくて言いたくて仕方がなかったのだな。そして、自分達に非はないと言いたくて仕方がないのね。おかげでだいたいはつかめた。
国王陛下になんて言おう。家出は私が原因でしたってか。
高く留まってたつもりは更々ないけど、忠誠心がないって…。
これには正直びっくりした。
だが、今はそんなこといってる場合じゃない。
「それならば、なぜその計画ができたときに私に知らせないのです。そして、誰も付いていかないなんて!姫さまにもしも何かあったときの責任は、あなた達にあるのですよ!」
「え?!」
え?!って、そんなこと考えもしなかったんかい!当たり前だろ。「もうちょっと、こうしたらこうなるだろう」くらいの考えを持て!
「そんな」
って、べそかいても知りません。
「マリア様、姫さまを早くお探しに!」
そして私に責任を押しつける気か!こいつら!
「もう、衛兵に頼んでます。国王陛下にもご報告しましたから、私達がすべき仕事はもうありません」
キッパリと、姿勢をくずさず私は答えた。
「国王陛下に!」
3人が裏声で言った。
「当たり前でしょう。姫君がいらっしゃらないのに、ご報告しないわけには参りません」
「国王陛下のお耳に…」
「私達はどうなるのでしょう」
さっき、責任問題を押しつけたから、侍女3人組は、蚊の消え入るような声でべそをかきながら私に言った。知るか、そんなもんと言いたいところだ。
「責任は、追って沙汰があるでしょう。あなた達は、姫さまが帰ってこられたときの準備をしておいてください」
「はい。でも何をすれば…」
そうだな。部屋はもう暖かくしておいたし…。特にない?そうだ。
「玄関で待って差し上げたら?お喜びになりますよ、きっと」
姿勢を変えず、笑顔をつくった。場の雰囲気が穏やかになった気がした。とりあえず、あまり笑わない私の笑顔は、良くも悪くも効果があるのだろうか?
はい、と狼狽しながら消え入りそうな声で言ったのを確認して、私は部屋を出た。